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世界の大手酒類メーカーとCSRへの取り組み 加速する「脱アルコール社会」促進

ESG(環境・社会・ガバナンス)促進の一環として、アルコール産業でも企業や政府の社会的責任を求める動きが加速しています。「脱アルコール社会」の実現を目指す大手酒類メーカーや政府の取り組みとともに、低・ノンアルコール飲料市場の最新動向を見てみましょう。

低・ノンアルコール飲料の消費量 2024年までに約4割増?

適量の飲酒には食欲増進や血行促進、リラックス効果などのメリットがあります。ただし、過剰摂取は肝臓などの消化器や循環器、神経系統の疾患や、生活習慣病、急性アルコール中毒などを引き起こす原因になります。また、社会的信用を失うこともあるでしょう。

健康志向が高まっている近年は、若い層を中心にアルコール離れが加速し、脱アルコール製法で作られた飲料がトレンドになっています。脱アルコール製法で作られた飲料とは、アルコール成分がゼロあるいは1%未満の飲料のことです。身心の健康のためにアルコールの摂取を控える、「ソーバーキュリアス(Sober Curious)」という俗語まで生まれています。これは、「酔っていない」という意味のあるSober(ソーバー)と「好奇心旺盛な」の意味を持つCurious(キュリアス)の2つを掛け合わせた言葉です。

低・ノンアルコール飲料専門のバーが世界各都市で続々とオープンしており、ビールだけでなくカクテルやチューハイなど、低・ノンアルコール飲料の種類も増えています。
このような消費者の飲酒習慣の変化に伴って、一部の国ではアルコール市場が縮小し、低・ノンアルコール飲料市場が拡大しています。アルコール市場分析企業IWSRは、2020年から2024年までに世界の低・ノンアルコール飲料の消費量が34%増加すると予想しています。

コロナ禍で世界の飲酒量が増加 日本も約3割が「増えた」と回答

一方で、「新型コロナの影響が脱アルコール社会への移行の逆風になっている」との報告もあります。

コロナ禍でストレスや不安感が増す中、在宅時間が増えたことで「家飲み」の機会が増え、米国や英国、ドイツでは、2020年のアルコールの売上高が前年比で3~5%増えたことがOECDの調査で明らかになりました。EU(欧州連合)諸国では、アルコールに起因する家庭内暴力の通報が60%増えたといいます。

日本も例外ではありません。キリンホールディングスが月に1回以上飲酒する全国の20〜50代の男女1,000名を対象に実施した調査では、約3人に1人が「コロナ禍で飲酒の頻度、量ともに増えた」と回答しています。

「脱アルコール社会」への取り組み

このような流れを受け、酒類製造・販売企業による「作る責任・売る責任」の重要性がこれまで以上に問われています。単にアルコールを製造して販売するだけではなく、個人の体質や健康状態、生活環境などを考慮した適正な飲酒スタイルを推奨することが、企業側に求められているのです。具体的な取り組み事例を3つ紹介します。

1 アサヒ 脱アルコール製法の蒸留設備に5億円投資

「スマートドリンキング(飲み方の多様性)」を提唱するアサヒビールは、脱アルコール商品の製造能力を2倍に拡大することを目指し、2021年6月に5億円規模の脱アルコール製法蒸留設備を持つことを発表しました。

脱アルコール製法とはビールを醸造した後、低温蒸留でアルコール分を除去する製造手法のことです。ビール特有の香気成分を微妙に残すことで、ノンアルコールビールでは味わえない「ビール味」の微アルコールビールを製造できます。

同社はすでに脱アルコール商品「アサヒ ビアリー(アルコール度数0.5%)」を販売しており、ノンアルコールビールに物足りなさを感じていた消費者に支持されています。

2 アンハイザー・ブッシュ ノンアルコールビールへの移行計画

世界有数のビール製造大手であるアンハイザー・ブッシュは、アルコールの有害摂取撲滅に向けて、責任ある飲酒のイニシアチブやコミュニティベースのプログラムに10億ドル(約1,109億7,255万円)以上を投資しています。

これまでに複数の低アルコールビールを開発しておりますが、2020年には同社初のノンアルコールビール「Budweiser Zero」が発売されました。

「Budweiser Zero」は北米の男子プロバスケットボールリーグNBAの元トップ選手、ドウェイン・ウェイドとのコラボレーションによって誕生した商品。人一倍健康に気を使うスポーツ選手でも飲酒気分を楽しめるようと開発された「Budweiser Zero」は、本格的なビールの風味を残しつつ糖分ゼロ、1缶わずか50キロカロリーです。

3 オランダ アルコール飲料の販売規制

若者の飲酒量の増加が深刻化しているオランダは、国を挙げて「脱アルコール」キャンペーンを展開しています。7月1日に施行された新アルコール法では、セールによる値引率の上限が25%となったほか、ウイスキーなどアルコール度数が高い飲料のオンライン販売が禁止されました。

同国のアルコール専門知識センターでプロジェクトリーダーを務めるカルメン・ヴート博士は、「アルコール飲料の価格上昇と消費量減少を関連付ける強力な証拠がある」と主張しています。

「アルコールとの上手な付き合い方」の提唱は、アルコール産業の重要課題

その他、キリンは適切なお酒の飲み方として「スロードリンク」を提唱し、オリジナルの啓発動画広告を制作するなど、さまざまな取り組みが行われています。

「多量飲酒の危険性を頭では理解していても、つい飲み過ぎてしまう」という人は少なくありません。アルコールとの上手な付き合い方を啓蒙し、人々の健康に貢献することは、アルコール産業がCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)を実現する上で不可欠といえるでしょう。

「脱アルコール社会」の実現を目指す大手酒類メーカーの中、どの企業が積極的な商品開発を進めているのか、未来の投資を考える上でも注目していくのもよいでしょう。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。

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