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FRBの利上げコメントが景気回復と投資家にもたらす意味合い

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〔要旨〕

FRBによる最近の政策金利に関するコメントは、タカ派ではなく、相対的にハト派とみる:米連邦準備理事会(FRB)が晩夏から秋にかけてテーパリングの計画を発表し、2021年末までに開始すると予想

利上げの予想は、一部の人には少し早すぎるものである:しかし、世界金融危機時とは異なり、現在の景気回復は比較的急速

7月の雇用統計は市場予想を大幅に上回る—そして、一部の市場ウォッチャーはインフレ加速を懸念:雇用者数の増加と賃金の大幅な伸び、特に娯楽・接客業が予想以上に増加し、一部の人々は懸念を抱く

クラリダFRB副議長の発言はタカ派か?ハト派か?

FRBは2021年末までにテーパリングを開始すると予想。利上げの開始時期は2023年初とみるが、2022年後半の可能性も。ただし、利上げが開始されたとしても、金融環境は十分に緩和的

投資家は、世界金融危機よりも早いタイミングでFRBが金融政策の正常化を進めるとの見通しに困惑。しかし、現在の危機は①財政刺激策の規模、②危機の性質と解決策、③FRBの適切な市場との対話—の点で前回と大きく異なることには留意が必要

市場予想を大きく上回る7月の米雇用統計

市場予想を上回る雇用統計を受け、一部でインフレ懸念が浮上。ただし、その産業は娯楽・接客業など、従業員の入れ替わりが激しく、賃金の調整が容易なことから、インフレへの影響は小さいだろう

今週注目していること

①新型コロナウイルスの感染状況とワクチン接種、②ミシガン大学の5年先の消費者インフレ予想—に注目

今後の見通し

8月は、株式・債券市場ともに変動性が高まると予想

先週、市場ウォッチャーが懸念するような興味深い進展がいくつか見られました。しかし、私は、それらが前向きな進展であると考えています。

クラリダFRB副議長の発言はタカ派か?ハト派か?

FRBはジャクソンホール会議でテーパリングの開始について発表し、2021年末までに開始すると予想。利上げの開始時期は2023年初とみるが、2022年後半の可能性も。ただし、利上げが開始されたとしても、金融環境は十分に緩和的

まず、先週、米連邦準備理事会(FRB)のクラリダ副議長は、自身の発言において、量的金融緩和の縮小(テーパリング)がまもなく発表される可能性があり、2023年初の利上げの開始を予想していると示唆しました。多くの市場関係者は同氏の発言をタカ派的ととらえましたが、私は、そうではなく、むしろ、これまでの米国の全般的な経済成長、特に雇用環境を考えると、その発言はかなりハト派的と考えます。FRBが晩夏から秋にかけて(おそらく今月後半のジャクソンホール会議で)テーパリングの計画を発表し、2021年末までにテーパリングを開始すると強く予想しています。私は、2023年初の利上げ開始が合理的だと思いますが、その一方で、2022年後半に利上げを開始する必要があるかもしれないと考えます。それでも、十分に緩和的な金融環境です。

投資家は、前回の危機である世界金融危機と比較して早いタイミングでFRBが金融政策の正常化を進めるとの見通しに困惑。ただし、現在の危機は①財政刺激策の規模、②危機の性質と解決策、③FRBの適切な市場との対話—の点で前回と大きく異なることには留意が必要

では、投資家は、金融政策の正常化の兆候について、何を困惑しているのでしょうか。おそらく、それは、FRBが新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)に対応するために金融緩和を実施しはじめた後、相対的に早い時期に正常化が開始されると見込まれるためです。多くの市場関係者にとっては、FRBによる金融政策の正常化として参考となる枠組みは世界金融危機時にとられた措置であると考えられます。世界金融危機時では、金融政策の正常化の開始は、金融緩和に着手してから何年もかかりました。具体的には、FRBは2007年9月に政策金利を引き下げ、2008年12月に量的緩和を開始、その後、2013年12月にテーパリングを始め、2015年12月に政策金利の引き上げを開始しました 1

今回は、はるかに早いスケジュールで金融緩和から金融引き締めへ移行すると見込まれます。ただし、現在の危機は、前回の危機とは大きく異なっていることを忘れないでください。世界金融危機後の回復は、特に雇用に関しては、何年もの間かなり停滞していましたが、現在は比較的急速なスピードで景気が回復しています。また、今回の財政刺激策の水準が景気回復の要因であることも確かです。世界金融危機時では、米国の財政刺激策は国内総生産(GDP)の約6%の規模でしたが、パンデミックにおける財政刺激策は、今までのところGDPの25%となっています 2 。そして、現在の危機の性質と、その解決策であるワクチンの迅速な開発があります。ワクチン開発は、ワクチン展開における困難と新型コロナウイルスの変異株の感染拡大にもかかわらず、強力な経済回復を支えたゲームチェンジャーとなっています。さらに、FRBは、過去から学び、今回は金融政策の変更をより適切に伝えていると思います。

市場予想を大きく上回る7月の米雇用統計

市場予想を上回る雇用統計を受け、一部インフレ懸念が浮上。ただし、その産業は娯楽・接客業など、従業員の入れ替わりが激しく、賃金の調整が容易なことから、インフレへの影響は小さいだろう

第二に、7月の米雇用統計が発表されましたが、市場予想を大きく上回るものでした。特に娯楽・接客業において、雇用者数が市場予想よりも大幅に増加しましたが、非常に力強い雇用者数(上方修正後)となった6月に続く増加となったことは注目に値します。そして、7月の雇用統計では、特に娯楽・接客業において、賃金の大きな伸びが示されました。そのため、多くの市場関係者が雇用統計に満足している一方で、一部はインフレに対する懸念を表明しました。確かに、私もここしばらくの間、賃金の伸びは粘着性があり、持続的なインフレを引き起こす可能性があるため、注視する必要があると述べてきました。それでも、従業員の入れ替わりが激しく、雇用主が素早く賃金を調整できることを考えると、娯楽・接客業の分野での賃金の伸びはそれほど「粘着性」ではないと思います。今後も賃金の伸びをしっかりと注視していきたいと思いますが、少なくとも当面の間、育児や新型コロナウイルスへの懸念など、人手不足を招く主な原因がいくつか存在していることを踏まえると、労働市場はまだ正常化していないと認識する必要があるでしょう。9日に発表された雇用動態調査(JOLTS)で示されたように、現在の景気回復が前例のない環境で進行する中、労働に対する需要は非常に高い水準にあります。

米10年国債利回りが数週間前に大きく低下した後、6日には1.3%近くまで急上昇したことは驚きではありません。それは健全な動きであると考えており、米10年国債利回りは1%よりも2%近くで年を終えるという私の見通しには変更はありません。

今週注目していること

では、私が今週について考えていることは何でしょうか。私は以下について「心配している」とは言いませんが、確かにいくつかのことに注目しています。

• 新型コロナウイルスの感染状況とワクチン接種

東南アジア諸国で新型コロナウイルスの感染が拡大しており、多くの米製造業者はサプライチェーンの混乱が長引くことを懸念

新型コロナウイルスの感染は米国を含む多くの国で広がっており、入院者数が増加しています。ワクチン接種の取り組みは新興国市場で継続していますが、保健当局が望むほど進んでいません。米国ではワクチンの十分な確保が功を奏しており、ここ数週間、ワクチン接種に対する抵抗が強い州でワクチン接種を受ける人が増えています。これまでのところ、新型コロナウイルスの感染の再拡大は米国経済に重大な影響を与えていませんが、状況が変化する可能性があるので、感染状況を注視したいと思います。

米国以外の多くの国では、米国ほど迅速にワクチン接種が進みませんでした。特に、2020年は新型コロナウイルスのまん延をうまく管理できていた東南アジアの国々で、感染が大幅に増加していることを私は懸念しています。これにより、サプライチェーンがさらに混乱し、大きな問題となる可能性があります。ベトナムなどの国では既に混乱が起こっています。最新のISM製造業調査で明らかになっているように、これは製造業にとって真の問題であることに留意してください 3 。あるエレクトロニクス産業の回答者は、サプライチェーンの問題は徐々に改善しているとの見方を示しましたが、多くの回答者は依然として課題に直面しています。機械工業のある回答者は、次のように説明しています。「サプライチェーンは、さまざまな部門で引き続き非常に困難だ。ただ手に入れるためだけに、数カ月前に注文する必要がある。」 3

• ミシガン大学の5年先の消費者インフレ予想

低下基調にある消費者の長期のインフレ予想に注目

今週、7月の米消費者物価指数(CPI)が発表されますが、私がそれ以上に関心を持っているのは、8月のインフレ予想(速報値)です。それは一年先の予想ではなく、さらに先の予想を反映しています。また、FRBは長期的なインフレ期待にも関心を持っています。消費者の予想インフレ率は5月に3%でピークに達し、その後わずかに低下していることを判断すると、消費者はインフレに対して以前ほど懸念していないようです 4 。同数値が引き続き低下基調にあるのかを確認したいと思います。

今後の見通し

8月は、株式・債券市場ともに変動性が高まると予想

8月は、株式、そして債券市場の変動性(ボラティリティ)が高まると予想しています。この先、テーパリングの開始の前振れとなるような「FRB関係者の発言」を耳にする機会がより増える可能性があります。2013年のような「テーパータントラム(量的金融緩和の縮小(テーパリング)に対する懸念により、金融市場がかんしゃく(タントラム)を起こしたように混乱すること)」が起きるとは思いませんが、市場がある程度変動しても、驚かないでしょう。さらに、新型コロナウイルスに関するネガティブなニュースは、もちろん、市場のボラティリティを大きく高める可能性があります。

1.出所:米連邦準備理事会
2.出所:国際通貨基金(IMF)政策トラッカー、IMF GDPデータ、アトランティック・カウンシル、DE Data Wrapper、インベスコ。計算元は国内リリースおよび発表日のデータ、および2021年3月31日現在のアトランティック・カウンシルのデータ。2009年の計算元はIMF、ユーロスタット、G20のデータ。注:計算において、政府への一時的な申告・納付その他の手数料や保証は含めない。裁量的な財政支援プログラムを含める(「自動安定化装置」を除く)や、発表および実施されたプログラムを含む。すべてのデータは2008年および2019年のGDPに対してそれぞれスケーリング
3.出所:7月米ISM製造業景況感指数
4.出所:ミシガン大学米消費者態度指数

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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