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経済再開がインフレ圧力を生む一方で、新型コロナが市場の重荷に

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ただし、インフレの急上昇は一時的と予想

〔要旨〕

6月の米消費者物価指数は予想を上回る:投資家は直ちにFRBの早急な利上げを想定し、イールドカーブはフラット化

ただし、このインフレ指標によりFRBが利上げを早めることはない:FRBは二つの目標の下、物価安定の維持だけではなく、完全雇用の達成を目指す。経済指標は、その達成にはまだ長い道のりがあることを示す

ECBはおよそ20年ぶりに金融政策を変更:ECBは、インフレが緩やかかつ一時的なものである限り、インフレ率の一時的な目標上振れに対してより柔軟に対応するという点で、FRBの軌跡をたどっている模様

6月の米消費者物価指数は予想を上回る

6月の米CPIは市場予想を上回るものの、ベース効果やサプライチェーンの混乱などを背景としており、一時的なもの

このインフレ指標によりFRBが利上げを早めることはない

FRBは物価の安定と完全雇用という2つの目標の達成を目指しているが、完全雇用の達成には程遠い状況にある。また、デルタ株のまん延も、FRBの利上げを容易に後ずれさせる要因となるだろう

ECBはおよそ20年ぶりに金融政策を変更

ECBは利上げの実施に関してアプローチの変化が見込まれており、その変化は景気回復が進む中で各国の国債利回りの差を低水準に維持し、リスク資産をサポートするだろう

直近の株価の下落について

デルタ株のまん延やFRBのテーパリングの発表の見込みなどが株式市場の下押し要因ではあるものの、株式市場の上昇基調は続くと見込む

米国ではパンデミックによる「経済の傷跡」が数多く残っている。そして、それが人手不足を主因としたインフレ圧力の一因となっているもよう

先週、私は、娘と娘が所属するバスケットボールチームと一緒に米中西部を旅しました。その間、トーナメントが開かれたいくつかの都市を滞在しましたが、残念ながら、それらの都市の経済再開があまり進んでいないことが分かりました。町を歩き回っていると、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)のため廃業した店やレストランをたくさん目にしました。2020年3月に廃業したある映画館では、火山の大噴火により一夜にして消滅したポンペイ遺跡の灰のようなほこりが覆いかぶさったポップコーンの容器が入った段ボールが残されていました(感傷的なことをお詫びしますが、これらは本当に悲痛な景色でした)。これは、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が語った「経済の傷跡」です。そして、この瘢痕は世界中の多くの国で生じています。確かに、大規模な財政刺激策がなければもっと状況は悪化したかもしれませんが、それでも損害は受けています。

この経済の傷跡は、インフレ圧力の一因となる可能性があります。たとえば、一部のレストランが閉店したことから、営業中のレストランが少なくなっており、このため、娘のバスケットボールチームは夕食の席の予約が非常に大変でした。幸いレストランで空席を見つけることができた際にも、最後にトーナメントや外食をした2年前の夏よりも食事代ははるかに高くなっていました。そして、値段が上昇した主な理由が、レストランや店舗が人を雇い入れるのに苦労していることであることは言うまでもないでしょう。これは、米国中のさまざまな都市や町に貼られている、いささか捨て鉢な求人広告が証明しています。経済がその混乱を修正し、克服するには時間がかかるでしょう。

6月の米消費者物価指数は予想を上回る

6月の米CPIは市場予想を上回るものの、ベース効果やサプライチェーンの混乱などを背景としており、一時的なもの

そこで、先週公表された米消費者物価指数(CPI)に触れたいと思います。市場予想を上回る結果に、多くの専門家やストラテジストは懸念を示しました。ただし、私は、それほど驚きませんでした。現在は経済史において類を見ない時期であり、インフレなどの経済指標は予想外の結果になると思います。私は、現在見られている価格の上昇の多くは一時的なものであると引き続き考えています。簡単に言えば、インフレは、多すぎる貨幣が少なすぎる財やサービスを追いかけるときに生じます。パンデミック後の経済再開は、インフレの急上昇を引き起こした異例の出来事ですが、パンデミックと同じく、それは一時的なものと考えます。たとえば、今回CPIが予想を上回った主因として考えられるものの1つは、中古車でした。中古車価格の上昇は、現在のパンデミック後の環境の変化の結果です。つまり、2020年の中古車の販売台数が非常に少なかったというベース効果に加え、サプライチェーンの混乱による新車購入の難しさや、今でも続く健康上の懸念(つまり、公共交通機関を使わない選択)による交通手段の変化を背景に、中古車価格が上昇しました。

このインフレ指標によりFRBが利上げを早めることはない

FRBは物価の安定と完全雇用という2つの目標の達成を目指しているが、完全雇用の達成には程遠い状況にある。また、デルタ株のまん延も、FRBの利上げを容易に後ずれさせる要因となるだろう

しかし、米10年国債利回りに示されているように、多くの投資家の反応は、インフレ率が上昇するとの予想から長期金利を押し上げることではありませんでした。代わりに、投資家はインフレ指標の発表後すぐ、FRBが早急に利上げを行い、それにより経済成長が鈍化すると想定したため、イールドカーブはフラット化しました。しかし、私は、今回のインフレ指標が、FRBが利上げを早めると予想する理由になるとは思いません。2020年、FRBは新しいインフレターゲット政策を採用しましたが、それはパラダイムシフト(物の見方の劇的な転換)であると私は強く認識しています。簡単に言えば、FRBはインフレの一時的な上振れに対してより寛容になると思われます 1 。そして、FRBには2つの目標があることを忘れてはいけません。それは物価の安定を維持することだけでなく、完全雇用を達成することでもあります。そして、経済指標から明らかなように、現在は完全雇用にはほど遠い状況です。最後に、新型コロナウイルスの変異ウイルスであるデルタ株のまん延が世界経済の回復を遅らせるのではないかとの懸念も高まっています。デルタ株が米国経済に悪影響を与える場合、FRBの金融引き締めを容易に後ずれさせる可能性があることを認識しなければなりません。

ECBはおよそ20年ぶりに金融政策を変更

ECBは利上げの実施に関してアプローチの変化が見込まれており、その変化は景気回復が進む中で各国の国債利回りの差を低水準に維持し、リスク資産をサポートするだろう

新しい金融政策について言えば、欧州中央銀行(ECB)は、包括的な金融政策の見直しを完了し、およそ20年ぶりに金融政策を変更することを決定しました。ECBは、フォワードガイダンス、量的緩和、および条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)が政策手段であることを再確認しました。また、新たな政策には、ECBが環境責任を支援し、金融政策手段を通じて気候変動に対処することを目的とした気候行動計画が含まれました。たとえば、ECBは、「その使命に整合的な形で、気候変動に関連した基準を考慮して社債購入配分を決定する枠組み」を修正するようになります 2

今回の決定で最も興味深いのは、インフレが緩やかかつ一時的である限り、ECBはインフレ率が一時的に2%(目標インフレ率)を超えることを容認するという点で、ECBがFRBの軌跡をたどっているように見えることです(ただし、ECBの政策はFRBのものほど厳格ではありません)。これは、ECBがインフレを阻止するために先立って行動したり、時期尚早の金融引き締めを実施して景気回復を遅らせてしまうリスクを冒さないことを意味するとともに、ECBが経済危機においてより長い期間ユーロ圏経済を支える可能性が高いことを意味しています。

このことは、当面の景気回復のため、ECBが現在のインフレのリバウンドの後を見据え、今後数カ月間資産購入とマイナス金利を維持することを意味すると考えています。これは、2008年の世界金融危機と2010年の欧州危機でなされた決定とは大きく異なります。どちらの場合も、ECBはインフレの初期の兆候に対応するため金利を引き上げ、おそらくこれらの景気後退を必要以上に悪化させました。このECBのアプローチの変化は、市場の信頼を高め、景気回復が進む中で各国の国債利回りの差を低水準に維持し、リスク資産をサポートすると予想されます。ECBが今週の金融政策理事会でどのように政策変更を実施するのかに注目が集まるでしょう。

直近の株価の下落について

デルタ株のまん延やFRBのテーパリングの発表の見込みなどが株式市場の下押し要因ではあるものの、株式市場の上昇基調は続くと見込む

最後に、現在世界の株式市場で見られる株価の下落に触れたいと思います。投資家の「リスク回避」の心理が世界の金融市場に浸透するにしたがい、米10年国債利回りは大きく低下しました。以前にも述べましたが、上昇基調にあった株式がようやく損失を被っているのは驚くべきことではありません。長きにわたり大きな売り局面がなかったため、私はこの機会を待っていました。そして、デルタ変異株の感染拡大に伴い新型コロナウイルスへの動揺が再び見られており、その上、FRBが金融政策の正常化へと移行する準備をし、テーパリング(資産購入額の漸減)の開始が間もなく発表されると予想されることから、私たちが今、株式市場の売り局面を経験するのは当然のことです。しかし、それはパニックに陥る理由ではありません。私が2021年後半の投資見通しで示したテールリスクシナリオはいずれも実現していません。わたしは、強気相場はまだ終わっていないと思います。まず、ひと息つきましょう。落ち着いて、ポートフォリオの分散を保ちましょう。そして、現金を保有しているなら、株式購入の機会を探ってください。

1.クリーブランド連邦準備銀行、米連邦公開市場委員会(FOMC)は、柔軟な平均インフレターゲット制度は、時間の経過とともに平均2%のインフレ目標を達成すると定義。この新しい政策は、インフレが継続的に目標を下回っている場合、FOMCはしばらくの間、目標をやや上回るインフレを容認し、平均インフレを2%にすることを目指す。
2.出所:欧州中央銀行、“ECB presents action plan to include climate change considerations in its monetary policy strategy”、2021年7月8日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

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