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欧米の景気回復が鮮明に

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米地区連銀経済報告(ベージュブック)、ユーロ圏の購買担当者指数などが欧米の景気回復を示す

〔要旨〕

米国の雇用は予想をやや下回る:私はこれを、懸念が生じるほどの冷え込みはなく、一方で過熱感もない「適温」の雇用統計と考える

ユーロ圏の経済指標は、力強い経済成長が出現しつつあることを示す:購買担当者指数から、ユーロ圏が米国に続き景気回復をたどっていることが明らかに

FRBは、特定の債券資産の売却を計画:FRBは、コロナ危機対応で購入した社債の売却の開始を決定。ただし、この重要性は低いと見込む

5月の米国雇用統計:賃金上昇に注目
市場予想を下回ったものの、その程度は大きくない「適温」の状況に

米地区連銀経済報告(ベージュブック):経済の改善が確認される
6月のベージュブックでは米国経済の改善が続いていることが示されたものの、労働力不足やサプライチェーンの混乱は注視したい

ユーロ圏の経済指標:力強い経済成長が現れつつある
ユーロ圏の購買担当者指数は、製造業・サービス部門ともに力強い結果に。ただし、労働力不足の問題も現れている

ユーロ圏の小売売上高:4月は予想以上の落ち込みに
ただし、ロックダウンの解除とともに欧州経済の明るい未来が確認されるだろう

米連邦準備理事会が債券資産の売却を決定
FRBはコロナ下での緊急支援処置で購入した社債の売却を発表。ただし、同融資枠は非常に小規模で、市場に与える影響は小さいだろう

今後の見通し
ECB理事会、ZEW景況感指数、中国の生産者物価指数(PPI)、米国の消費者物価指数、ミシガン大学のインフレ期待などに注目

先週、私は6月に注目すべきいくつかのポイントをお伝えしました。先週、私が注目していたいくつかの経済指標・報告書が公表されました。本稿では、そこから得られた重要なポイントをご紹介します。

5月の米国雇用統計:賃金上昇に注目

5月の米雇用統計は市場予想を下回ったものの、その程度は大きくない「適温」の状況に

私がみていたように、非農業部門雇用者数の伸びは市場予想を下回りましたが、その程度はそれほど大きくありませんでした。私は、これを、懸念が生じるほどの冷え込みはなく、一方で過熱感もない「適温」の雇用統計と考えています。5月には、非農業部門雇用者数が55.9万人増加しました。これは、78.5万人増加した3月の「過熱感のある」雇用統計を大きく下回りましたが、27.8万人の増加にとどまった4月の「冷え込んだ」雇用統計を大きく上回っています 1 。5月の失業率が5.8%と、市場予想より低かった点はポジティブでした。

しかし、懸念される点の1つは賃金の上昇です。5月の平均時給は、4月に続き、前月比0.5%上昇しました 1 。これは、レジャーや接客業などの低賃金の分野に属する業種の求人が増加したことを背景に、求人が高水準なためであり、違和感はありません。私は、平均時給の大幅な上昇は、比較的短期的なものと考えているため、それほど懸念していません。雇用主は明らかに従業員の雇い入れに苦労しており、そのため、より高い賃金を支払わなければなりませんが、私は、人手不足は一時的なものと考えています。追加の失業給付が9月に終了する(一部の州では、それよりも早く失効します 2 )ことを考えると、私は、9月からより正常な労働環境に戻るだろうと予想しています。また、9月は、学校での対面授業が再開され、ほとんどの人の育児の問題が解消します。そして、それまでには、公共交通機関のスケジュールはほぼ正常に戻り、ワクチンの接種率の上昇と新型コロナウイルスの感染者数の減少が続くことで、新型コロナウイルスの感染への恐怖はさらに緩和されると予想しています。

米地区連銀経済報告(ベージュブック):経済の改善が確認される

6月のベージュブックでは米国経済の改善が続いていることが示されたものの、労働力不足やサプライチェーンの混乱は注視したい

ベージュブックの主な内容は、ここ数か月間、私たちが耳にしてきたことで、意外なことはありません。

•景気は緩やかに改善しており、さらなる加速が期待される。見通しはより明るいものに:

「すべての調査先は、この先の2021年について楽観視しており、一部は予測を上方修正した。

調査先は、ワクチン接種数の増加と政府が義務付ける規制の緩和により、消費支出は今後数カ月で改善を続けるとの楽観的な見通しを示した。

銀行家、会計士、破産弁護人からは、不良債権の問題は比較的少ないとの報告が続いた。

困難を乗り越えた小売業者やレストラン業者は、2019年さえをも上回る売上と利益を報告している。ワクチン接種率の上昇と「日常」への回復の期待により、2021年の残りの期間についての前向きな見通しが強まっている 3 。」

•見通しが改善した結果、企業は雇用を増やしたいと考える可能性がある:

「従業員数は比較的安定したペースで増加しており、地区の3分の2が報告期間中の雇用は控えめなペースで伸び、残りの地区は雇用の伸びが緩やかだったと報告した。

製造業者は、雇用について、意欲的な目標を示した 1 。1万人の従業員を雇用する予定や、総従業員の10%以上に相当する新規雇用を報告する企業があった。

あらゆる規模の企業で、最近の採用と採用に対する短期の見通しが改善した。ただし、大企業は雇用意欲が著しく強いと報告した 3 。」

一方で、労働に対するより強い需要とより低位の供給が、賃金圧力を生んでいます。ただし、これまでのところ、賃金圧力は全体としては穏やかです。

「全般的に賃金の伸びは緩やかだが、従業員を引き付けて確保するために採用時にボーナスを支給したり、初任給を引き上げる企業が増加した。調査先は、労働力の需要は引き続き強いが、供給は今後数カ月抑制されると予想している。

賃金圧力は全般的に緩やかだった。大部分の調査先の賃金上昇率は、年率ベースで3%を下回っている。

賃金は緩やかな上昇を続けた。従業員1人当たりの賃金と福利厚生費が上昇したと報告した非製造業の割合は3分の1をわずかに超えた一方で、賃金が低いと報告した企業の割合は引き続き非常に低かった。新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)の前は、雇用者への報酬の増加を報告した企業の割合は平均で3分の1を優に超えていた。全ての産業で、企業は、人手不足への対応策として、賃金を引き上げたり、採用時ボーナス、残留特別手当、紹介制度に関する一時金を提供しているとの報告が続いた。

賃金圧力は4 月から 5 月半ばにかけて上昇し、高い技術を必要としない職種で最も顕著に見られた。このような職種では、紹介制度に関する一時金や契約時ボーナスが一般的になり、それにつれて賃金上昇に関する報告も増加した。

ある企業(人材派遣業者)は、一部の職種の賃金の伸びが大幅に上昇したと報告し、伸び率の上昇は労働力不足と景況感の高まりによるものだ、と述べた 3 。」

ただし、労働力不足の原因のほとんどは一時的なものです。

「労働供給を阻むものとして、企業は手厚い失業手当、育児に対する責任、そして安全への懸念を挙げた。

多くの調査先企業は、特に低賃金の職種における人材の確保を最大の懸念事項としており、その理由として、労働者の健康上の懸念、育児の制約、手厚い失業手当を挙げた。

多くの雇用主から、失業保険給付の拡大と景気刺激策が、人々が再び職に就くことへの足かせになっているとの発言が続いた。また、育児、交通機関の問題、および労働時間の確保の難しさが、潜在的な労働者が職を求めることへの妨げとなっている主な要因だと指摘した。

雇用主、人材派遣会社、労働力の支援機関は、健康や安全上の懸念、育児場所確保の課題、公共交通機関のスケジュールの短縮、求職活動への疲れ、そして政府からの財政的支援など、労働力の供給を制限する多くの要因を指摘した 3 。」

雇用者に影響を与える問題は、労働力不足だけではありません。もう1つの大きな逆風は、サプライチェーンの混乱です。

「調査先企業は、成長を妨げる主な要因として、労働力不足とサプライチェーンの問題を挙げた。

調査先企業は、サプライチェーンの混乱が続く中でコスト圧力が強まったと指摘した。

調査先企業は、引き続き、経済のほとんどの部門に影響を与える深刻なサプライチェーンの混乱について言及した。半導体の不足は、現在と今後の生産計画に制限を課し、コンテナの不足から物流の混乱が続いた 3 。」

もちろん、私たちはこの状況を注視しますが、もし、1年前、力強い経済活動が再開し、消費者と企業の楽観的な見通しが強まる一方で、労働力不足とサプライチェーンの混乱にも悩まされるだろうとの見方を聞いたら、私は大喜びしたことでしょう。結局のところ、これはかなりうれしい問題です。なぜなら、労働力不足はどちらかと言うとそのほとんどが一時的なものであると予想しているためです。

私はまた、ベージュブックが企業の広範な設備投資計画を報告すると予想していました。それはありませんでしたが、シカゴ地区連銀から、担当地区における企業の設備投資支出は控えめなものにとどまっているとの報告がありました。同連銀の報告は、設備投資の支出が増えてこなかった理由を理解するのに役立ちます。

「企業支出は、4月から5月初旬にかけて緩やかに増加した。設備投資は緩やかに増加し、調査先企業は先12カ月間で緩やかに増加すると予想した。設備の入手に長い時間がかかることで支出が抑えられているとの発言も聞かれた 3 。」

私は、サプライチェーンの問題が、企業支出が抑えられている主な要因だと考えます。この問題が解決されれば、米国で設備投資が増加すると予想しています。

ユーロ圏の経済指標:力強い経済成長が現れつつある

ユーロ圏の購買担当者指数は、製造業・サービス部門ともに力強い結果に。ただし、労働力不足の問題も現れている

購買担当者景気指数(PMI)は、ユーロ圏が力強い経済成長を遂げている米国の後に続いていることを示しています。5月のユーロ圏総合PMI(改定値)は57.1となり、また、製造業PMIは63.1と非常に好調でした 4 。IHSマークイットのエコノミストであるクリス・ウィリアムソンは、「ユーロ圏の製造業は、調査開始からの約24年において、過去にない速度で成長を続けており、製造業PMIは3カ月連続で過去最高を更新した。生産の急速な伸びは、経済が4-6月期に力強く回復している兆候をさらに強めている。」と指摘しました 4

製造業だけでなく、サービス部門でも5月のPMI(改定値)が55.2と大幅に上昇しており、ユーロ圏の堅調な経済活動の再開の兆しが確認されています 5 。ウィリアムソンは、「ユーロ圏の巨大なサービス部門が5月に息を吹き返した。夏の間、堅調さが持続する可能性が高い。」とうまく説明しています。国別でも好調さが確認されており、一部の国では製造業PMIが数年ぶりの高水準を記録しました。スペインは、サービス部門PMI が製造業PMIと同水準(59.4)にあり、サービス部門の好調さが指摘されています 5 (ユーロ圏に加えて、英国のPMIは、製造業が65.6、サービス部門が62.9となり、非常に印象的でした 6 。)。

ただし、これは完全に素晴らしい姿というわけではありません。米国と同じく、ユーロ圏では供給が制約され、十分な従業員の確保が難しくなっています。「供給業者の不足と、最近の需要の急増に対応するための新規雇用の難しさから、供給制約への懸念が高まっている。これにより物価圧力が急上昇しており、供給条件が改善すれば上昇圧力は緩和されるはずですが、特に労働力不足が賃金の上昇につながる場合、数カ月は懸念が続く可能性がある 5 。」と指摘されています。米国と同様、これらの課題は一時的なものであると予想していますが、状況を注視する必要があります。

総じて、欧州経済は4-6月期に力強く成長し、再開が進むとともに、7-9月期はさらに好調になると予想しています。

ユーロ圏の小売売上高:4月は予想以上の落ち込みに

ユーロ圏の小売売上高は予想以上の落ち込みを示したものの、ロックダウンの解除とともに欧州経済の明るい未来が確認されるだろう

4月の小売売上高は市場予想以上に減少しました。都市封鎖(ロックダウン)が非常に大きな悪影響がもたらしたのは明らかです。これは、ロックダウンにより4月の小売売上高が4.5%減少した日本と同じ状況です 7 。しかし、私は、この経済指標は、PMIほどは重要でないと考えます。調査で示された力強さによって明確なように、ユーロ圏でロックダウンが解除されることを考えると、未来はつい最近の過去よりも明るく見えるのは喜ばしいことでしょう。

米連邦準備理事会が債券資産の売却を決定

FRBはコロナ下での緊急支援処置で購入した社債の売却を発表。ただし、同融資枠は非常に小規模で、市場に与える影響は小さいだろう

先週、私が重要だと思うもう1つのことが起きました。それは、米連邦準備理事会(FRB)が、緊急融資枠の1つである「流通市場企業信用制度(SMCCF)」を通じて購入した資産の一部につき、売却を開始すると決定したことです。投資家がこの決定をFRBの利下げの始まりと解釈するのではないか、との懸念がありました。しかし、私は、この重要性は低いと考えています。

この融資枠は、パンデミック下、発行済みの社債に流動性を提供するため、FRBが「緊急措置」の一環として2020年の春に開始されたことを忘れてはいけません。当時の米国財務長官のスティーブン・ムニューシンが、2020年末以降の同融資枠を通じた資産の購入を停止していました。私は、資産購入の停止により、ポートフォリオの縮小が避けられない次のステップに入ったと考えます。また、同融資枠の規模が非常に小さいことも念頭に置いておく必要があります。例えてみれば、同融資枠がおもちゃの船である一方、FRBのバランスシートはクイーン・メアリー号のようなものです。4月30日時点での同融資枠の買い入れ残高は138億米ドルに過ぎず、内訳は社債ETFが86億米ドル、社債が52億米ドルとなっています 8

今後の見通し

ECB理事会、ZEW景況感指数、中国の生産者物価指数(PPI)、米国の消費者物価指数、ミシガン大学のインフレ期待などに注目

今週は、欧州中央銀行(ECB)理事会を最も注視したいと思います。以前お伝えしたように、ユーロ圏は強い経済回復という点で米国の後に続いており、ECBによるテーパリング(資産購入額の縮小)が始まると予想されるスケジュールは、特にユーロ圏の5月の消費者物価指数が前年比2.0%の上昇と、「2%を下回るがこれに近い水準」とするECBの物価目標を上回った今 9 、中央銀行ウォッチャーは大きな関心を持っているでしょう。私は、ECBがテーパリングについての議論を議論することに全くプレッシャーを感じていないと思われることを強調しておきたいと思います。私はECBの現在の見解に関する洞察を注意深く見守っていきたいと思います。また、3月のECB議事要旨でユーロ高への懸念を示したことを考えると、ECBが引き続きユーロの動向を懸念しているかどうかを確認したいと考えています 10

また、ユーロ圏のZEW景況感指数、中国の生産者物価指数(PPI)、米国の消費者物価指数、ミシガン大学のインフレ期待などの経済指標も注目します。

金融市場に関しては、投資環境は引き続きリスク資産を下支えすると考えますが、FRBがテーパリングに関して口にするようになるにつれて、ボラティリティーの高まりが見られなくなるという意味ではありません。ここ数カ月で世界的に高配当株の人気が高まっていることは、ポジティブな展開だと思います。高配当株は、確かにディフェンシブ株よりもシクリカル株のアウトパフォームから恩恵を得てきました。しかし、経済危機が終わった今、減配も終わったという投資家の期待が主要なカタリストであると私は考えており、景気と企業の改善を考えると、近々増配が実施されるかもしれません。私は、投資家に利回りを提供するという点で、分散された債券ポートフォリオを補完する配当に引き続き注目しています。

1.出所:米国労働省労働統計局、2021年6月4日。
2.出所:CNET、“Which states are ending unemployment benefits early? The lowdown on $300 bonus checks”、2021年6月6日。
3.出所:米地区連銀経済報告、2021年6月2日。
4.出所:IHSマークイット、“Eurozone manufacturing PMI hits record high for third straight month”、2021年6月1日。
5.出所:IHSマークイット、“IHS Markit Eurozone Composite PMI® – final data”、2021年6月3日。
6.出所:IHSマークイット。
7.出所:ロイター、“Japan’s April factory output rises on capital goods demand”、2021年5月30日。
8.出所:米連邦準備制度、定期報告: Update on Outstanding Lending Facilities Authorized by the Board under Section 13(3) of the Federal Reserve Act May 9, 2021
9.出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“Eurozone Inflation Above Target Sooner Than The ECB Expected”、2021年6月1日。
10.出所:欧州中央銀行議事要旨(2021年3月10-11日)。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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