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アフターコロナの航空産業 「環境に優しい次世代旅客機」実現のカギを握るのは?

コロナ禍で苦戦が続く航空産業ですが、気候変動という重要な課題への対応も迫られています。脱炭素社会と航空輸送が共存していく手段として、再生可能エネルギー・バイオ燃料の技術開発や利用が進む中、新たに注目されているのが「水素燃料(Hydrogen-Fuel)」です。

航空産業における最新のサステナビリティ(持続可能性)への取り組みと、欧州の航空宇宙機器開発メーカーであるAirbus(エアバス)などが実用化を目指す「水素で飛ぶ旅客機」の可能性について見てみましょう。

世界の気候温暖化問題の5%は航空産業に起因?

米非営利団体、国際クリーン輸送協議会(The ICCT)の報告によると、2018年に世界の商業用航空産業が排出した(二酸化炭素)は合計9億1,800万メートルトン。これは化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の使用による、世界のCO2排出量の2.4%に相当します。さらにドイツ環境・エネルギー研究(EESI)は、飛行機雲やその他の汚染物質により引き起こされる温暖化などの非CO2効果を加算すると、世界の気候温暖化に対する航空産業の影響は約5%にも及ぶと指摘しています。

航空産業のCO2排出量は、国境を越えた人やモノの移動の急増に伴い、2018年までの5年間で約32%増えました。パンデミックの影響で経済活動が著しく低下した2020年は、世界各地でCO2排出量が減少しましたが、空の旅の再開とともに再び増加に転じると予想されています。

再生可能エネルギー、バイオジェット燃料への移行が加速

消費エネルギーが多い航空産業にとって、エネルギー効率が良く、輸送や貯蔵が容易な燃料の確保は不可欠です。しかし、主流である化石燃料(灯油・ガス)はエネルギー密度が高く、大型航空機の長距離飛行に必要な動力を供給できる反面、大量のCO2を排出する点がジレンマとなっています。

国際民間航空機関(ICAO)は気候変動対応策として「国際航空のCO2補償および削減スキーム(CORSIA)」を策定し、機体の軽量化など様々な対策を講じて、国際航空輸送による温室効果ガスの排出量を削減することを目指しています。持続可能な燃料への移行は、その実現に向けた対策の一つです。

現在、技術開発や実用化が最も進んでいる持続可能な燃料として、再生可能エネルギー(太陽光や風力、地熱といった自然エネルギー)が挙げられます。特に、短・中期的な解決策として注目されているのは、木質系セルロースや微細藻類といったバイオマス原料(生物資源)から製造されるバイオジェット燃料です。カーボンニュートラル(ライフサイクル内でCO2排出量と吸収量が相殺される)というメリットを活かして100%バイオ燃料に移行する、あるいは航空燃料にブレンドするといった構想が練られています。

日本では、2020年10月にANAがフィンランドの再生可能エネルギー企業NESTEの石油代替航空燃料(SAF)を、日本発の定期便に採用しました。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2030年を目途にバイオジェット燃料の商用化に取り組んでいます。

大型機・長距離飛行にも対応可能な水素燃料

水素燃料も技術開発が加速しています。水素燃料を使用した航空機の構想・開発自体は新しいものではありませんが、近年は環境に優しく、大型機や長距離飛行にも対応できる可能性がある次世代航空機燃料として、再び関心が集まっています。

例えば、eVTOL(電気垂直離着陸)航空機として知られるリチウムバッテリー駆動のエアタクシーの開発が進められていますが、現時点ではエネルギー密度の低さから、大型機には適用できないと考えられています。

水素燃料の大きなメリットは、走行中にCO2を排出しないにも関わらず、エネルギーとしての質量あたりの密度が既存のジェット燃料の3倍と極めて高いことです。そのため、1950年代後半からロケットの液体燃料として開発・研究が進められており、近年は環境に優しい次世代自動車分野でも注目されています。

水素は密度が低いため、従来のジェット燃料よりはるかに多くの貯蔵スペースが必要になることなどが課題でしたが、貯蔵・分配システムに工夫を凝らしたコンセプトが次々に登場しています。

2019年10月には、独BMWと米スタートアップAlakai Technologies(アラカイ・テクノロジーズ)が電気モーターと水素燃料電池を併用して飛行する、ゼロエミッション航空機「Skai(スカイ)」を共同開発しました。航続距離400マイルまたは4時間、最大乗客数5人と短距離向けの超小型機であることから、「空飛ぶクルマ」と呼ばれています。

コロナ禍の2020年には、Airbusが2035年までの「ゼロエミッション飛行」をスローガンに、水素燃料への移行を組み込んだコンセプト「ZEROe」を発表。航空業界全体の脱炭素化実現をリードする動きが注目を浴びています。

現時点では、ジェットエンジンの代わりに水素を燃料とする改良型ガスタービンエンジンを搭載した3種類の機体(ターボファン機、ターボプロップ機、ブレンデッド・ウィング・ボディー機)が検討されています。機体により異なりますが、乗客数は最大200人、航続距離は1,000~2,000海里(約1,151~2,302マイル)を超えるため、大陸間の移動にも適しています。

その他、ZeroAvia(ゼロアヴィア)やHyPoint(ハイポイント)といった水素電気航空機開発スタートアップが、水素燃料をCO2排出量削減の切り札とすべく、革新的な技術開発に取り組んでいます。

実現に向け、開発・製造分野における研究・技術面でのコラボレーションだけでなく、水素の輸送・燃料補給のインフラの構築・整備、そして持続可能な燃料の使用を促進するための政府の支援も不可欠です。課題の解決には相当の時間や労力を要すると予想されますが、CO2排出量削減が最も困難な産業の一つとされる航空産業にクリーン化旋風が巻き起こっていることは、大きな進歩といえるでしょう。技術やインフラの発展に伴い、将来は水素燃料航空機や大型電動航空機などの次世代航空機が主流となるかもしれません。

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