米国株投資家必見 GAFA以外の注目すべき米国企業

『№1ストラテジストが教える 米国株投資の儲け方と発想法』より一部抜粋

(本記事は、菊地 正俊氏 著書『№1ストラテジストが教える 米国株投資の儲け方と発想法』=日本実業出版社、2021年1月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

※本記事は、ご参考として書籍をご紹介しているものであり、特定の有価証券の売買の推奨等を目的としたものではありません。実際の投資にあたってはリスクや費用等をご確認いただき、ご自身のご判断で投資ください。

GAFA以外の注目すべき米国企業

半導体産業も米国企業が席捲

日本は半導体を含む電子部品企業が強いといわれた時代もありましたが、世界の半導体上位企業は米国、韓国、台湾企業になりました。1990年には世界の半導体売上はNEC、東芝、モトローラ、日立製作所の順位でしたが、これらの日本企業はトップ10から姿を消しました。『IC Insight』によると、2020年上期の半導体売上トップ10のうち6社が米国で、韓国が2社、中国が1社、台湾が1社で、日本企業は1社も入っていません。

米国の半導体の代表的企業といえばインテルでしたが、時価総額ではいまや5位となり、エヌビディアとクアルコムがトップ2となりました。エヌビディアの時価総額は3300億ドル(約35兆円)で、高成長を織り込んで、予想PERは75倍に達しています。

エヌビディアは台湾系米国人のジェン・スン・ファンCEOによって1993年に創業された半導体企業で、ファンCEOは革ジャンを着たCEOとして有名です。エヌビディアは画像処理に強い半導体チップであるGPUを展開し、ゲーム向けやデータセンター用に多く使われています。エヌビディアは2020年9月にソフトバンクグループから英国の半導体設計大手アームを4.2兆円で買収し、企業としての勢いの強さを示しました。一方、半導体大手企業だったモトローラは分割されて元の形では存在しておらず、米国企業のスピンオフを使った新陳代謝の強さを示します。

世界の主要半導体企業30社の時価総額加重平均方式で計算されるフィラデルフィア半導体指数(通称SOX指数)には台湾セミコンダクターは含まれますが、日本企業は1社も入っていません。SOX指数は1993年にフィラデルフィア証券取引所によって開発され、1993年12月1日を200として計算が開始され、1995年7月に2対1の株式分割を行ないました。

GAFAの活躍とともに、スマホやデータセンター等に半導体が必要であるため、半導体需要は大きく増えました。SOX指数は2008年11月の底から約15倍に上昇して、2020年11月末に史上最高値を更新しました。
ブラックロックなどからSOX指数に連動したETFも出ています。

米国の「中小型グロース株」は巨大

米国株に深い知識がない日本の個人投資家はGAFA株や米国テクノロジー株投信を買えばいいでしょうが、GAFAで物足りない投資家は別の成長テクノロジー株を買いたいと思うかもしれません。また購入した投信の組入銘柄の内容を知りたいと思う投資家もいるでしょう。以下では気になった成長テクノロジー株を日本の類似企業と比較しながら紹介します。

米国では結婚の3分の1がオンラインでの出会いといわれます。米国大手マッチングアプリのマッチ・グループは、コロナ危機でビデオデートの需要が増えたとして、2020年3Qの売上は前年同期比18%増の6.4億ドル(約700億円)、純利益も同22%増の1.3億ドル(136億円)と好調でした。同社の売上は日本の同業のネットマーケティングの10倍以上あります。

米国オンライン・フィットネスのペロトン・インターアクティブの2020年度の売上は前年比倍増の18億ドル(約1900億円)、オンライン・フィットネスのサブスクリプション数は前年比倍増の110万人、うち有料デジタル・サブスクリプション数は前年比3倍の32万人に増えました。ペロトンはまだ赤字ですが、時価総額は340億ドル(約3.6兆円)と、日本の上場フィットネスクラブのルネサンスの約170億円の200倍以上です。

ペロトンとはマラソンやサイクルレースの集団という意味で、「自宅フィットネスサービスのペロトンがすごい!」とネットでも評判になっています。残念ながら、ペロトンは日本語でのサービス展開を行なっていません。

オンライン教育では2Uが大学、Cheggが中高校中心とすみ分けがあります。Cheggの2020年3Qの売上は前年同期比64%増の1.5億ドル(160億円)でした。約400万人のサブスクライバーがいる“Leasing Direct To-Student Connected Learning Platform”であり、“High Growth & High Margin Model”だと謳っています。一方、日本のすららネットの2020年3Qの売上は前年同期比57%増の約5億円と、Cheggの約30分の1でした。オンライン教育が普及すれば、日本でいえば「林先生」的な人気の講師へ需要が集中するので、一般的な教師の存在意義が問われるでしょう。

ただし、学校は社会的なつながりをつくる場所でもあるので、オンラインだけの教育に対する不満が大学生のあいだで出たのは日米で共通です。

ズームvs.ブイキューブ

日本のビデオ会議システムのブイキューブの時価総額は約860億円に留まりますが、グローバル展開するズームの時価総額は、その160倍の1360億ドル(約14兆円)に達しています。ズームの2020年度2Qの売上は前年同期比169%増の3.3億ドルと急増しました。日本企業のビデオ会議ではブイキューブより、ズーム、シスコのWebex、マイクロソフトのTeamsを使う企業が多くなっています。

ウィズコロナでデジタル・マーケティングの重要性が一層高まっています。日本でセールスフォース・ドットコムの導入支援を行なうテラスカイの時価総額は約610億円ですが、その親元であるセールスフォース・ドットコムの時価総額は2240億ドル(約24兆円)に上ります。

電子認証システムのeSingnatureを運営するドキュサインには世界で1億人のユーザーがいて、2020年2Qの売上が前年同期比45%増の3.4億ドル(360億円)に達しましたが、赤字継続でした。ドキュサインの株価は上場来高値を更新して、時価総額が430億ドル(4.5兆円)に達しました。日本で同様の事業「クラウドサイン」を展開する弁護士ドットコムも上場来高値を更新しましたが、時価総額はドキュサインの約15分の1です。

日本ではエムスリー、メドレー、オプティムがオンライン診療の三雄として株価が大きく上昇しましたが、米国でもTeladoc Healthの株価が年初来約2倍に上昇しました。
Teladoc Healthはまだ赤字ですが、2020年3Qの売上が前年同期比79%増の2.9億ドル(300億円)となり、素晴らしい成長を達成したと述べました。同社はJ.D.Power2019から“direct-to-consumer telehealth provider”で1位の評価を受けて、世界175カ国で40超の言語でサービスを展開しています。

米国テクノロジー企業は初期段階から、英語やグローバル人材の強みを活かして、グローバル市場を念頭に置いた成長戦略を描く企業が多くなっています。国内市場で成長するIT企業は日本にもたくさんあるものの、日本語の制約もあり、最初からグローバル市場を目指すIT企業は少なくなっています。

平井卓也デジタル担当相も、日本から世界市場を席捲するようなプラットフォーム企業が出てくる可能性を悲観的に見ています。マザーズのIT企業に投資するのもいいですが、グローバルに成長しそうなナスダックの中小型IT企業へのほうが中長期的なリターンが高そうです。

バイオでも米国株が優位

私はコロナ危機が起こるまで、ギリアド・サイエンシズやモデルナなどの米国大手バイオ企業を知りませんでした。

2020年6月にギリアド・サイエンシズは、抗ウイルス薬レムデシビルの中等度患者向けの国際共同P3(第3相)試験で、有効な結果が出たと発表しましたが、その後の開発は遅れています。1987年創業のギリアド・サイエンシズはアムジェンと並ぶ米国大手バイオ製薬会社であり、1992年にIPOしました。

世界に従業員が1.2万人、うち日本法人も320人の社員がいます。利益が出ていないバイオ企業が多いなかで、ギリアド・サイエンシズの2020年上期の売上は前年同期比3%減の105億ドル(約1兆円)、純利益は18億ドルの赤字でしたが、時価総額は760億ドル(約8兆円)と、武田薬品の約1.4倍に上っています。

一方、モデルナは11月16日に、コロナウイルスのワクチンが大規模な第3相臨床試験で95%の確率で効果を示したとの分析結果を発表し、株価が急騰しました。モデルナは2018年12月に1株23ドルでIPOし、2019年8月に上場来安値12ドル台まで下落しましたが、ワクチン開発成功のニュースで株価が10倍超に上昇しました。

モデルナの2020年3Qの売上は1.6億ドルで、売上を上回る2.3億ドルの最終赤字でしたが、時価総額は500億ドル(約5.3兆円)もあります。モデルナはメッセージRNA(mRNA)に基づく創薬企業であり、mRNAを「生命のソフトウェア」と呼んでいます。

モデルナ同様に有効性の高いワクチン開発の成功を発表したファイザーは、モデルナほど株価が上がりませんでしたが、時価総額は2070億ドル(22兆円)あります。同じくワクチン開発が期待されているジョンソン&ジョンソンは日本で「バンドエイド」などの日用品でも有名ですが、時価総額が3800億ドル(40兆円)と巨大です。

日本はコロナ感染者数が少ないうえ、製薬会社の開発力が劣後しているので、ワクチンを海外からの輸入に依存せざるを得ません。日本政府はファイザーと1.2億回分、モデルナと5000万回分の供給を受ける契約をしました。日本のアンジェスはワクチン開発が遅れており、時価総額は1600億円にすぎません。

菊地 正俊(きくち まさとし)
みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017~2020年1位。
著書に『アクティビストの衝撃』(中央経済社)、『相場を大きく動かす「株価指数」の読み方・儲け方』『日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』(日本実業出版社)、『良い株主 悪い株主』『外国人投資家が日本株を買う条件』『株式投資 低成長時代のニューノーマル』(日本経済新聞出版社)、『なぜ、いま日本株長期投資なのか』(きんざい)、『日本企業を強くするM&A戦略』『外国人投資家の視点』(PHP研究所)、『お金の流れはここまで変わった』『外国人投資家』(洋泉社)、『外国人投資家が買う会社・売る会社』『TOB・会社分割によるM&A戦略』『企業価値評価革命』(東洋経済新報社)、訳書に『資本主義のコスト』(洋泉社)、『資本コストを活かす経営』(東洋経済新報社)がある。

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