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経済見通しの改善と新型コロナウイルスの影

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米国と中国が世界の景気回復を主導する一方で、ブラジルとインドでは感染拡大の新たな波への懸念が高まる

〔要旨〕

世界の経済見通しが改善:国際通貨基金(IMF)は、2021年の世界経済成長率見通しを6%と予想。これは、1980年以降、最大の伸び率となる

米連邦準備理事会(FRB)は緩和的姿勢を維持:FRBは米国の景気見通しを引き上げた一方で、緩和的な金融政策は変更せず

「第4波」への懸念が続く:ブラジルやインドなど、多くの国で新型コロナウイルスの感染者数が増加

IMFは世界経済見通しを上方修正
ユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)は改善
FOMC議事要旨の公表
FRB当局者からの発言
米生産者物価指数(PPI)に見られたインフレの兆候
「第4波」への懸念が続く
昨週の金融市場で確認されたこと
今後の注目点

①ユーロ圏の小売売上高、②地区連銀経済報告(ベージュブック)、③中国のGDP、④企業決算、⑤世界のワクチン接種の水準—に注目

先週は、多くの人が短いイースター休暇を過ごし、人々は職場に戻り始めていると思います。本稿では、先週の重要なイベントついての要約をご紹介します。

IMFは世界経済見通しを上方修正

米国と中国が景気回復を主導している一方で、他の国々のGDPがパンデミック前の水準に回復するのは2023年になる見込み

国際通貨基金(IMF)は先週、世界経済見通しを公表し、2021年の世界成長率の予測を6%とし、2020年10月時点の予測である5.5%から上方修正しました。これは、1980年以降、最大の伸び率となります 1

この上方修正は、有効なワクチンの発見と普及による楽観的な見通しと、米国などの一部の国で大きな効果を上げている財政出動を反映したものです。国別では、2021年の米国経済の見通しを前回の5.1%から6.4%と大幅に上方修正し、中国の見通しを8.1%から8.4%に引き上げました 1 。IMFの発表から得られた重要なポイントの1つは、各国の景気回復がさまざまな様相を示しているということです。つまり、主要な経済大国である米国と中国が景気回復を主導している一方で、他の国々の回復は緩やかであり、それらの国々の国内総生産(GDP)が新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)前の水準に回復するのは、2023年になると予想されています。

ユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)は改善

ユーロ圏では製造業とともに、サービス業でも改善を確認

3月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI、改定値)は53.2となり、2月の48.8から上昇しました 2 。より重要な点では、3月のサービス業PMI(改定値)が49.6と、2月の45.7から上昇したことです 2 。国別では、アイルランド、英国、ドイツなど多くの国で大幅な改善が確認されました。製造業を主力産業とするドイツにけん引され、製造業の好調が続いていることは予想されたことですが、新型コロナウイルスの感染拡大と都市封鎖(ロックダウン)にもかかわらず、一部の国でサービス業の改善が確認されたことは驚きであり、予想以上の健闘を示していると言えるでしょう。

IHSマークイットのクリス・ウィリアムソンは、ユーロ圏の現状について、「今回の調査結果では、製造業の回復が示されたことに加え、社会的距離の確保(ソーシャルディスタンス)と移動制限によるサービス業への打撃が2020年の同時期よりもはるかに小さかったことから、ユーロ圏経済が最近のロックダウンを予想以上にうまく乗り越えたことが明らかになった。この回復は、企業と消費者が経済の改善を見通しているだけでなく、ウイルスとの共生にますます適応していることを示唆している 2 。」と述べました。

ユーロ圏でのワクチン供給が遅れていることを考えると、これは明るいニュースと言えるでしょう。新型ウイルスをうまく制御できるようになるまで、力強い景気回復は難しいと考えますが、今回のPMIの結果からは、ワクチン接種がゆっくりと進み経済活動が制限されている環境下でも、景気は回復していけることが読み取れます。

FOMC議事要旨の公表

FRBは米国経済の力強い成長を予想している一方で、緩和的な金融政策を維持する方針

FRBは3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米国の景気見通しを引き上げた一方、緩和的な金融政策姿勢を維持しました。先週、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公開されましたが、2021年の米国経済の成長率は、IMFの予想と同じく、4.2%から6.5%に上方修正され、失業率は5%から4.5%に下方修正されていました 3 。より強気の見通しとなった背景には、米国経済の再開と追加の財政刺激策があります。また、FRBは、物価見通しを上方修正し、2021年のPCEコアインフレ率を2.2%としました。これは、前回の1.8%から大幅に引き上げられています 3

私は、今回の議事要旨は、FRBが米国経済の力強い成長を予想しているものの、過去実施されてきた予防的な引き締めを行うことはないことを示している、と考えます。つまり、FRBは、力強い経済成長を予想している一方で、緩和的な金融政策を維持するということです。議事要旨では、「資産購入プログラムを縮小するための条件が整うまで、しばらく時間がかかる」と記されており、FRBは2023年までゼロ金利政策を維持する方針を示しています 3 。また、インフレについては、FRBは今年の急速な物価上昇圧力を一時的なものと考えており、静観する姿勢であることを繰り返しました。

FRB当局者からの発言

パウエルFRB議長は新型コロナウイルスの感染拡大が経済にとって最大のリスクであると示唆

先週は、FRB当局者がさまざまな発言を行いました。以下は主なポイントです。

・先週、パウエルFRB議長は、新型コロナウイルスの感染拡大が経済にとって最大のリスクであると示唆しました。パウエル議長は、米国経済に対する楽観的な見通しが高まっているにもかかわらず、「新型ウイルスの新規感染者数が再び増加していることから、米国民はワクチンを接種し、社会的距離の確保を続けることを強く勧めたい。誰も再び新型コロナウイルス感染症の大流行が起こることを望んでいない。それの経済的ダメージが小さく、死者が少なかったとしても、景気回復を遅れさせる。」とし、パンデミックについて警告しました 4

・セントルイス連銀のブラード総裁は、パンデミックの収束が確実になるまで、FRBは金融政策の変更を検討するべきではないとの、彼自身の見解を明らかにしました。私は、FRBが将来考慮すべき事項が新型ウイルスの収束という公衆衛生上の成果に左右される可能性があることを考えると、金融政策の正常化がさらに遅れる可能性があるとみています。

・そして11日、パウエルFRB議長は米ニュース番組「60ミニッツ」でのインタビューで、経済への主なリスクはパンデミックの再拡大であると述べました。パウエルFRB議長は、米国経済は「変曲点」にあり、2021年後半には非常に力強い成長が見込まれると発言しました。今回のインタビューでのパウエル議長の重要な発言の1つは、「FRBは、米景気が完全に回復するまで、必要な限り、米国経済を支援するために全力を尽くす」というものでした 5

米生産者物価指数(PPI)に見られたインフレの兆候

3月の米国の生産者物価指数(PPI)は、市場予想を上回る大幅な上昇となりました。しかし、市場はほとんど反応しませんでした。このPPIの上昇は、米国だけでなく、中国でも確認されました。私は、このPPIの加速は、前年同時期に同数値が大きく低下した影響と、供給面での短期的な混乱によるものと考えます。ただし、今週の米消費者物価指数を含む、今後のインフレ関連のデータを綿密に追っていく考えに変わりはありません。

「第4波」への懸念が続く

ブラジルやインドで新型ウイルスの感染者数の増加が続く

新型コロナウイルスの新規感染者数は、ブラジルとインドなど、多くの国で増加しており、新型ウイルスに対するFRBの懸念は十分に根拠があるものでしょう。世界保健機関(WTO)の上級顧問であるブルース・アイルワードは、ブラジルの状況を「ウイルスが猛威をふるう地獄絵のようだ 6 。」と表現しました。感染拡大への懸念、特に感染力の高い変異ウイルスの増加は、断続的ではあるものの、市場関係者の懸念材料になり続けると考えます。

昨週の金融市場で確認されたこと

米10年国債利回りの低下による、テクノロジー株やグロース株、大型株などの株価上昇が確認される

先週に市場で確認された印象的なことは、米10年国債の利回りの低下でしょう。物価上昇の見通しと、経済見通しの改善傾向を踏まえると、この動きは多くの人にとって驚きでした。

これにはいくつかの理由が考えられます。第一に、それは一部で新型ウイルスの感染者が増加していることへの反応であり、投資家の経済成長への期待がしぼむ可能性です。そして、米国での増税に関する議論も、力強い景気回復への期待を弱めるものでしょう。あるいは、FRBが金融引き締めをすぐに実施しないというFRBの発言を、投資家はついに信じ始めているのかもしれません。

金利の低下を受け、株式市場ではローテーションが起こりました。先週の株式市場の上昇では、テクノロジー株やグロース株、さらには大型株が市場をけん引しました。米国株式市場におけるリーダーシップ(けん引役)の変化は、米10年国債利回りの動向によるものでしたが、今後も、この傾向が続くと予想しています。ただし、私は、2021年に金利が上昇すると予想しています。先週は低下した米10年国債利回りですが、年内には2%以上に上昇すると予想します。

今後の注目点

①ユーロ圏の小売売上高、②地区連銀経済報告(ベージュブック)、③中国のGDP、④企業決算、⑤世界のワクチン接種の水準—に注目

今週は、米国の小売売上高、英国の国内総生産(GDP)、カナダ銀行(中央銀行)の経済展望調査など、注目される経済指標の発表が数多く予定されています。以下、私が注目している項目です。

・ユーロ圏の小売売上高:前述したサービス業PMIより、パンデミックと封鎖措置がサービス業に与える影響がそれほど大きくなかったことが考えられます。小売売上高は、それを確認するのに有用でしょう。

・地区連銀経済報告(ベージュブック):「ベージュブック」から、米国の12地区の連邦準備銀行が管轄する地区の経済や事業状況などさまざまな情報が入手できます。

・中国のGDP:中国は、パンデミックからの景気回復において、世界各国を大きくリードしました。GDP統計からは、2021年1-3月期の景気回復がどれほど力強いものであったか、そしてどの分野が景気回復をけん引したのかを確認できます。

・企業決算:今週から、決算発表が始まります。私は、多くの企業がパンデミックの最中に見送っていた業績ガイダンスが、より示されるようになることを期待しています。見通しがどのようなものであっても、それは価値があるものです。

・世界のワクチン接種の水準:私が考える最大の懸念は、新型コロナウイルスの感染拡大を制御できるかであり、それにはワクチン接種のスピードが重要なカギとなります。パウエルFRB議長も、パンデミックが2021年の経済にとって最大のリスクであると考えていることを、明示しています。昨日、私は2回目のワクチン接種を受けましたが、担当した医師の助手は冷静に、「今後、定期的に追加の接種をしなければならないでしょう。これで終わりではないです。」と言いました。なぜなら、特に新型コロナウイルスが制御されていない地域では、変異ウイルスの感染が拡大しており、世界の他の地域にも変異株の感染がすぐに広がる可能性が高いためです。米国には、「ラスベガスで起きたことは、ラスベガスに置いてくる(旅の恥はかき捨て)」という面白い言い回しがあります。しかし、パンデミックに関しては、そのようなことはできません。サンパウロ(またはニューデリー、パリ、アムステルダム、ロサンゼルス)で感染拡大が起こった場合、感染はそこにとどまらず、あらゆるところで発生します。最良の解決策は、世界のあらゆる場所で、ワクチン接種が可能になることだと私は考えています。

 

1.出所:国際通貨基金(IMF)、世界経済見通し、“Managing divergent recoveries”、2021年4月。
2.出所:Action Forex、“Eurozone PMI composite finalized at 53.2, increasingly adapted to life with the virus”、2021年4月7日。
3.出所:連邦準備制度、2021年4月7日。
4.出所:ロイター、“Fed policymakers see risk from infections, not inflation” 。
5.出所:60ミニッツ、2021年4月11日。
6.出所:ロイター、“WHO warns on Brazil COVID-19 outbreak as Bolsonaro blasts Senate inquiry”、2021年4月9日。

 

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

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