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ワクチンで再始動するイスラエル経済

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イスラエルの事例は、米国や英国などワクチン接種が進んでいる国への指針となるだろう

〔要旨〕

イスラエルでは経済指標の改善が続く:経済活動の状況を示すモビリティ(ヒトやモノなどの移動量)が大幅に増加

経済再開後の道筋を示すイスラエル:イスラエルの現状は、人口の多くがワクチン接種している国々の今後を表している

株式市場への示唆:現在の景気回復は非常に力強く、小型株やシクリカル株のアウトパフォームを見込む

ワクチン接種が最も進んでいるイスラエルでは、経済再開が順調に進む
イスラエルでは、ワクチン接種が進むにつれ、感染者数が減少し、制限措置が緩和され、ヒトやモノの移動が大幅に増加

今回の経済活動の再開が過去とは異なる理由
ワクチン接種を完了した消費者はパンデミック前のような消費行動を楽しむことができ、また、ワクチンの有効性は高い

米国や英国でこの先予想されること
米国や英国、そしてワクチン接種が広く行われいる国々では、まもなく、イスラエルのような経済活動の再開が見られるだろう

投資への影響
①米国での増税の可能性、②各国経済の先行き—に注目

1カ月前、私は、国民一人当たりの新型コロナウイルスワクチンの接種について、イスラエルが最も進展しているとご紹介しました。そして、イスラエルの経済指標に注目して、ワクチン接種が急速に進んでいる米国と英国をはじめとする国々の景気回復の行方を考えたいと述べました。本稿では、ワクチン接種により消費意欲が回復し、実際に支出が拡大している現在のイスラエル経済に着目するとともに、ワクチン接種が進んでいる他の国々の見通し、そして投資への影響を取り上げたいと思います。

ワクチン接種が最も進んでいるイスラエルでは、経済再開が順調に進む

イスラエルでは、ワクチン接種が進むにつれ、感染者数が減少し、制限措置が緩和され、ヒトやモノの移動が大幅に増加

イスラエルでは、2020年12月に新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、その後急速にワクチン接種者数が増加しました。4月4日時点では、人口の59%が1回目の、54%が2回目のワクチン接種を完了しています 1 。同国では、ワクチン接種による経済への有効性が比較的早い段階で確認されました。具体的には、ワクチン接種が進むにつれて感染者数が減少し、制限措置が緩和され、3回目の都市封鎖(ロックダウン)が解除されました。そして、イスラエル銀行(中央銀行)が発表した2月の総合経済指数は、前月比0.4%の上昇となりました 2

ヒトやモノの移動量を示すモビリティは、経済活動の活発さを理解するのに有用な指標ですが、イスラエルではこれらの大幅な増加が確認されています。2021年3月末時点では、レストラン、カフェ、ショッピングセンター、映画館など、小売およびレクリエーションのモビリティは2020年1月と比べてわずか6%低いレベルにとどまり、食料品や薬局のモビリティは2020年初よりも高くなっています 3 。そして、3月は経済活動の加速が確認されました。例えば、クレジットカードの日々の認証処理ベースを見ると、2020年4月時点ではコロナ危機前の2020年1月よりも40%以上減少していましたが、2021年3月22日の1週間では15%増加しています 4 。内訳をみると、新型ウイルスの感染拡大(パンデミック)の影響を最も受けた分野、特にレジャーと観光に関する支出が大きく増加したことが明らかになりました。

今回の経済活動の再開が過去とは異なる理由

ワクチン接種を完了した消費者はパンデミック前のような消費行動を楽しむことができ、また、ワクチンの有効性は高い

今回の経済活動の再開は、過去のもの、例えば2020年春に見られた状況と何が異なるのでしょうか。ワクチンが広く接種される前は、経済活動の再開は両刃の剣であり、しばらくして新型ウイルスの感染が再拡大することがよくありました。また、一部の消費者は、健康面での安全への懸念から、経済活動が再開後も、外出して消費することをためらい、経済の回復は抑えられました。

しかし、私は、今回の経済再開では、ワクチン接種を完了した消費者はパンデミック前のような消費行動を楽しむことができ、また、医学研究によるとワクチンの有効性が高いことから、過去の再開時のように消費が抑制されることはないと考えます。経済活動が再開しているイスラエルは、ワクチン接種が消費の拡大に寄与することを証明しており、また、同国では新型ウイルス感染の新たな波も確認されていません。

米国や英国でこの先予想されること

米国や英国、そしてワクチン接種が広く行われた国々では、まもなく、イスラエルのような経済活動の再開が見られるだろう

私は、米国や英国、そしてワクチン接種が広く行われた国々では、まもなく、イスラエルのような経済活動の再開が見られると考えます。米国では、人口の31%が1回目のワクチン接種を、18%が2回目を完了しています 1 。英国では、2回のワクチン接種が完了したのは人口の7.8%のみですが、47%が1回接種しています 1

米国経済は、財政刺激策などに支えられてすでに大きく改善しています。例えば、3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比91.6万人増となり、市場予想をはるかに上回りました 5 。また、3月のISM非製造業(サービス業)景況指数は、18業種すべてで活動が拡大した結果、63.7と市場予想をはるかに上回りました 6 。ただし、米国の一部の州で新型コロナウイルスの感染者数が増加していることは懸念材料です。感染者の増加を抑え込むには、加速しているワクチンの接種ペースを維持する必要があるでしょう。英国では状況が少し異なり、ロックダウンがより厳格なため、それほど改善は見られませんが、封鎖措置は徐々に緩和されています。

投資への影響

①米国での増税の可能性、②各国経済の先行き—に注目

ワクチン接種者数の増加と経済指標の改善を背景に、特に景気回復で先行している国々では、債券利回りの継続した上昇と、小型株とシクリカル株のアウトパフォームを予想しています。

米国では、今後、増税への懸念が高まると予想されます。そしてそれは、パンデミックにより債務水準が上昇した多くの国々でも同様でしょう。増税、特に法人税率が大幅に引き上げられる公算が大きくなる場合には、市場のリーダーシップ(けん引役)が大型株やディフェンシブ株にシフトする可能性が考えられます(ただし、現時点ではその可能性は低いと考えます)。これにより株式市場の回復が終わるとは考えませんが、リーダーシップの変化が起こりうることは強調しておきたいと思います。

ただし、現在注目すべきは、新型コロナウイルスの感染とワクチン接種の状況です。米ブルッキングス研究所とフィナンシャル・タイムズ算出の世界経済回復トラッキング指数が示しているように、新型コロナウイルスを抑制できるかどうかが、各国の2021年の経済回復を左右します 7 。同指数は、主要経済大国である中国や米国が世界経済の回復を主導していることを示している一方で、ワクチンの供給が進展しておらず、ウイルス感染の抑制に苦労している欧州や中南米では回復が遅れることが予想され、各地域の経済回復は一様でないことを示唆しています。これは、私たちが2021年の経済見通しにおいて予想していたことです。すなわち、世界の各国経済は着実に回復するものの、その程度はどれだけウイルスを抑制できるのか、ワクチンの供給が進むのか、によって左右されます。引き続き、その動向を注視していきたいと思います。

 

1.出所:ニューヨーク・タイムズ、“Tracking coronavirus vaccinations around the world”、2021年4月4日。
2.出所:イスラエル銀行、2021年3月24日。
3.出所:グーグル、“COVID-19 コミュニティ モビリティ レポート”、2021年3月31日。
4.出所:イスラエル銀行。
5.出所:米国労働省労働統計局、2021年4月2日。
6.出所:米ISM非製造業サーベイ、2021年3月。
7.出所:ブルッキングス研究所、“April 2021 update to TIGER: The world economy stumbles toward a two-track recovery”、2021年4月4日。

 

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

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