iDeCoは、自分で選んだ金融商品に積立投資を行い、その運用成果を老後の年金として受け取る私的年金制度です。最大の魅力は「税制優遇」ですが、加入しているだけでは節税効果を得られないものがあることをご存じでしょうか。
今回は税制優遇を受けるための手続きについて、節税額のシミュレーションも交えながら詳しく解説します。
目次
まずは、iDeCoの税制優遇が受けられる3つのタイミングを確認しておきましょう。
iDeCoでは毎月の「積立金」が全額所得控除の対象となり、これによって所得税と住民税が軽減されます。どのくらい節税できるかは、年収や積立金額によって異なります。iDeCoは長期間積み立てることを想定していますが、全期間を通して所得控除が適用されるため、大きな節税効果を期待できます。
iDeCoの運用商品は、株式や債券などを組み合わせた「投資信託」や、定期預金や保険などの「元本保証型商品」から自由に選択できます。
投資信託を運用して生じた利益には、通常20.315%の税金(所得税15.315%・住民税5%、2037年まで復興特別所得税が上乗せされる)がかかります。10万円の利益が出たとしても、約2万円が税金として引かれるのです。
しかし、iDeCoでは運用期間中の利益がすべて非課税になるため、資産を効率良く増やすことができます。
iDeCoは、老後資金形成のための制度です。加入時期にもよりますが、受給年齢は原則60歳以降で、年金か一時金かを選ぶことができます。
年金で受け取る場合は「公的年金控除」が適用され、公的年金と合算して一定金額までは非課税で受け取れます。いくらまで非課税で受け取れるかは、合算額によって変わります。60歳から受給する場合は、まだ公的年金の受給が始まっていないため、年額70万円までが非課税になります。
一時金で受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、退職一時金と合算して一定金額までは非課税です。非課税額は、退職金を受け取る会社の勤続年数やiDeCoの積立年数によって変わります。できれば退職金とiDeCo一時金を受け取る年をずらすと、それぞれの税制優遇による節税効果が高まります。
運用益の非課税については、手続きは不要です。iDeCo口座を開設し、そこで運用を行うだけで自動的に適用されます。受給時の所得控除については、確定申告が必要です。
最も大切なのは、「積立金の所得控除」に関する手続きを忘れないことです。ここからは、しっかり節税をするための手順を紹介します。
毎年10月頃、「小規模企業共済等掛金払込証明書」という積立金の払込証明書が発行されます。これが、iDeCoの控除証明書です。11月頃、それぞれの勤務先で年末調整が始まるので、生命保険料控除などと同様に手続きを行いましょう。
このとき、配偶者が加入しているiDeCoの積立金を合算することはできません。
-年末調整の手順
【1】勤務先から、年末調整書類「源泉徴収簿」をもらいます。
【2】源泉徴収簿の「申告による小規模企業共済等掛金の控除分」欄に払込証明書の内容を転記し、添付して勤務先に提出します。
2020年10月以降を目途に、年末調整の電子化が進められています。電子化が完了すると、控除証明書はデータとして取得することになり、利用者はそれぞれPCやスマホで必要事項を入力した申告書を勤務先に送信するだけで手続きを終えることができます。電子化した年末調整が利用できるかどうかは、それぞれの勤務先に確認してください。
-事業主払込の場合
会社員・公務員でiDeCoの積立金を給与天引き(事業主払込)にしている場合は、事業主が代わりに手続きを行ってくれるので、個別で手続きをする必要はありません。
自営業・フリーランスの人は、確定申告で所得控除の手続きを行います。控除証明に使う「小規模企業共済等掛金払込証明書」は毎年10月頃に発行されるので、2月の確定申告まで紛失しないよう気をつけましょう。
-確定申告の手順
【1】「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」を用意します。申告書類は、税務署・確定申告会場、あるいは市区町村の担当窓口などでもらうほか、国税庁ホームページからダウンロードすることもできます。PCやスマホで書類作成まで行う方法が便利です。
【2】「確定申告書」の「⑦小規模企業共済等掛金控除」欄に払込証明書の内容を転記して、添付します。
【3】書類は従来通り申告会場で提出するか、郵送あるいはe-Taxでデータ送信する方法を選択できます。
-年末調整に間に合わなかった人も確定申告のタイミングで還付申告ができる
会社員・公務員でiDeCo積立金控除が年末調整に間に合わなかった人は、確定申告の時期に「還付申告」を行うことで、納め過ぎた所得税の還付を受けられます。
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年末調整や確定申告には、多少の手間がかかります。書類への記入を面倒に感じたり、控除証明書を紛失したりすることもあるでしょう。
そこで、正しく申告することでどのくらい節税できるか見てみましょう。
課税所得金額 | 所得税の速算表 | 住民税の速算表 | ||
税率 | 控除額 | 所得割 | 均等割(加算) | |
1,000 ~ 194万9,000円 | 5% | 0円 | 10% (都道府県民税4%・市区町村民税6%) | 5,000円 (都道府県民税1,500円・市区町村民税3,500円) |
195万 ~ 329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 | ||
330万 ~ 694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 | ||
695万 ~ 899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 | ||
900万 ~ 1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 | ||
1,800万 ~ 3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 | ||
4,000万円 以上 | 45% | 479万6,000円 |
所得税は「課税所得金額×税率-控除額」、住民税は「課税所得金額×10%+5,000円」で算出できます。iDeCoの所得控除は「課税所得金額」を減らす効果があるため、所得税と住民税の軽減につながるのです。
iDeCoは月額5,000円から積み立てることができますが、上限額は会社員・公務員・自営業など職業(国民年金の加入区分)によって異なります。それぞれの上限まで積み立てた場合の節税額をシミュレーションしてみましょう。
-会社員 年収500万円・企業年金なしの場合
投資金額 | 積立金 | 所得税軽減額 (税率10%) | 住民税軽減額 (税率10%) | 合計節税額 |
---|---|---|---|---|
最低額 | 5,000 円/月 | 6,000 円/年 | 6,000 円/年 | 1万2,000 円/年 |
上限額 | 2万3,000 円/月 | 2万7,600 円/年 | 2万7,600 円/年 | 5万5,200 円/年 |
※2020年4月1日現在の法令等に準じますが、所得税・住民税ともに復興特別所得税は考慮していません。
※課税所得=年収-{給与所得控除・基礎控除(48万円)・社会保険料控除(14.22%)}から、所得税率を計算しています。
年収500万円の会社員がiDeCoで上限額まで投資した場合、所得税・住民税の節税額は年間5万5,200円になります。10年間で55万2,000円、20年間で110万4,000円も節税できるのです。
会社員の場合、企業年金の有無によって上限額は1万2,000円、2万円、2万3,000円の3通りあります。加入している企業年金の規約によっては、加入が制限されることもあります。詳しい上限額は、公式サイトで確認できます。
-公務員 年収400万円の場合
投資金額 | 積立金 | 所得税軽減額 (税率5%) | 住民税軽減額 (税率10%) | 合計節税額 |
---|---|---|---|---|
最低額 | 5,000 円/月 | 3,000 円/年 | 6,000 円/年 | 9,000 円/年 |
上限額 | 1万2,000 円/月 | 7,200 円/年 | 1万4,400 円/年 | 2万1,600 円/年 |
※2020年4月1日現在の法令等に準じますが、所得税・住民税ともに復興特別所得税は考慮していません。
※課税所得=年収-{給与所得控除・基礎控除(48万円)・社会保険料控除(14.22%)}から、所得税率を計算しています。
公務員は、公的年金が手厚い分iDeCoの上限金額が低く、上限まで投資しても税の軽減額は年間2万1,600円にとどまります。それでも、10年で21万6,000円、20年で43万2,000円が節税できます。
-自営業・フリーランスの人
投資金額 | 積立金 | 所得税軽減額 (税率20%) | 住民税軽減額 (税率10%) | 合計節税額 |
---|---|---|---|---|
最低 | 5,000 円/月 | 1万2,000 円/年 | 6,000 円/年 | 1万8,000 円/年 |
上限 | 6万8,000 円/月 | 16万3,200 円/年 | 8万1,600 円/年 | 24万4,800 円/年 |
※2020年4月1日現在法令等に準じますが、所得税・住民税ともに復興特別所得税は考慮していません。
※課税所得=年収-{給与所得控除・基礎控除(48万円)・社会保険料控除(14.22%)}から、所得税率を計算しています。
最も大きな節税効果を得られるのは、自営業・フリーランスの人が上限額を積み立てた場合です。年間24万4,800円、10年間で244万8,000円、20年間で489万6,000円も節税できます。
自営業・フリーランスの人は国民年金のみに加入しており、厚生年金や共済組合のような公的年金制度による上乗せがありません。したがって節税しながら資金準備をしておけば、老後に大きな差が出るのではないでしょうか。
「節税シミュレーション」は、iDeCo公式サイトあるいはiDeCoを扱う金融機関の公式サイトなどで行えます。より細かい条件を設定して計算できるサイトもあるので、自分の条件を入力して確認してみるとよいでしょう。
せっかくの税制優遇も、申告しておかなければないのと同じです。年末調整・確定申告に向けて、しっかり準備しておきましょう。電子化やe-Taxなど、非対面式の便利なツールを使うことで、時間と労力を節約する方法がおすすめです。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。