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英国とEU間の貿易協定締結の可能性は残っているのか?

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英国はEUとの交渉を中断するも、貿易協定締結の可能性は未だ残る

〔要旨〕

●高まる「ノーディール・ブレグジット」の可能性
●英国景気が二番底をうかがうリスクは、他の主要な西欧諸国よりもはるかに高い見込み
●現状、包括的な貿易協定が締結される可能性はゼロではなく、また、複数の業種で個別の協定が締結される可能性も残る

ノーディール・ブレグジット
ノーディール・ブレグジットとなれば、英国株式と英ポンドはさらに弱含むと思われるが、長期的には英国資産は成長軌道に戻ると予想

交渉は継続されるだろうか?
カナダ型をモデルにした包括的な貿易協定の成立の可能性もわずかに残り、その場合、英ポンドの急反発を予想

今後の見通し
ブレグジット交渉の進展、米国景気刺激策の動向などを注視

英国はEUとの貿易協定交渉を中断
英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)交渉が遅々として進まない中、前週は、重要な動きが見られました。2020年末のEUからの離脱に向けて、英国は以前から、将来の貿易関係についてEUと交渉を続けています。そして、英国は、10月15日までに合意に達しない場合、交渉を打ち切ると発表していました。EU首脳陣は、明らかに自分たちが優位な立場にいると考えており、議論中のいくつかの重要問題について英国に同意するよう求めました。しかし、英国はこれを拒否し、前週の金曜日、英国のジョンソン首相は、EUとの貿易協定について、合意なき離脱に備える必要がある、と発表しました。ジョンソン首相は、EUが、EU-カナダ間の貿易協定をモデルとした自由貿易協定を英国と結ぶことを拒否したため、英国は「合意なき離脱」への準備が必要だ、と述べています。

今週には交渉が再開する見込み
中断された交渉は、いつ再開されるのでしょうか?EU側は「公正な取引」に達するまで「集中した」協議を望んでいるため、今週には交渉が再開される見込みです。ジョンソン首相は「交渉の決裂」を受け入れているようですが、英国内閣の一部のメンバーは、この結果がもたらす影響を非常に懸念しており、英国がより柔軟な対応をとる可能性もあります。

以下、今後起こりうる結果を考察します。

ノーディール・ブレグジット

高まる「ノーディール・ブレグジット」の可能性

最も可能性の高いと考えられるシナリオから考えてみましょう。EU首脳が交渉決裂における緊急的な対応策を検討し始めていることからも明らかなように、ノーディール・ブレグジットの可能性は確かに高まっています。「ノーディール」とは正確にはどのような意味でしょうか?おそらく、英国とEUは、世界貿易機関(WTO)のルール(燃料と医薬品は0%、車両は9%、穀物と食肉は45%-50%の関税率)に基づいて貿易協定を結ぶと見込まれます 1

貿易協定が決裂した場合、パンデミック下で大きく停滞している英国経済への影響は甚大だろう

2019年における英国の輸出の43%、輸入の約半分が対EU 2 のため、貿易には重大な悪影響が及ぶことが予想されます。新型ウイルスの世界的な大流行(パンデミック)の影響により経済がぜい弱な状態でのノーディール・ブレグジットは、英国、EU、そしてその他の国々に広がるサプライチェーン全体を混乱させる可能性があります。さらに、英国とEUでは新型ウイルスの感染が再拡大しており、部分的な都市封鎖(ロックダウン)が実施されるなど、新たな全国規模のロックダウンのリスクも高まっています。このような環境下、英国とEU間の貿易を含む多くの経済活動は、例年を大幅に下回り続ける恐れがあります。これらにノーディール・ブレグジットが重なった場合、財や農業の貿易における混乱は、経済にさらなる打撃を与え、英国とEUともに政治的な問題を引き起こすでしょう。そして、英国の景気が二番底をうかがうリスクは、主要な西欧諸国よりも高くなるでしょう。

スコットランド独立やアイルランドの統一など、英国分裂のリスクが高まる可能性

これにより、英国の分裂など、さらなるリスクが高まるかもしれません。現に、スコットランド独立のみならず、アイルランドの統一を求める政治的圧力が高まっています。2014年にスコットランドが独立を問う住民投票を行った際、英国はEUにとどまり続けるとして、スコットランドに対して英国残留のキャンペーンを実施しました。ジョンソン首相は、スコットランド独立に関する2回目の住民投票を許可しない考えを示しましたが、特に5月のスコットランド議会選挙で国民党が躍進した場合、スコットランド独立の機運が高まる見込みです。このシナリオにおける明るい側面は、英国分裂のリスクが、英国のEU離脱のスピードと程度を緩和させる可能性があることです。そして、EU加盟国とその他の国がブレグジットと新型ウイルスの対応に協力しているという事実も存在します。実際、スイスは、直近にEUとの関係と貿易協定に関して国民投票を実施し、EUとの人の移動の自由の継続が決定しました 3

2016年の英国の国民投票以降、英ポンド安が継続

金融市場はすでにブレグジットの影響を織り込んでいますが、それはポジティブなものではありませんでした。2016年の国民投票後、英ポンドは下落し、その後も低迷が続いています。英ポンドの下落は、英国経済の競争力が低下したという投資家の判断と見なすことができるでしょう。また、通貨安により世界株式のパフォーマンスを上回ると予想されていた英国株式は、英ポンド安にもかかわらず、ここ数年軟調に推移しており、ブレグジットが英国経済に与える影響について悲観的な見方が示されています 4

ノーディール・ブレグジットとなれば英国株式と英ポンドはさらに弱含む見通し

私たちは、ノーディール・ブレグジットをきっかけに、英国株式と英ポンドの軟調さが継続、または悪化すると考えています。EUとの貿易交渉における緊張は、英国やスコットランドのナショナリズムや、統一アイルランド主義の高まりに現れており、特に、経済成長と投資の低さ、金融市場のボラティリティの高さ、英国のリスク資産と英ポンドの低迷、そして債券利回りの低下基調が継続する可能性があることを示唆しています。また政治的な混乱は、通常時であれば他の主要市場と比較して割安な英国資産の投資機会をうかがう投資家までをも落胆させ、短期的な「バリュートラップ」の状態を引き起こすでしょう。

長期的には、英国政府の混乱が是正され、英国資産価値が成長軌道に戻ると予想

しかし、長期的には、英国政府が徐々に適切な方法を探し、正しい政策を選び始めることで、英国資産の価値の再評価がなされ、成長軌道に戻ることを予想しています。現在の状況下、私たちは英国の状況を注視しながら、幅広い国と資産クラスに分散させたポートフォリオを保つ必要があると考えています。そして政策が転換された場合においても、より分散化されたポートフォリオが良き備えとなるでしょう。英ポンドと英国債の動き、そして英国株式と世界株式の相対感などは、英国の成長率期待が著しく低下したブレグジットの期間に見られた動きとは対照的になる可能性があります。

交渉は継続されるだろうか?

貿易協定の成立の可能性は残り、その場合、英ポンド安の反転を予想

英国政府が設定した非公式の期限である10月15日は過ぎましたが、貿易協定が成立する可能性はわずかながら残っており、カナダ型をモデルにした貿易協定が結ばれる可能性もあります。この結果は市場への大きな安心材料となり、国民投票以降続いていた英ポンド安は反転するでしょう(ただし、パンデミック下での英国資産の低パフォーマンスと2016年以降のコモディティ価格の弱さを考えると、おそらく下落分をすべて取り返すことはできないでしょう。なお、コモディティ価格は英国の株式市場に対しては大きな影響がありますが、実体経済に対してはそれほど重要ではありません)。このシナリオ下では、英ポンドの大幅な上昇や、英国株式のアウトパフォームが予想されます。

英国の大型金融や専門サービスセクターなどの分野で自由貿易協定が締結される可能性もある

そして、EUと英国が小粒な自由貿易協定を結ぶ可能性もあるでしょう。これは、英国の大型金融や専門サービスセクターなどの一部の業種で協定が締結される可能性です(このシナリオ実現の可能性は、包括的な協定締結よりも高いでしょう)。このシナリオでは、深刻な混乱は回避されると考えられますが、根本的な問題の解決にはなりえません。英ポンドと英国株式はわずかながら上昇すると考えますが、包括的な英国のEU離脱協定が成立した場合に予想されるような英ポンドの力強い反発は見込めないでしょう。

今後の見通し

ブレグジット交渉の進展、米国景気刺激策の動向などを注視

今後1週間は、ブレグジット交渉の進展と米国の景気刺激策の動向を注視していきます。そして、懸念が高まっている米国、英国、ユーロ圏での新型ウイルスの感染率についても注意深く見守っていきたいと思います。

1.出所:世界貿易機関(WTO)。
2.出所:英国下院図書館、“Statistics on UK-EU trade”、2020年6月17日。
3.出所:BBC、“Switzerland referendum: Voters reject end to free movement with EU”、2020年9月27日。
4.出所:Refinitiv Datastream、MSCI英国インデックス、MSCIワールドインデックス(ともに現地通貨ベース)。MSCIワールドインデックスは、MSCI.Inc.が開発した株価指数で、日本を含む世界の先進国で構成されています。MSCI英国インデックスは、MSCI.Inc.が開発した株価指数で、英国の大型株式で構成されています。

 

著者について

クリスティーナ・フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

アーナブ・ダス
欧州・中東・アフリカ担当
グローバル・マーケット・ストラテジスト

ポール・ジャクソン
グローバル・ヘッドアセット・アロケーション・リサーチ

 

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