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目次
要旨
感染拡大で米株高の構図が揺らぐ兆候
米国の株価堅調の背景には、①財政・金融政策に支えられる形で経済活動が持続的に改善してきたこと、②ワクチン開発に関する明るいニュース、があると考えらえます。しかし、フロリダなど一部での感染拡大により、景気の持続的な改善には疑問符がつき始めました。
米国CDCデータは今後の「医療崩壊」の可能性を示唆
米国CDC(疾病予防管理センター)のデータでは一部州での集中治療室(ICU)の稼働率が直近で上昇しており、現在のペースで感染拡大が続けば「医療崩壊」の回避は困難です。足元では景気への悪影響が顕在化する兆しも出てきました。
8~9月に米国発の株価調整リスク
今後、感染の拡大による経済活動の停滞が実際の経済指標でも確認され始めれば、業績への悪影響を織り込んで株価が一時的に調整局面に入る可能性が生じます。そのタイミングとしては8~9月が想定されます。
感染拡大で米株高の構図が揺らぐ兆候
米国の株価が足元まで比較的堅調に推移しているのは、①財政・金融両面からの積極的な政策に支えられる形で経済活動が4月上旬以降、持続的に改善してきたこと、②コロナウイルスのワクチンの開発に関する明るいニュースが相次いでいること、による面が大きいと考えられます。②については、ワクチンの普及によって景気が2021年中に大きく改善するという期待感が相場の楽観論を強めているとみられます。
しかし、足元でこの株高を支えてきた構図が揺らいでいます。コロナウイルスの感染拡大によって景気の持続的な改善(①)に疑問符がつき始めているためです。米国の一部地域では感染拡大が深刻化しており、直近の人口100万人当たりの日次感染者数はフロリダ州で500人を超え、その感染拡大ペースはニューヨーク州で4月上旬につけたピークをも上回っています。アリゾナ、テキサス、ジョージア、サウスカロライナ州等でも人口100万人あたり感染者数が300人を超えています(図表2)。多くの州で厳しいロックダウン措置が実施された米国では、ロックダウンに伴う経済的影響が深刻であったことから、連邦政府や州政府の多くは、感染者が多少増えたとしてもロックダウンを再実施することには慎重です。しかし、ICU(集中治療室)が不足するほど重症のコロナの感染者が増加するとなれば話は別であり、州当局は感染拡大を防止する措置を講じざるをえなくなります。
米国CDCデータは今後の「医療崩壊」の可能性を示唆
米国CDC(疾病予防管理センター)が公表する州別のICU稼働率データをみると(図表1)、直近の7月7日時点ではジョージア州(81.4%)、アリゾナ州(80.1%)で80%を超える一方、ネバダ州(78.1%)、サウスカロライナ州(73.7%)、テキサス州(70.3%)の稼働率も70%を超えていました。これらの州のうち、アリゾナ州、フロリダ州、ジョージア州では1カ月前と比較してICU稼働率が10%ポイント以上上昇しており、このままのペースで感染拡大が続けばICU不足による「医療崩壊」の回避は困難になるとみられます。また、州全体としてはICUに余裕があっても、市や郡レベルでは、クラスターの発生によってICUが不足するケースが出始めている模様です。諸報道によれば、テキサス州ではヒューストン、オースチン、ダラスなどの主要都市では多くの病院で病床が満室になりつつあるとのことです。
既にカリフォルニア州では屋内のレストラン等の営業が再び禁止されていますが、今後はさらに多くの州・地方政府が経済活動を制限したり、消費者が自発的に外出を控える可能性が視野に入ってきます。既にその兆候は表れ始めており、Google がスマートフォン等の位置情報サービスによって収集したデータをみると、4月中旬以降に継続的に改善基調にあったモビリティ指数が、7月初めから停滞していることが読み取れます(図表3)。
8~9月に米国発の株価調整リスク
今後、感染の拡大による経済活動の停滞が実際の経済指標でも確認され始めれば、業績への悪影響を織り込んで株価が一時的な調整局面に入る可能性が生じます。そのタイミングとしては8~9月が想定されます。7月中は、トランプ政権と議会首脳部による追加的な大型財政刺激策を巡る交渉が株価をサポートする公算が大きいとみられるためです。この交渉によって合意が成立するのはほぼ確実とみられ、早ければ7月中にも1~2兆ドル規模の財政出動が決まるとみられます。しかし、財政出動による刺激策が株価に織り込まれた後、「医療崩壊」や経済活動の停滞が見込まれる事態となれば、ワクチン開発の想定以上の進展を示すニュースがない限りは投資家の楽観論が損なわれ、株価調整の可能性が高まります。米国で株価が調整する場合は、グローバルな株価調整につながることは避けられないでしょう。
他方、米国株がいったん調整したとしても、金融市場安定を目指してFRB(米連邦準備理事会)が何らかのアクションを起こす可能性が高いうえ、ワクチン開発の進行に伴って景気の回復を見据えた楽観論が再び市場で力を取り戻す公算が大きいとみられます。このため、感染拡大をきっかけに株価が比較的大きく下落する場合は、投資の機会となるでしょう。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2020-106