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感染者数の増加に伴う「大きな政府」の重要性

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追加の財政刺激策が視野に

〔要旨〕

✔︎ジェームス・ボンドの活躍と、大きな政府による問題の解決は同じこと

✔ウイルスの感染拡大の抑制ができていない米国ではさらなる政府の支援が必要

✔マスクとは「布でできたワクチン」のようなものである

●米国では追加の財政政策の議論が進行中

—追加の財政出動には①雇用給付金の延長、②低所得世帯への新たな補助金、③州・地方政府への資金提供―が含まれる見込み

—今後も定期的な追加の刺激策に関する法案の通過が必要になると予想

●マスクの着用する人々が増える中、ワクチン試験も順調に進行

—ワクチンの初期段階試験では被験者全員が抗体を獲得

—マスク着用が美容院での感染拡大を防いだことに注目

●今後の見通し

—マスクの着用は人々と米国株の健康を促す簡単な方法

—①財政刺激策の実現、②米中間で高まる緊張―が株式市場の動向を左右するだろう

ジェームズ・ボンドの任務遂行のように「大きな政府」による難問の解決がしばしば必要とされる

この週末、ジェームズ・ボンドの映画「カジノ・ロワイヤル」がテレビで放映されていました。今まで考えたことは無かったのですが、私は007の任務遂行のために費やされる政府の支出ばかりに、気が取られました。実際のところ、ジェームズ・ボンドは自立した裕福な男性ではありません。高価な道具や時計、豪華な自動車やホテルの宿泊施設、あるいは賭博にかかる膨大な費用さえも、英国の納税者の負担によって賄われているのだと想像していました。仮に、ジェームズ・ボンドが実在の人物で、米国人であったとしたら、「大きな政府」のシンボルとして、彼への抗議は激しいものになるのではないでしょうか?しかし、心にとどめておくべき重要なことが1つあります。彼の任務により危機は解決し、ほとんどの人々は彼のファンになります。そして実社会では、ジェームズ・ボンドの映画のように、大きな政府による難問の解決がしばしば必要になります。

世界金融危機時、米国政府の介入が米国経済を救う

その実例として、世界金融危機時の経済を救うために実行された、米国政府の介入を思い出してください。通常なら大きな政府に反対する当局者でさえ、問題の解決には強力な対応が必要であることを理解していました。当時の米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、「戦争時の塹壕(ざんごう)の中に無神論者はいないし、金融危機のときにイデオロギーを論じている余裕はない 1 」という有名な言葉を残しています。

ウイルスの感染拡大の抑制ができていない米国ではさらなる政府の支援が必要

今日の危機は人々の生死に関わるものであり、経済への影響も非常に大きいものです。そして、特に米国では、ユーロ圏、英国、中国などのその他の主要経済国と異なり新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることができていないため、追加の財政刺激策について多くの不満が出ることはないと考えます。経済指標は改善していますが、さらなる政府の支援が必要なのは明らかでしょう。

米国では経済活動の停滞が懸念される一方、中国では経済回復への十分な用意ができている

前週取り上げたように、米国はウイルスの抑制に成功している中国とは状況が大きく異なります。前週、米国では1日当たり新規感染者数がおよそ7万5,000人となりました 2 。米国での感染の増加により、感染防止策の厳格化、すなわち、再度の都市封鎖と、各家庭での自宅待機の可能性が高まり、回復していた米国の経済活動が停滞する恐れがあります。これは、2020年4-6月期の国内総生産(GDP)から経済の回復が進んでいることが確認された中国とは異なる点です。中国では、ウイルスが抑制され、都市封鎖が解除されました。そして、財政刺激策も強化されました。このように、中国はウイルスの初期の制御に成功したため、2020年後半に予測される第2波への対処を含め、経済回復の道筋への十分な用意ができていると考えられます。

米国では追加の財政政策の議論が進行中

追加の財政出動には①雇用給付金の延長、②低所得世帯への新たな補助金、③州・地方政府への資金提供―が含まれる見込み

米国では、追加の景気支援策への議論が進んでいます。塹壕の中に無神論者はいないということわざの通り、積極的な財政再建論者(財政タカ派)は口をつぐんでおり、1兆米ドル超の財政刺激策が用意されるとの観測が高まっています 3 。この刺激策には、(上限は引き下げられるものの)雇用給付金の延長、低所得世帯への新たな補助金、州・地方政府への資金提供が含まれる見込みです。(補足:トランプ大統領が給与税への減税が含まれていない場合には拒否権を行使すると発言していることを踏まえると、現在議論が進んでいる刺激策は確定しているものではありません。)

今後も定期的な追加の刺激策に関する法案の通過が必要になると予想

この刺激策は5月に米国下院を通過した、3兆米ドルの追加景気支援法案であるHEROES法ほど寛大なものではありませんが、正しい方向へ進んでいると考えます。私は、経済維持のため、米国議会は1〜2カ月に1回のペースで追加の刺激策に関する法案を通過させなければならないと予想しています。特に「感染者数の曲線」が下降していない場合はなおさらでしょう。

マスクの着用する人々が増える中、ワクチン試験も順調に進行

ワクチンの初期段階試験で被験者全員が抗体を獲得

公衆衛生面でもいくつかの好ましいニュースが確認されています。前週、米バイオ医薬ベンチャーのモデルナが開発したワクチンの初期段階試験で、被験者全員が抗体を獲得したことが示されました 4 。これは、回復期の血清(すなわち、コロナウイルスへ感染が確認された患者の回復後に採取された血清)の平均よりも高いものでした。現段階では、このワクチンが長期的な免疫を作るかどうかは不明ですが、被験者の抗体の状況は引き続きモニターされており、今後が注目されます。

マスク着用が美容院での感染拡大を防ぐ

同様に重要なのが、ウォールストリートでは話題になりませんでしたが、前週、ミズーリ州スプリングフィールドの2人の美容師について、米国疾病予防管理センター(CDC)が発表した情報です 5 。この美容師らは2020年5月、新型コロナウイルスに感染し、症状があるにもかかわらず勤務を続け、139人もの顧客を相手にしました。ただし、新型コロナウイルス検査を受けた同顧客の67人すべてが陰性で、二次感染の症例は報告されていません。CDCは、ヘアカット中に顧客も美容師もマスクを着用していたために感染の拡大が抑えられたとして、マスクの着用を呼びかけました。

今後の見通し

マスクの着用は人々と米国株の健康を促す簡単な方法

私は、米国人がマスクを着用することが経済活動の再開を支援し、2020年5月中旬まで経済活動をほぼ停止させたような厳しい都市封鎖の再開を回避できると考えます。マスクの着用は人々と米国株の健康を促す簡単な方法です。マスクとは、布で作られたワクチンのようなものです。

①財政刺激策の実現、②米中間で高まる緊張―が株式市場の動向を左右するだろう

今後の株式市場は、財政刺激策の実現(それがHEROS法よりも小規模であったとしても)に関するニュースの恩恵を受けると考えます。米国の巨額かつ増加を続ける財政赤字に反して、大きな政府への動きは株式市場にとって朗報となる可能性が高いと思います。一方で、米国と中国の間で緊張が高まっていることが懸念されます。先週、ウィリアム・バー米司法長官は、ミシガン州での講演で、米国に対する「経済的な攻撃」について中国を非難しました 6 。また、トランプ大統領は、中国に対する制裁法案と、香港への優遇措置を廃止する大統領令に署名しました 7 。中国からの報復も予想されるため、これらの世界の株式市場への影響が懸念されます。私たちはこの状況を注意深く見守っていきたいと思います。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

1.出所:ニューヨーク・タイムズ、“A Professor and a Banker Bury Old Dogma on Markets”、 2008年9月20日。
2.出所:米国疾病予防管理センター。
3.出所:CNBC、“Nancy Pelosi says coronavirus aid bill will cost at least $1.3 trillion, but ‘that’s not enough’”、2020年7月16日。
4.出所:ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン、“An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2 — Preliminary Report”、 2020年7月14日。
5.出所:米国疾病予防管理センター、“Absence of Apparent Transmission of SARS-CoV-2 from Two Stylists After Exposure at a Hair Salon with a Universal Face Covering Policy — Springfield, Missouri, May 2020”、2020年7月17日。
6.出所:CNBC、“AG Barr slams U.S. tech companies for becoming ‘pawns of Chinese influence’”、2020年7月16日。
7.出所:NBC News、“Trump signs Hong Kong sanctions bill, announces executive order in escalation with China”、2020年7月14日。

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