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目次
FRBは力強く経済を支える構えを見せるも、さらなる財政支援策が必要と考える
〔要旨〕
1.予想を上回る雇用統計にもかかわらず、FRBは、米国経済は依然として厳しい状況にあると考える
—雇用統計は予想を上回ったものの、米国経済の回復の道のりは長い
—経済データについて結論を下すには慎重になるべき
—再雇用には困難が伴うとの認識を示す
—追加の財政出動の妨げにならないようなメッセージを発信
2.FRBは長期的な雇用についての見通しを変更せず
—長期見通しの変更には時期尚早との考えを示す
—パウエル議長の発言は合理的
3.FRBは危機への対応に成功したとみているものの、さらなる財政刺激策が必要との考え
—パウエル議長は米国政府のこれまでの対応を称賛
—直接的な支援を提供できる財政出動の必要性を強調
—失業者が新たな職を得ることが非常に重要
—景気刺激策によるコストは、経済がさらに痛むコストよりもはるかに小さい
4.FRBは、今後も金融緩和的な政策を維持すると示唆
—超低金利の環境下、利回りを追求する投資行動はさらに困難を伴うことに
5.FRBは経済を支えるため、あらゆる手段をとることをいとわない
—大規模な金融緩和策が続くとの認識を示す
—米国の雇用最大化と物価安定のため、あらゆる手段を講じると強調
—FRBの金融緩和策により、株価の上昇基調が続く公算
パウエル議長の発言をきっかけに株価は大幅下落
先週、世界的に株式市場は大幅に下落しました。そのきっかけの1つは、6月9〜10日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)後に実施された、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見だったようです。本稿では、記者会見から得られた5つの重要なポイントと、発言の背後にあるポイントについてお伝えします。
1. 予想を上回る雇用統計にもかかわらず、FRBは、米国経済は依然として厳しい状況にあると考える
雇用統計は予想を上回ったものの、米国経済の回復の道のりは長い
パウエル議長は5月の米国雇用統計について「予想外のうれしい驚き」と語りましたが、一方で労働市場では2000万人以上の人々が職を失っており、米国の回復までの「道のりは長い」とも述べています。そして、「これは、思い出せる限り、米国と世界における最大の経済的なショックだ。私たちは、たった2カ月間で、失業率が過去50年の最低水準から、過去90年の最高水準まで跳ね上がる状況を経験したのだ。」と続けました。
経済データについて結論を下すには慎重になるべき
また、パウエル議長は、(非常に不確実性が高くはあるものの)多くの関係者が2020年半ばに米国経済が底を打ち、年後半に回復すると予想しており、直近の雇用統計は労働市場が5月に底を付けたことを示唆しているかもしれない、と語りました。しかし、「我々は1つのデータに振り回されることはない」「指標の良し悪しについて結論を下すには、十分に慎重になるべきだ」と述べました。
再雇用には困難が伴うとの認識を示す
さらに、パウエル議長は労働市場の回復について、「しばらくの間、失業者が元の業界で職を見つけるのが困難が続くだろう。最終的には見つかるにしても、そうした人々が職に戻るまでには何年もかかる可能性がある。」とし、今回の危機で職を失った人々の再雇用には困難が伴うとの考えを示しました。
追加の財政出動の妨げにならないようなメッセージを発信
発言の背後にあるポイント:FRBの慎重な経済見通しは金融市場を揺さぶりましたが、パウエル議長は米上院の共和党トップのマコネル院内総務と事前に会話をもったと私はみています。パウエル議長は追加の財政刺激策が必要との考えを持っており、今回の良好な雇用統計が追加の財政出動を妨げる一因とならないように、米国経済の困難な状況を強調しなければならなかったのでしょう。
2. FRBは長期的な雇用についての見通しを変更せず
長期見通しの変更には時期尚早との考えを示す
今回の米国経済への強いショックにもかかわらず、FRBは長期の雇用についての見通しを変更していません。パウエル議長は、長期見通しを変更するには「まだ早すぎる」と語りました。
パウエル議長の発言は合理的
発言の背後にあるポイント:財政出動に前向きに行われるかどうかなど、多くの要因が長期的な経済予測に影響を与えるため、パウエル議長の発言は当然だと考えています。
3. FRBは危機への対応に成功したとみているものの、さらなる財政刺激策が必要との考え
パウエル議長は米国政府の対応を称賛
パウエル議長は、今回の危機対応で議会が承認した財政支出が、米国の国内総生産(GDP)の14%に相当する約3兆米ドルだったことから、これを「非常に迅速かつ強力である」と述べ、また「その規模とスピードの点で際立っており、革新的だ」と、政府の対応について称賛しました。
直接的な支援を提供できる財政出動の必要性を強調
ただし、FRBの金融支援策とともに、議会がさらなる財政出動を提供する必要性についても指摘しました。パウエル議長は、「FRBは特定の受益者に資金を与えることはできない。我々ができることは、返済されるとの前提の元、融資を促すための広範なプログラムや仕組みを作ることだけだ。多くの借り手は、経済全体と同様に、これらのプログラムから恩恵を受けるだろう。一方、その他多くの人にとっては、返済するのが難しい融資を受けることは解決策ではないかもしれない。こうした場合は、直接的な財政支援が必要だろう。政治家は、課税と財政支出により、社会の資源をどこに振り向けるべきかについて決定を下す権限を持つ。コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法やその他の法律は、人々、企業、およびコミュニティを直接支援する。この直接的な支援は、世帯や企業を必要なときに助けるだけでなく、経済への長期のマイナス影響に歯止めをかける上でも決定的に重要となるだろう。」と説明しました。
失業者が新たな職を得ることが非常に重要
そして「我々はより多くの財政政策を必要とするかもしれない。そして、議会もより多くのことを行う必要があるかもしれない。いずれにせよ、米国として、職を失った人々が再び働けるようにしなければならない」と語りました。
景気刺激策によるコストは、経済がさらに痛むコストよりもはるかに小さい
発言の背後にあるポイント:パウエル議長は、議会に具体的な助言を示すことなく、議会が追加の財政刺激策を提供できるように全力を尽くそうとしています(同議長は「追加の刺激策は議会により決定される」と語っています)。2月の議会証言で、パウエル議長は、今日の景気刺激策によるコストは、経済がさらに困難に陥るコストと比較すると、はるかに小さくなるだろう、との見解を明らかにしました。失業した労働者が新たな仕事を探すのを待つよりも、労働者が働き続けることができるようにした方が得策です。また、優良企業が倒産しないようにすることも同様でしょう。
4. FRBは、今後も金融緩和的な政策を維持すると示唆
「…我々は、この危機の下、米国経済を支えるために、引き続きあらゆる手段を用いるつもりだ」「利上げについて考えることすら考えていない」
超低金利の環境下、利回りを追求する投資行動はさらに困難を伴うことに
発言の背後にあるポイント:金利は長期的にさらに低下すると予想されます。今回のFOMCで、2022年まで政策金利の誘導目標レンジを0-0.25%で維持するとの見通しが示されました。FOMCの全てのメンバーが2021年まで政策金利がゼロ近辺で維持されるとの考えを示し、2022年の利上げを予想したのも2名のみでした。FRBは、量的緩和(QE)での有価証券の購入額についても現状を維持する予定です(現状の購入額は、国債が月額800億米ドル、モーゲージ担保証券(MBS)が同400億米ドル)。金利がマイナスになることはないと考えますが、超低金利の環境下、多くの投資家にとって重要な利回りを追求する行動はさらに難しくなります。
5. FRBは経済を支えるため、あらゆる手段をとることをいとわない
大規模な金融緩和策が続くとの認識を示す
パウエル議長は、5月には強い雇用の伸びが見られたものの、かなりの数の人々が「仕事を見つけるのに今後も苦労するだろうし、引き続き大規模な金融緩和策を提供する」ことが、「かなりの確立」で行われるだろうと述べました。
米国の雇用最大化と物価安定のため、あらゆる手段を講じると強調
パウエル議長は、ここ数年3〜3.5%で推移している失業率、緩慢な賃金上昇率、ほとんど変化のみられないインフレ率など、FRBは過去数年で多くのことを学んだ、と述べました。同議長は「……ほとんどの人、あるいは誰もが経済のしくみを理解していなかったと私は考える。だから、米国人のための雇用最大化と物価安定のために、我々はいかなる手段も使う」「そして我々は、どんなに時間がかかろうとも、あらゆる手段を講じてその目標を達成するつもりだ」と言及しました。
FRBの金融緩和策により、株価の上昇基調が続く公算
発言の背後にあるポイント:パウエル議長は欧州中央銀行(ECB)のドラギ前総裁のように、非常に活動的にFRBを率いています。FRBは、世界金融危機時よりもはるかに多くの対策を実行しています。FOMCは中小企業のニーズに非常に敏感で、パウエル議長は、非営利団体の支援策について、既存の融資制度を使用するか、新たに設定することを検討していることにも言及しました。FRBのこれらの対応策により、各資産クラスのリスク/リワードの状況は変化しています。FRBの金融緩和策によりリスク資産のリスクが軽減したため、株価は引き続き上昇基調を維持すると私は考えています。
出所:6月10日のFOMC後のパウエル議長の記者会見からの発言とデータを引用。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2020-088