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目次
5月の雇用、製造業およびサービス業の活動、自動車販売は良好な結果に
〔要旨〕
✔︎米国、カナダ、欧州、中国などで景気回復の明るい兆しを確認
✔︎最近の景気回復の結果、一部の政策立案者は、追加の財政刺激策は必要ないとの考えを持つ可能性も
✔︎財政出動の継続が止まることは、今後の景気回復の芽を摘むことになると懸念
●米国:5月の雇用統計が予想外の改善を示し、自動車販売も回復
—5月は新規雇用者数、失業率ともに予想外の改善を示す
—大きく改善した自動車販売台数を受け、自動車メーカーは夏季休業中の操業を計画
●カナダ:5月の雇用は回復
—カナダでは多くの人が職探しを開始
●欧州:5月の製造業とサービス業が改善を示す
—欧州の景気回復のタイミングは米国よりも早い見込み
●中国:経済指標の改善が続く
—さまざまな経済指標が中国の順調な回復を示唆
—欧米向けの輸出の減少を受け、アジアの製造業活動の減速傾向が続く
●まとめ
—主要国の景気回復に大きな役割を果たしてきた財政出動
—最近の経済指標から、財政出動の継続が必要なのは明らか
—迅速かつ積極的な財政出動を続けることが、今後の景気回復を支えるだろう
主要国で確認される景気回復の兆し
世界金融危機が落ち着いた2009年、私は米国やその他の先進国の経済活動が、不死鳥のように復活する何らかの兆しを見つけようとしていました。 それから11年後の現在、私は再び米国や他の主要な先進国の経済復活の兆しを探し、勇気付けられるもの見つけました。本稿では、過去数週間に確認されたそれらの「景気回復の兆し」についてご紹介しようと思います。
米国:5月の雇用統計が予想外の改善を示し、自動車販売も回復
5月は新規雇用者数、失業率ともに予想外の改善を示す
最新の米国の雇用統計は、予想外の改善を示し、市場関係者を驚かせました。具体的には、5月の非農業部門雇用者数は前月比250万人の増加となり1、失業率も低下したのです。ただし、今月の失業率に関して、データが正確に報告されていたならば実際の数値はより悪化したものだった、とする注釈が記載されていました。これは、一時解雇された労働者の一部が雇用されていると分類されているためで、4月と5月の両月の統計で見られたことが分かりました。米労働統計局がこの分類を修正した場合、失業率は4月に5ポイント(14.7%から19.7%)、5月は3ポイント(13.3%から16.3%)高くなる見込みです1。それでも、5月の雇用統計が4月から非常に大きく改善したことは喜ばしいことで、これは景気回復の兆しとみなされます。
大きく改善した自動車販売台数を受け、自動車メーカーは夏季休業中の操業を計画
雇用統計以外にも、景気回復の兆しが確認されています。米国の自動車販売台数は、数カ月にわたりぜい弱な状況が続くと予想されていました。しかし実際は、5月の米国の自動車販売台数が4月から大幅な改善を示し、多くの自動車メーカーの自社予想を上回る結果となりました。例えば、韓国の現代自動車の販売台数は前年同月比でわずか12.9%の減少となり、同社はそれを「小売り販売の著しい反発」と表現しました2。トヨタ自動車は同25.7%の減少となりましたが、販売台数が55.7%減少した前月からは大幅な改善となっています2。この回復は非常に強いため、米国の自動車メーカーは通常どおりに工場を稼働させ、夏季休業中も操業させる計画を立てています。
カナダ:5月の雇用は回復
カナダでは多くの人が職探しを開始
カナダでも、雇用統計に回復の兆しが確認されています。5月の新規雇用者数は29万人増え、勤務時間は+6.3%と大幅に増加しました 3 。失業率は13.0%から13.7%に上昇しましたが、これはより多くの人が職探しに動き出したためです3。都市封鎖(ロックダウン)の解除がより迅速だったケベック州が、新規雇用者数の改善に大きく貢献しました。
欧州:5月の製造業とサービス業が改善を示す
欧州の景気回復タイミングは米国よりも早い見込み
欧州でも景気回復の兆しがあり、その回復は、米国よりも約2〜3週間早いと考えています。5月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)改定値は31.9と、4月の13.6から大幅に改善しました 4。製造業とサービス業ともに改善が見られており、製造業PMIは4月の33.4から5月は39.4に上昇しました。サービス業PMIは、コロナウイルス危機の影響によりサービス業の大部分が停止したため、4月は12.0と統計開始以降の最低値となりましたが、5月には30.5に上昇しました4。
中国:経済指標の改善が続く
さまざまな経済指標が中国の順調な回復を示唆
ここ数カ月の中国の経済指標も、順調に回復しています。中国で初めて発見された新型コロナウイルスへ効果的な対策が講じられ、2020年3月からはそれらの厳しい対策の解除が進んでいることを考えれば、当然の結果と言えるでしょう(ほとんどの経済指標は2月に底入れしました)。5月の製造業PMI(民間による集計)は50.7と4月の49.4から上昇し、非製造業PMIも4月の44.4から5月には55.0と、回復傾向を示しました5。さまざまな経済指標は、中国のかなりの回復を示唆しています(残念ながら、同時に環境汚染の発生も再確認されています)。
欧米向けの輸出の減少を受け、アジアの製造業活動の減速傾向が続く
今後を見るにあたり、懸念事項の1つとして、アジアの製造業の活動が挙げられます。景気回復がアジアに後れをとっている欧米各国向け輸出の減少が、その主な要因です。特に、韓国では、5月の製造業PMIが41.3と4月の41.6から低下 6 するなど、大きな打撃を受けました。中国では、製造業PMI(政府による集計)も、4月の50.8から5月には50.6と低下しました 7 。しかし、私はアジアの製造業がここから改善を見せるものと予想しています。
まとめ
主要国の景気回復に大きな役割を果たしてきた財政出動
私が皆さまにお伝えしたい点は、新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)とその後の深刻な経済活動の落ち込みにもかかわらず、多くの主要国の景気回復に勢いを与えている兆しが見られるということです。そして、ここまでの回復を支えてきたものの1つが財政出動です。例えば、米国とカナダでの新規雇用者数の増加は、その多くが米国の給与保障プログラム(PPP)とカナダの緊急対応給付金(CERB)に起因しているようです。
最近の経済指標から、財政出動の継続が必要なのは明らか
しかし、まだ不安要素もあります。最近の経済回復の結果、一部の政策立案者は、追加の財政刺激策は必要ないとの考えを持つかもしれません。一方、私は、最近の経済指標は、財政刺激策の必要性を明らかにしていると考えます。現状、カナダのCERBの給付期間は最長4カ月のため、4月に給付を受け始めた人は8月以降、それを受け取ることができません。米国のPPPは8週間続きます(雇用主が従業員を8週間雇用し給料を支払っていれば、PPPローンの返済は免除となります)。さらに、米国の雇用統計で失望された部門の1つは、州や自治体の政府職員の数でした。これは、州や地方自治体が抱える厳しい状況を示していると思います。よって、米国政府からの財政的支援がなければ、失業者がさらに増加する可能性があります。
迅速かつ積極的な財政出動を続けることが、今後の景気回復を支えるだろう
経済指標が改善を示している欧州についても、前回のレポートでもご紹介したとおり、さらなる財政刺激策が必要です。中国は経済指標の改善にかかわらず、追加の財政刺激策を計画中です。私は、財政刺激策が継続される必要があることは明らかである、と考えています。もし財政刺激策がなければ、経済状況は急速に悪化すると懸念されます。そして、コロナウイルス感染の第二波の可能性に対する経済的な備えをしなければなりません。次の経済封鎖に立ち向かうためには、財政出動を迅速に実行または増強する準備を整えておく必要があります。足元まで、ほとんどの主要経済国は、財政出動に関して迅速かつ積極的に行動しましたが、今後もそれを続ける必要があります。さもなければ、景気回復の兆しはすぐにしぼんでしまうでしょう。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
1.出所:米国労働統計局、2020年6月5日。
2.出所:CNBC.com、”U.S. auto sales rebound somewhat from dismal April as states lift coronavirus restrictions”、2020年6月2日。
3.出所:カナダ統計局、2020年6月5日。
4.出所:IHS Markit、2020年6月3日。
5.出所:財新IHS Markit、2020年6月1日。
6.出所:IHS Markit、2020年6月1日。
7.出所:中国国家統計局、2020年6月1日。
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MC2020-082