日本では金融・金銭教育の重要性が近年増しているものの、依然として課題が多く残っています。家庭や学校での教育機会の不足、文化的な要因などが挙げられます。
目次
始まったばかりの学校教育とその限界
2022年度から高校の家庭科で金融教育が必修化され、資産形成や投資についての授業が導入されました。導入された背景には成人年齢の引き下げ、若年層が金融に関する契約を親の同意なしにできるようになること、金融リテラシーの必要性などが挙げられます。
しかし、実際の授業時間は年間数時間程度と限られています。また、専門的な知識を持つ教員が不足していることも指摘されています。家庭での教育も親世代が金融知識に乏しいと、子どもへの教育も難しくなります。親世代と子ども世代の両方が本格的な金融教育を受けて底上げしていく必要があります。
日本ではお金の話を避ける文化が根強く、家庭での金融・金銭教育が十分に行われていないケースが多いです。これに対して私が住んでいるシンガポールでは、どのエリアのどのマンションに住んでいるのか、職業や収入、支出や資産運用などについてオープンに話す人が多く、最初は驚かされました。
しかし、これは周りと比べて自分だけ損をしていないかという再確認のためであり、必ずしも悪いことではないと学ばされました。日本でも少しずつ友達と株や不動産など資産運用の話をするようになりつつありますが、これはよい流れだと感じます。
世界に学ぶ「体験重視」の金融・金銭教育
知識偏重の日本、体験で学ぶ海外
また、日本の金融教育は知識重視で、実際に銀行口座や証券口座を開設したり、クレジットカードを使って買い物をしてみるなどの体験が不足しています。これに対して、アメリカでは高校生向けに投資ゲームや模擬クレジットスコア管理の授業があり、学生が経済活動を体験できます。
また、英国では子どもの金融・金銭教育に関する書籍も複数出されており、優れた本が多いので私も英語の本を取り寄せて学んでいます。シンガポールのインター校では放課後の課外活動に、投資や麻雀といったクラスもがあり、小学校高学年くらいから投資はもちろんギャンブルについても学ぶ機会があります。小さい頃にこうした機会を禁止するのではなく、制限付きで触れさせることによって、いきなり現場で大きな失敗をすることを避ける効果もあります。
データが示す日本人の金融リテラシー
日本人の金融教育不足はデータでも裏付けられており、家計の金融資産に占める株式や投資信託の割合が、アメリカでは約51%であるのに対し、日本は20%未満にとどまっています。(OECD Household financial assets)
「金融・金銭教育」の幅広さ:投資だけがすべてではない
働くこと、賢く買うことも立派な教育
日本では金融・金銭教育というと、投資について学ぶことを考えがちですが、海外ではアルバイトやマーケットに行って安く物を買うのも教育だと捉えられています。本業の他にも副業や資産運用をしたり、不用品をフリマアプリで売る、なるべく安く買って高く売るなども海外では多くの方が当たり前のようにやっています。
世界三大投資家のジム・ロジャーズ氏は5歳からピーナツ売りのアルバイトをしていたという逸話もあるほどで、幼い頃からビジネスセンスを磨いていたようです。この体験によって、「フリーランチはない」ということを早期から学ぶことができます。収入を得るためには労働をする必要があり、労働をして得たお金は決して無駄遣いをしてはいけないと幼い頃から理解する機会となります。
「買い物」を通じた実践教育
シンガポールのインター校では幼稚園の時にチャイナタウンなどのマーケットに現金をもっていき、予算内で買い物と食事を済ませるという課外活動がありました。また、本を安く買える機会が毎年あり、子どもたちが予算を考えながら本を購入するということを幼稚園の頃からやっています。
買い物の基礎は予算管理と現金やクレジットカードの管理です。幼い子どもも責任を持ってお金の管理をし、お金を使う練習をする機会が多いことは良いことです。
家庭で今日から始められる「生きた」金融・金銭教育
海外では働くことを通じて、自分の報酬や価値を把握し、経済状況を踏まえて給料の交渉をするのが一般的です(インフレだから賃金を上げて欲しい、消費税が上がったので手取りを増やして欲しいなど)。
また、安く仕入れて高く売るなどビジネスの基本となる考え方を買い物から学ぶことも多くあります。これによって幼少期から金銭感覚や生活経済の知識が自然と身についていきます。
家庭の中でも買い物などを管理できる範囲で子どもに任せてみる、何のアルバイトをするのか子どもと話し合ってみる、不用品の処分方法を話し合ってみる、子どもと一緒に買い出しに行き食事の準備を一緒に行うなど、小さなことから始めることができます。
スーパーに行く際にも、棚を眺めてどんなメーカーがどんな商品をいくらで出しているのか、半年前と比べてお米の価格は高くなったかなど、身近な話題を家族で話し合うことでも良いでしょう。また、新聞や経済誌を家族で読んで注目すべきニュースをピックアップしてみるなども効果的でしょう。そうした身近なテーマから生活経済に関する知識や興味を深めていくことができるのです。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
※本稿は著者の見解に基づくものであり、Wealth Roadの運営会社の見解を示すものではありません。

著者:花輪陽子(ファイナンシャル・プランナー(FP)、貯金評論家)
CFP認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など多数資格を保有。外資系投資銀行を経てFPとして独立。「ホンマでっか!?TV」等のテレビ出演、講演も多数。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、シンガポールのファミリーオフィス等でウェルスマネジメントに従事。主な著訳書に『世界標準の資産の増やし方』『ジム・ロジャーズ大予測』 (ともに東洋経済新報社)などがある。