地球温暖化対策としてさまざまな節水システムが活用されていますが、水ストレスや気候変動を含む水資源問題にはまだまだ課題が山積みです。そのような中、IoTやセンサーなど最新のテクノロジーを活用して環境保護に貢献すると同時に、「水回り」の社会課題を解決する画期的なシステムが生まれています。今回は、投資のヒントになるかもしれない最新テクノロジーによる節水システムについてご紹介します。
目次
水不足が引き起こす「水ストレス」とは?
水ストレスとは、水の需要が特定の期間中に利用可能な量を超えた場合、または水質が悪いために使用が制限された場合に発生する「水需要への逼迫(ひっぱく)」を指し、ストレス度を測る指標として、人口一人当たりの利用可能水資源量などが用いられます。具体的には、一人当たりの年間使用可能水量が1700トンを下回り、日常生活に不便を感じる状態を指します。
河川の干上がりや有機物汚染、海岸地帯の帯水層(地下水がたまりやすい地層)に海水が流れ込む「塩水侵入」など淡水資源の劣化などの要因で水ストレスの悪化を引き起こします。また特に水の使用量の多い大都市では、汚染リスクがある帯水層の過剰利用といった問題も、水ストレスを生み出しています。
世界人口の4分の1を占める17カ国が高レベルの水ストレス
世界資源研究所(WRI)が世界189カ国・地域における水ストレス度や干ばつリスク、河川洪水リスクをランク付けした「水リスクマップ(Aqueduct Water Risk Atlas)」によると、世界人口の4分の1を占める17カ国が、極めて深刻な水ストレスに直面しています。
2019年の更新版によると、水ストレスランキングの1位はカタール、2位はイスラエル、3位はレバノン、4位はイラン、5位はヨルダンで、人口の多い国では13位にインドが入っています。日本は75位でリスクは低~中です。深刻な水ストレス問題は中東・北アフリカ(MENA:Middle East & North Africa)地域に集中しているものの、世界が抱える問題はけっして他人事ではありません。
国土交通省は、日本は降水量が多く水資源に恵まれた国である反面、河川流量の変動が大きく、度重なる渇水により水道水の断水や工業水・農業水不足など生活や産業面でも影響がでていると指摘しています。
また『水の世界地図』(丸善出版)によると、日本人1人当たりの水使用量は1日約186リットルと、世界平均の約2倍に匹敵します。
最新の節水システム
水資源問題を解決するために、さまざまな企業が最新テクノロジーを駆使したサービスやシステムを開発しています。例えば、IoT(モノのインターネット)などを採用した一般家庭でも使用可能な節水管理システムには、以下のようなものがあります。
センサーで適切な水量に調節「IoTクラウド〜トイレ節水管理〜」
KDDIの「IoTクラウド〜トイレ節水管理〜」は、バルブに設置したセンサーで利用者の滞在時間を測定し、最適な水量に調節します。
水量を遠隔から調節したり、バルブの故障や漏水をモニタリングする「リモート制御」「リモート監視」のほか、利用人数や利用水量のデータを収集して可視化できる「モニタリング」などを活用することで、40~50%の節水が可能だといいます。
特許テクノロジーのワイヤレス節水「H20 Flow Pro」
米国に本社を置く、節水管理サービス企業H20 Flow Proは米国で特許を獲得したテクノロジーを基盤に、企業だけではなく一般家庭でも日常的に利用できる、ワイヤレス節水モニター・システムを開発しています。
あらかじめ建物内に設置された水の供給を管理する灌漑コントローラーから、各エリアのフロー(流水)パターンを学習後、モニタリングを開始。通常と異なるフローが検知されると、Wi-Fi通信でクラウドサービスにアクセスしてオーナー(所有者や管理会社)に警告を発信すると同時に、異常が検出されたエリアの水の供給を遮断します。
ウェアラブルデバイスで活用幅が広がる?
こうした技術を応用することで、将来的にはウェアラブルデバイスを一般家庭の節水・水質管理に役立てることも可能になるかもしれません。
例えば欧米では、水の使用量をリモートで測定する「スマート・ウォーター・メーター」が普及しています。
IoTでスマートウォッチなどと接続することで、リアルタイムで水の使用量や水道料金をチェックし、H20 Flow Proのようなシステムと互換性をもたせ、警告をウェアラブルデバイスで受けとれるようにするなど、さまざまな活用法が考えられます。
家庭雑排水の85%を安全に再利用する「Hydraloop」
一般家庭においても節水の一環として、タンクに貯めた雨水を洗車や植木への散水、雑用水に利用するといった水の再利用が活発化しています。しかしこれらの家庭雑排水には洗剤や懸濁(けんだく)固形物(水に溶けない固形物)、病原体などが混ざっており、けっして衛生的ではありません。
しかし最新のテクノロジーを活用すると、家庭雑排水を安全に再利用することが可能です。
オランダのスマート節水システム開発企業Hydraloopは、特許を取得した水処理技術により、家庭雑排水の最大85%を清潔で透明、かつ安全な再生水へと変換可能な水リサイクル製品を開発しました。
既存の水リサイクルシステムは、濾過処理のために内蔵されたフィルターやメンブレン(膜)にゴミが詰まるなど、定期的な洗浄とメンテナンスが必要でした。Hydraloopはフィルターやメンブレン、化学薬品などの代わりに5種類のテクノロジーを活用して、汚れや石鹸、その他の汚染物質を除去します。
テクノロジーで節水を習慣化させる社会。ESG課題に前向きな企業への高まる期待
水不足は重要な環境問題の一つであるにも関わらず、こまめに水道メーターをチェックするという人は少ないのではないでしょうか。「限られた資源である水は大切に」と思いつつも、ついつい水道を流しっぱなしで歯を磨いてしまうなど、長年の習慣を治すのは難しいものです。また普段からこまめに水道メーターをチェックしていない限り、自分が毎日どれくらい水を使っているのか把握できません。自分では気を付けているつもりでも、思っている以上に水を無駄遣いしているかもしれません。
水の使用量を効率的かつ効果的に管理できる環境整備が進むことで、より多くの人が日常生活の一部として節水を意識するようになり、それが水資源問題への貢献につながるのではないでしょうか。
こうした個人の意識の向上とともに、「環境問題改善への取り組み」「地域社会への貢献」「労働環境への配慮」などのESG課題(環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G))に前向きに取り組んでいる企業は有望な投資先として期待されています。 欧米を中心とした世界の運用マーケットでは「ESG投資」が急速な拡大を見せています。今回は「水回り」の社会課題を解決する画期的なシステムを取り上げましたが、身近なところに、他にも投資のヒントが隠されているかもしれません。