新型コロナは広範囲な領域に打撃を与えながら、「New Normal(新しい常識)」を作り上げています。旅行産業もその一つで、長年にわたり慣れ親しんできた「空の旅」は過去のものとなりつつあります。感染拡大防止策として講じられている新ルールや新サービスから、未来の旅行の姿が見えてくるかもしれません。
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アフターコロナの空の旅は機内食がなくなる!?
世界中の航空会社や空港は、乗客のマスクの着用や免税店の臨時閉鎖、出発・搭乗ゲートなどでの一列整列3人以上の座席の中央席を空けるといった措置で、感染の拡大防止を図っています。これらの措置はコロナ関連の規制やソーシャル・ディスタンスが緩和されるにつれ、通常通りに戻ると予想されます。
しかし次なるパンデミック対策という長期的観点から見ると、自宅でのプリントアウトを含む紙の航空券の発行や機内でのヘッドフォン・雑誌・枕・毛布などの配布、ゲーム機の利用、スナックの販売など、さまざまなサービスが永久的に廃止される可能性も否めません。
機内食やドリンクサービスに関しては特に長距離便の廃止は考え難いものの、客室乗務員の手袋着用やドリンクのお代わりの際のカップ交換など、より衛生的で接触の少ない配布方法が義務付けられるのではないでしょうか。
「自動ヘルススクリーニング」で感染リスクを早期発見
変化が予想されているのは、機内だけではありません。すでに多数の国・地域が健康診断結果の提出や体温チェックなどのヘルススクリーニングを渡航者に義務付けていますが、こうした措置も世界中の空港で本格的に導入されそうです。
アラブ首長国連邦アブダビ首長国のエティハド航空は世界に先駆け、2020年4月から5月にわたり、アブダビ国際空港で主にテスト参加者を対象に「自動ヘルススクリーニング・システム」のテストを実施しました。
本格的な始動開始時期については明らかにされていないものの、飛行機の運行状況が通常に戻るにつれ対象範囲を一般の利用渡航者に拡大する計画であるため、6月以降もテスト運行が継続されるものと推測されます。
旅客および手荷物の自動化システムを提供するオーストラリアの企業エレニア・オートメーション(Elenium Automation)との提携で開発された技術で、空港のチェックインやインフォメーション・キオスク、セキュリティポイント、入国ゲートなど空港に設置されたセルフサービス・デバイスを使用して、渡航者の体温や心拍数、呼吸数を自動的にチェックすることで、新型コロナの初期症状を含む異常を検出するというものです。
異常が検出されるとセルフサービスのプロセスを自動的に停止し、システムを介して警告を受けた医療スタッフが検出結果の正確性を調べます。
新型コロナの感染そのものを検出する医療デバイスではないものの、新型コロナを含むさまざまな感染症の拡大リスクを早期発見するという意味で、期待が高まっています。
「免疫パスポート」も必要になる?
同様の試みとして、出国・入国の際に「免疫パスポート」の提示が義務化される可能性も考えられます。
シンガポールの航空マーケティングコンサルティング企業シンプリ・フライング(SimpliFlying)は、「オンラインチェック・インの際に自分の免疫パスポートをアップロードするといった手段が講じられる」と推測しています。
現在英国などが発行を検討している免疫パスポートは、新型コロナに抗体があることを証明できる労働者を職務に復帰させることで、感染拡大を抑えると同時にビジネスの再開をスピードアップすることが目的です。
実用化された場合、新型コロナだけではなく、水ぼうそうなど他の感染病に対する免疫も記録・提示することでより安全な旅が保証されるといった声も上がりそうです。
一方、従来は出発の1~3時間前までに空港に到着し、その後さまざまな手続きを済ませていましたが、こうした渡航前のヘルスチェックが新ルールとして導入された場合には、さらに余裕をもって空港に到着する必要性が生じるなど、旅行者にとっては利便性が低下する懸念があります。
アフターコロナの新サービス 「独立型座席」が常識になる?
アフターコロナの新サービスとして、殺菌スプレーやジェルの設置場所の増加、抗菌加工を施した使い捨てのコップや添乗員用の手袋、マスクなど、衛生面に配慮したサービスが、「New Normal(新しい常識)」となりそうです。
一部の航空会社のファーストクラスでは、快適さやプライバシー保護の目的で採用されている「後ろ向き座席」や客席間の仕切りをエコノミークラスにも採用する、という動きが出ています。
新たな機内デザインを考慮し、イタリアのシートメーカーであるアビオインテリア(Aviointeriors)は、「ヤヌスシート」と「グラスセーフ」という画期的な新商品を発表しました。
古代ローマの神ヤヌス(前と後ろに反対向きの2つの顔を持つ双面神)に因んで開発された「ヤヌスシート」は、横3列の中央の座席を後ろ向きに配置し、それぞれの座席に遮断パネルを設置することで、3人の乗客がそれぞれ完全に独立した空間を維持できる工夫が凝らされています。「グラスセーフ」は乗客の胸部から上を覆うグレーがかった透明の遮断パネルで、既存の座席に取り付け可能です。
アフターコロナも一定のソーシャル・ディスタンスを維持する目的で、定着するのではないでしょうか。
高性能フィルターで機内の換気の入れ替え
換気の悪い密室空間での感染リスクを下げるために、機内の空気を可能な限り新鮮に保つ対策も講じられています。
LCCの中にも、コロナ対策に積極的な企業があります。6月中旬より国内線の全路線の再開を予定しているピーチ・アビエーションは、高性能フィルター「HEPA(高効率粒子状空気)フィルター」で外気から取り込んだ空気を濾過し、3分ごとに機内のすべての空気を新鮮なものに変換するというウィルス対策を取り入れています。空気の拡散防止にために、天井から座席下へと一方向に流すよう設計されています。
HEPA フィルターは0.3ミクロンのサイズの不純物を99.7%以上捕集可能で、同社は捕集率99.97%を誇る非常に優れた高性能フィルターを採用しています。
同様に、ANAグループ、JALグループで運航する全ての航空機にHEPAフィルターが装備されています。
より一層安全な旅が求められる世界に
コロナ前に比べ、「空の旅」のハードルは一気に高くなりました。感染拡大防止策として講じられている各エアラインや空港の新ルールや新サービスを消費者がどのように受けとめるのかは、旅行者の増減にも大きく影響するはずです。
世界中がパンデミックの脅威を体験した現在、以前のように「気軽に旅をする」ことが消費者の購買意欲を動かしていた時代から、「安全に旅をする」ことが重視される時代が到来するのではないでしょうか。「安全な旅」というキーワードに注目していきましょう。そこに投資のヒントが隠されているかもしれません。