新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために多くの企業がテレワークを取り入れています。テレワークへの取り組みは、事業継続性や生産性向上だけでなく、未来の企業業績や株価にも影響を及ぼすかもしれません。新しい働き方によって、どのような変化が考えられるのかを考察します。
テレワークの本来の目的
テレワークとは本拠地と離れた場所で仕事を行う仕組みのことです。大きく分けて3種類あります。自宅で作業する「在宅勤務」は、最近経験した人も多いのではないでしょうか。カフェやホテルなど外出先で仕事をするのは「モバイル勤務」です。主要なオフィスとは別に、数名の小さい事務所をつくる「サテライトオフィス」もあります。
テレワークの推進は以前からさまざまな団体によって行われていました。特に注目が集まったのは、新型インフルエンザが流行した2009年頃です。以来テレワークは、災害やウイルス感染拡大など非常時の事業継続性を高める手段としても有効と見られています。
近年は従業員のワーク・ライフ・バランスを向上させる目的で取り入れられるケースが増えています。「働き方改革」が推し進められる中、多様な人材を受け入れるための施策として注目度が増しています。さらに、企業にとっては業務の効率化やコスト削減など、直接的な経済効果への期待もあります。
総務省はテレワークに関する調査を毎年行っており、導入済企業の割合は2017年の13.9%から翌2018年には19.1%と、近年増加傾向にあります。2017年から開催されている国民運動「テレワークデイズ」の実施や、厚生労働省が運営する「テレワーク総合ポータルサイト」などによる普及促進活動によって、新しい働き方が徐々に浸透しつつあります。
一方で、新型コロナウイルスの感染拡大により急きょテレワークを導入した企業からは、困惑の声も聞こえます。準備期間がほとんどなかったこともあり、混乱が生じ、生産性が落ちたという話すらあります。しかしテレワークの目的は事業継続性を高めることだけではありません。次に、具体的な効果を紹介します。
テレワークの導入効果
総務省の2018年「通信利用動向調査」では、テレワーク導入企業に目的を聞いたところ、「生産性の向上」が56.1%、「勤務者の移動時間の短縮」が48.5%でした。「非常時の事業継続に備えて」と答えたのは15.1%にとどまります。
実際に導入してみて、効果はどうだったのでしょうか。同調査によると、導入企業413社のうち、「効果があった」と答えたのは81.6%でした。マイナスの効果があったと答えた企業は0%です。テレワークは前向きに準備よく進めていけば、会社や勤務者にとってメリットのある施策であることがわかります。
具体的な効果としては、厚生労働省の「テレワークではじめる働き方改革」によると、多い回答から順に「人材の確保・育成(26.5%)」、「業務プロセスの革新(20.5%)」、「事業運営コストの削減(20.5%)」などとなっています。
導入事例は総務省の「テレワーク情報サイト」に多数掲載されています。一例として、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社は、2007年に全社で在宅勤務制度を導入。移動時間の有効活用による生産性向上、ペーパーレス化によるコスト削減の効果があったとのことです。仕事と家庭の両立がはかれ、2011年にはワーク・ライフ・バランスの東京モデル事業に選定されました。
テレワークに積極的な企業の多くは、ワーク・ライフ・バランスの充実や業務の効率化などを導入目的としています。多様な従業員の受け入れを目指し、生産性や業績などの結果を重視する姿勢が見てとれます。
多様性を認められる企業は強い
多様性の受け入れと業績の向上は直接結びつきにくいかもしれません。しかしグローバル化が進む現在の社会では、多様な発想ができる企業が有利という側面もあります。事業継続の観点からも、さまざまな勤務地や属性の従業員がいることはリスク分散につながるでしょう。
多様性に関する例として、女性が活躍する企業が成功した例を挙げます。日興リサーチレビュー2015年7月の調査によると、日興リサーチセンターが毎年算出している「女性力スコア」が上位の企業の株価は、TOPIXを上回るという結果が出ました。2006年の算出開始から2015年までの全期間が対象です。女性力上位の企業は海外での事業活動に積極的で、外国人投資家にも人気があるという分析もされています。
女性力を筆頭に、多様性を受け入れられる企業は成長しやすい傾向にあります。その特徴を見極めるひとつの手がかりとして、テレワークへの取り組み姿勢が挙げられます。
テレワークに取り組む企業の成長性に注目
テレワークを以前から取り入れている企業や今後も継続する企業は、業務効率や多様な人材確保、事業継続性といった点で有利に働く可能性があります。成長性を見い出す手がかりとして、注目していきましょう。