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追加関税、米景気、FRBについての直近の見方

追加関税、米景気、FRBについての直近の見方

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要旨

追加関税について金融市場の安堵感は長続きしない公算

直近でのトランプ政権による追加関税措置の一部撤回を受け、金融市場では追加関税についての楽観論が存在します。しかし、私は、追加関税措置が今後も金融市場にとって痛みの小さいやり方で実施されるという見方には賛成しかねます。医薬品や半導体・エレクトロニクス製品分野の追加関税について、実際に追加関税が発表されるタイミングで関連銘柄への悪影響が顕在化するとみられます。このため、グローバル株式市場では、当面、上振れリスクよりも下振れリスクが重要になると見込まれます。

グローバル景気見通しについての懸念は短期的には払しょくされにくい

米国景気の先行きについての不確実性は極めて高く、グローバル金融市場では、当面、米国が景気後退に陥るリスクが意識され続けることになるとみられます。

FRB政策:今は利下げに距離があるが、最終的にはスタンス変更の公算

今後、長期のインフレ期待が大きく上昇しない限り、景気の悪化がより明確になる段階で、FRB(米連邦準備理事会)はスタンスをハト派化させると見込まれます。私は、FRBが6月に利下げを開始し、年内に合計で3回の利下げを実施すると予想しています。

米国が主要国とのディールで合意する可能性は高い

私は、今後90日の間に米国が比較的多くの主要国とディールを締結することができると予想しています。米国の貿易相手国だけではなく、米国自身もディールを求めている、というのが今の構図です。

先週の当レポート(「米相互関税は90日延期。次の注目点は?」)では、金融市場安定のきっかけとなる注目点として、追加関税の連鎖が止まること、FRBが利下げ継続のシグナルを出すこと、主要国とのディール締結に向けての動きが強まること、という3点を挙げました。それから一週間が経過しましたが、これらの面での進捗は未だみられず、グローバル金融市場の動揺が続いています。以下では、これらのそれぞれについての動きと見通しを考察するとともに、グロ-バル景気見通しが直近で悪化してきた点についても考えたいと思います。

追加関税について金融市場の安堵感は長続きしない公算

米国の追加関税措置を巡っては、4月9日に相互関税措置の10%超過分を90日間延期すると表明した後、4月11日には、スマホ、PC、モニター等の電子機器について、追加関税率を今後決めるとしている半導体と同じ扱いとし、相互関税の対象から外すことを決定ました。また、トランプ大統領は、4月14日、メキシコやカナダから輸入する自動車・部品に対する25%の追加関税の見直しを検討していると明らかにしました。これら一連の追加関税の部分撤回措置は、「トランプ政権は、追加関税による実体経済や金融市場への過度の悪影響を抑えるスタンスではないか」という金融市場の期待感を強めました。これにより、今週初めの株式市場では医薬品分野の追加関税率がまだ決定されていないということで、米医薬品メーカーの株価が上昇しました。自動車や鉄鋼・アルミニウムにはすでに追加関税が発動されているのに、医薬品や半導体・エレクトロニクス製品にはまだ発動されていないので、トランプ大統領は医薬品等への追加関税実施にはそれほど力を入れないのではという見方も金融市場の一部にあるようです。

ただ、私は、追加関税措置が今後も金融市場にとって痛みの小さいやり方で実施されるという見方には賛成しかねます。振り返ってみると、トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウムについての追加関税を強化したのは、すでに1期目のトランプ政権において実施した実績があり、実務面ですぐに政策が実施できる環境にあったためです。また、自動車・部品についての追加関税がその次に発動されたのは、追加関税策についてのトランプ大統領支持者からのサポートを得るためには、強力な労働組合を擁する自動車業界を優先することが得策であるとの判断があったためとみられます。これに対して、半導体やそれに関連するエレクトロニクス製品、医薬品、銅といった分野は、これまで長い間、米国が追加的な関税措置を実施したことがなく、何%の追加関税をかければこれらの分野のメーカーが米国に工場を建ててくれそうかという調査がすぐにはできなかったことで早期に追加関税を課せなかっただけだとみられます。この見方が正しいとすると、調査が終了した段階で医薬品や半導体・エレクトロニクス製品には自動車並みの追加関税が課されると考えるのが自然でしょう。これらの分野の追加関税について、現在のグローバル株式市場の見方はまだ楽観的であり、その意味では、実際に追加関税が発表されるタイミングで関連銘柄への悪影響が顕在化することになるとみられます。このため、グローバル株式市場では、当面、上振れリスクよりも下振れリスクが重要になると見込まれます

グローバル景気見通しについての懸念は短期的には払しょくされにくい

一方、追加関税のグローバル景気への悪影響は、時間の経過とともにグローバルな資産価格に織り込まれてきていると考えられます。現在の金融市場では、米国経済が景気後退局面に入るとの見方はまだ少数派であり、私自身も当レポートの先週号で同様の見方をお伝えしています。しかし、米国景気の先行きについての不確実性は極めて高く、グローバル金融市場では、当面、米国が景気後退に陥るリスクが意識され続けることになるとみられます。このため、今後発表される米国の重要景気指標が予想を下振れるごとに、米国株・米国債券市場での比較的大きな動きにつながりやすいと考えておくべきでしょう。

米国の債券市場では、4月4日の段階でいったんは3.9%程度にまで下落した米10年国債金利が、4月11日には4.5%を超える水準まで上昇しました。長期金利が急上昇した背景としては、金融市場のボラティリティーが上昇する中でヘッジファンド勢のリスク許容量が低下し、米国債の保有を減らしたという見方や、米中が事実上の貿易戦争に入ったことで中国勢が米国債券を売却しているとの見方が存在しており、私はどちらも正しいと考えています。ただ、これらの需給の要因による米国債売りが一服すれば、米国景気の悪化を織り込む形で米国債金利が4%に向かって低下する可能性が高いと見込んでいます

FRB政策:今は利下げに距離を置いているが、最終的にはスタンス変更の公算

米国の金利先物市場では、4月16日時点でFRB(米連邦準備理事会)が年内に3.7回(1回の利下げを0.25%として計算)の利下げを実施すると織り込んでいます。しかし、これまでのところ、一部を除くFRBの高官からは、利下げに対して距離を置く発言が目立っています。パウエルFRB議長は、4月16日に開催されたシカゴでのイベントにおいて、「物価の安定がなければすべての米国民に恩恵をもたらすような長期にわたる力強い労働市場の実現は不可能だ」と述べました。この言葉は、金融市場において、FRBが景気よりもインフレを重視しているのではと解釈され、同日の株安につながりましたが、パウエル議長は過去の記者会見において同じ主旨の発言をしており、私はこれが必ずしもタカ派的な発言であるとは思いません。もっとも、パウエル氏が利下げに距離を置いたスタンスであることは確かであり、その意味では株式市場参加者が待望するFRBのスタンス変更はまだ実現していないと言えます。それでも、今後、長期のインフレ期待が大きく上昇しない限り、景気の悪化がより明確になる段階で、FRBがスタンスをハト派化させると見込まれます。私は、FRBが6月に利下げを開始し、年内に合計で3回の利下げを実施すると予想しています

米国が主要国とのディールで合意する可能性は高い

私は、今後90日の間に米国が比較的多くの主要国とディールを締結することができると予想しています。米国の貿易相手国だけではなく、米国自身もディールを求めている、というのが今の構図です。EU(欧州連合)や日本などの貿易相手国側は、追加関税が景気に及ぼす悪影響が大きいことから、かなりの譲歩をしてでもディールに合意することを目指すとみられます。一方、米国側も、既に発表した通りに相互関税を実行してしまうと、インフレ加速によって景気が後退局面に陥るリスクがあります。また、直近で生じたような米国国債市場が混乱する事態が再び生じるリスクもあります。

交渉期間をさらに90日間延長するという手もありますが、この場合、追加関税が前年比でみたインフレ率を押上げる効果が2026年9月ごろまで残ることになります。2026年11月には中間選挙が実施される予定ですが、その直前までインフレが続きますと、選挙で共和党が上下両院の多数派の地位を失って、任期後半のトランプ大統領がレームダック化してしまう可能性もあります。したがって、米国側もディール交渉にかなり前向きに取り組んでくるとみられます。

もっとも、ディールには通常かなりの交渉期間を要するうえ、米国は数十カ国との交渉をこなす必要があることから、ディールの進捗は緩慢なものとなるはずです。ディールを巡る動きは、グローバル金融市場にとって、引き続き不透明要因になると見込まれることから、注意が必要です。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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