ホーム > マーケットビュー > 米国のGDP成長率は低下していくか?
米国のGDP成長率は低下していくか?

米国のGDP成長率は低下していくか?

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • GDP:ある重要な経済指標では、第1四半期の米国の国内総生産(GDP)成長率を年率マイナス1.5%と予測しているが、これは関税への懸念に主に関連しているとみられる
  • FRB:これまで米連邦準備理事会(FRB)は、成長リスクよりもインフレリスクを懸念してきたように思われるが、景気悪化の兆候が更に見られるようであればそれも変わり得る
  • ECB:今週欧州中央銀行(ECB)は利下げを決定し、年内に更に3回の利下げが行われると予想される。これらの利下げは、今年欧州株の好調なリターンを後押しするだろう

関税交渉

米国の成長悪化の兆し

米国のインフレ再燃の兆し

FRBからのメッセージ

米10年物国債利回り

米国の財政状況と政府機関閉鎖の可能性

ECB

中国の全国人民代表大会

収益の成長見通し

注目の日程

米国で注目すべき事柄は増える一方です:とりわけ、関税交渉、成長鈍化、インフレ懸念、政府機関の閉鎖の可能性、そして10年物国債利回りの乱高下などがそれに含まれます。更に今週は、欧州中央銀行(ECB)会合があり、中国の全国人民代表大会(全人代)も開始されます。グローバル投資家が3月に注目すべき主な事柄は、以下のとおりです。

関税交渉

関税戦争に対する懸念は、米国の消費者心理及び支出にマイナスに働いています。しかし私は、(一部の国がトランプ大統領の要求に応えることで目指しているように)関税の脅威が早期に終結すれば、これらも急速に回復する可能性が高いと考えています。短期でみると、関税交渉は米国の経済成長にとって極めて重要です。当面、残念ながら関税措置は更に増えるでしょう。これは2018年と同様に、米国株の重しとなるでしょう。

米国の成長悪化の兆し

「成長への脅威」を示す兆候が更に多く見られつつあります。消費者信頼感指数の大幅な低下にとどまらず、様々な経済データに減速の兆しが見られています。

  • 米国の個人消費支出は1月に0.2%減少し、予想を上回る落ち込みとなりました1
  • 1月の小売売上高と鉱工業生産は、ともに予想を下回りました。
  • 2月のS&Pグローバル米国サービス業PMI速報値は49.7と、1月の52.9から低下して縮小領域に入り、予想を大幅に下回りました2
  • 米国ISM製造業PMIの新規受注サブ指数は、2月に55.1から48.6に低下して縮小領域に入り、2022年3月以来最大の落ち込みとなりました3
  • 国内総生産(GDP)成長率をリアルタイムで予測するアトランタ連銀のGDPNowは、直近で大きく変動しました。モデルは2月19日時点で第1四半期のGDP成長率を年率プラス2.3%と予測していましたが、2月28日には年率マイナス1.5%との予測に変わりました4

アトランタ連銀は現在、第1四半期のGDP成長率について実際年率でマイナス成長となると予測しています。2四半期連続でマイナス成長が続けば、景気後退と見なされることを覚えておいでかもしれません。第1四半期の終わりまでにはまだまだ間があるため、今後のデータによってアトランタ連銀のGDPNow予測がプラスの成長領域に戻ることは十分あり得ます。また経済成長の減速は、関税戦争への懸念からくる反応によるところが大きいとみられることから、非常に短期に終わる可能性もあります。米国経済が急速に悪化し過ぎていないことを確認するために、データを注意深く追っていきたいと思います。まずは今週発表される2月の米国雇用統計や、米連邦準備理事会(FRB)がまとめるベージュブックの定性的情報を見ていく予定です。

米国のインフレ再燃の兆し

米国のインフレが再燃するのではないかの懸念が多くみられます。米国の消費者インフレ期待にもそれが見てとれ、1年先のインフレ期待は現在、4.3%と非常に高くなっています5。またこれは市場ベースのインフレ期待にも見られ、5年物のブレーク・イーブン・インフレ率は、2024年9月10日の1.86%という低い水準から2025年2月28日には2.61%まで上昇しました6。直近の米個人消費支出(PCE)データは比較的落ち着いていましたが、米国ISM製造業PMIの支払価格サブ指数は先月の54.9から62.4に上昇し、予想を大きく上回る大幅な上昇となりました7。これらは成長低下と物価上昇を示すものであり、ミシガン大学消費者調査で、消費者心理の低下とインフレ期待の上昇が示されたのと同様、望ましい内容とは言えません。先週言及したように、これはスタグフレーションの可能性への懸念を呼び起こすものです。

インフレ再燃の兆候を見逃さないよう、今後のデータ発表に注意深く目を向けていきたいと思います。私は特に、今週金曜日(3月7日)の米雇用統計において発表される平均時給に注目しています。

FRBからのメッセージ

これまで、FRBは成長リスクよりもインフレリスクをより懸念していることを示してきました。これはむしろFRBの典型的な姿勢と言えます。米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは、ハーバート・フーバーの二の舞になるより、アーサー・バーンズの二の舞になることを恐れているかのようです。

しかし私は、景気悪化の兆候が更に多く見られるようになれば、FRBの焦点も変わるのではないかと考えています。これがインフレ再燃―すなわち皆が恐れているスタグフレーション的環境―を伴わない場合は、より緩和的な政策となっていくでしょう。FRBが認識するリスクがどのように変化していくか見極める上で、FRBのメッセージに注目することが重要となります。

米10年物国債利回り

スコット・ベッセント米財務長官が、トランプ政権はFRBに利下げを促すのではなく、米10年物国債利回りの低下に注力するだろうと述べたとき、私はそれがこれほど早く実現するとは思っていませんでした。また、成長鈍化の予想がその要因になるとも思っていませんでした。

ここ数週間、米10年物国債利回りは乱高下しており、1月14日に4.79%のピークをつけた後、2月28日に4.21%まで低下しました8。今日時点では、更に低下しています。ここで、10年物国債利回りの低下が常に良い兆候であるとは限らないということを認識する必要があります。10年物国債利回りを分解してみると(これに影響する種々の構成要素を加味すると)、実質利回りの低下は、市場がインフレ上昇と成長鈍化を予想していることを示唆していることが分かります。この組み合わせは、歴史的に米国株にとってはマイナスでした。当面は、慎重な対応が必要でしょう。

米国の財政状況と政府機関閉鎖の可能性

下院共和党は、トランプ大統領の主要な選挙公約全てを1つの法案にまとめた予算案を提出しました。この法案は、2017年の減税措置を延長し、新たな減税措置を追加するもので、これによる減税分は4.5兆ドルに上ります。これにより、今後10年間の財政赤字は3兆ドル近く増える見通しです9

この歳出法案をめぐっては、下院共和党内部でも意見が割れています。この計画では、 財政のタカ派を説得するために、下院は今後10年間で連邦政府のコストをほぼ2兆ドル削減せねばならないと規定し、さもなければ4.5兆ドルの減税計画について、減税幅を同額(2兆ドル)削減する必要があるとしています。 上院共和党は、この計画に大幅な修正を加えるとみられています。

これは3月14日までとなっている政府の現行つなぎ予算の期限が迫る中での出来事であり、これが延長できなければたやすく政府機関の閉鎖につながり得ます。マイク・ジョンソン下院議長は、2025年9月30日までこのつなぎ予算を延長する「クリーンな」継続決議案の可決を目指しているようです。しかし民主党は、トランプ政権が、議会が既に予算計上した分野で連邦職員の削減や支出削減を行っていることに警戒感を示しており、議会が予算決定権限を有するとの従来の見方に沿って、議会によって承認された予算が実際に執行されることを確実にするための文言を法案に挿入したいと考えているようです。下院共和党は僅差での多数派でしかないため、交渉の成否についてはまったく予想がつきません。

ワシントンDCでは混乱と不透明感が充満しており、一時的にせよ株価に悪影響が及ばないとは考えにくい状況です―特に、既に関税をめぐって動揺がみられることから尚更です。

ECB

今週の欧州中央銀行(ECB)会合では、成長の停滞、粘着的なサービスインフレ、関税戦争の可能性、そしてもちろん地政学的不確実性など、多くの問題が話し合われることになるでしょう。今年のECBはハト派的となると予想されます。その妨げとなるような要因があるかどうかについては考える必要がありますが、私個人はないだろうとみています。ここ数か月間、比較的粘着的なインフレが見られましたが、一定のディスインフレの進展も見られています。ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁が今週、ECBが引き続きデータ次第で判断するとの保証以上のフォワードガイダンスを提供することはないとみられますが、私は今年、大幅な緩和が実施されると予想しています。ECBは今週利下げを決定し、今年更に3回の利下げを実施するとみられます。これらの利下げは、今年欧州株の好調なリターンを生み出す重要な牽引役となるでしょう。

中国の全国人民代表大会

中国の政策担当者たちが、今週、北京で全国人民代表大会(全人代)の年次総会に参加します。全人代は3月5日に始まり、1週間続きます。注目すべき重要な点のひとつは、2025年の政府による成長目標です。おそらく5%程度となり、財政赤字目標は対GDPで4%程度となると予想されます。

米国の関税に対抗するため、政策当局が財政支出拡大や景気刺激策の強化を行う可能性があり、あるいは後に備えてこれらを温存する可能性もあります。中国株は最近の好調なパフォーマンスから更なる好材料を期待しているようです。最近の関税の動向にもかかわらず、中国株は新興国市場やその他の世界各国の市場をアウトパフォームしており、人民元は安定的に推移しています10

収益の成長見通し

米国の経済成長が減速する中で、アナリストは2025年の収益見通しを下方修正し始めています。これは米国株にとって下押し圧力となる可能性があり、注意深く見守る必要があります。

注目の日程

公表日 指標等 内容
3月3日 ユーロ圏CPI インフレの動向を追跡
3月3日 米国製造業PMI 製造業の経済の健全性を示す
3月3日 米国ISM製造業PMI 製造業の経済の健全性を示す
3月3日 ユーロ圏製造業PMI 製造業の経済の健全性を示す
3月3日 英国製造業PMI 製造業の経済の健全性を示す
3月4日 ユーロ圏失業率 労働市場の健全性を示す
3月4日 オーストラリア国内総生産成長率 地域の経済活動を測定
3月4日 中国財新サービス業PMI サービス業の経済の健全性を示す
3月5日 ユーロ圏サービス業PMI サービス業の経済の健全性を示す
3月5日 英国サービス業PMI サービス業の経済の健全性を示す
3月5日 ユーロ圏PPI 生産者に対して支払われるモノ・サービスの
価格変化を測定
3月5日 米国サービス業PMI サービス業の経済の健全性を示す
3月5日 米国ISMサービス業PMI サービス業の経済の健全性を示す
3月5日 米国FRBベージュブック FRBの各地区における現在の経済状況に
関する定性的情報を収集
3月6日 ユーロ圏小売売上高 小売セクターの健全性を示す
3月6日 米国非農業部門労働生産性 非農業部門労働者の労働生産性を測定
3月6日 欧州中央銀行金融政策決定 金利の動向を明らかにする
3月7日 米国雇用統計 労働市場の健全性を示す
3月7日 ユーロ圏国内総生産成長率 地域の経済活動を測定
3月7日 ユーロ圏雇用統計 労働市場の健全性を示す
3月7日 カナダ雇用統計 労働市場の健全性を示す

(執筆協力:デイビッド・チャオ、ポール・ジャクソン)

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:米国経済分析局、2025年2月28日
  2. 出所:S&Pグローバル、2025年2月21日
  3. 出所:米供給管理協会、2025年3月3日
  4. 出所:アトランタ連銀GDPNow、2025年2月19日及び2月28日
  5. 出所:ミシガン大学消費者調査、2025年2月21日
  6. 出所:セントルイス連銀(FRED経由)、2025年2月28日
  7. 出所:米供給管理協会、2025年3月3日
  8. 出所:ブルームバーグ、2025年2月28日
  9. 出所:ペンシルベニア大学ウォートン校予算モデル、2025年2月27日
  10. 出所:ブルームバーグ、2025年3月3日時点で年初来、MSCIエマージング・マーケット指数が2.02%上昇、MSCIオール・カントリー・ワールド指数が2.57%上昇したのに対し、MSCI中国指数は12.46%上昇。

ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2025-024

本サイトの記事は(株)ZUUが情報収集し作成したものです。記事の内容・情報に関しては作成時点のもので、変更の可能性があります。また、一部、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供している記事を掲載している場合があります。 本サイトは特定の商品、株式、投資信託、そのほかの金融商品やサービスなどの勧誘や売買の推奨等を目的としたものではありません。本サイトに掲載されている情報のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はご自身の判断でなさるようお願いいたします。 当サイトご利用にあたっては、下記サイトポリシーをご確認いただけますようお願いいたします。