投資信託は、実際の運用を専門機関に任せられる金融商品です。新NISAや確定拠出年金でもよく取引されていますが、個別株式などに比べて安全性が高い商品と言えるのでしょうか。
本記事では、投資信託の仕組みや安全性、下落につながる主なリスクなどをまとめました。リスクを抑えたい人に向けて、安全性を高めるポイントについてもご紹介します。
目次
投資信託は三者運用で安全性に配慮している商品
投資信託は、販売会社・運用会社・信託銀行の三者で運用することにより、投資家の安全性に配慮している金融商品です。信託財産については分別管理が法律で義務づけられているため、仮に各機関が破たんしたとしても、投資家が資産を失うことはありません。
投資家が保有しているファンドの扱いについては、破たん後の動向によって変わります。別の機関にファンドや業務が委託される場合、投資家はそのまま保有や取引を続けられます。
しかし、委託先が見つからないなどの事情で運用が難しくなった場合は、信託期間の前に現金化される「繰上償還」が行われることもあります。繰上償還になると、その時点の基準価額で強制的に売却する形になるため、状況次第では損失がでてしまいます。
安全性に配慮しているとは言え、投資信託は元本保証が備わっていない金融商品です。場合によっては損失が膨らむこともあるので、各ファンドのリスクは事前に把握しておきましょう。
投資信託の専門機関が破たんした場合の影響
投資信託の専門機関が破たんしても、原則として投資家の資産は守られる仕組みになっています。以下では販売会社・運用会社・信託銀行の三者に分けて、それぞれが破たんした場合の影響について解説します。
販売会社が破たんした場合
販売会社の役割は、取引を希望する投資家の窓口になることです。金銭のやり取りは行いますが、その資金は後述の信託銀行が管理しています。
したがって、販売会社が破たんしても信託財産(ファンドの保有資産)に影響はありません。取り扱いのファンドは別の販売会社に委託されるため、投資家は引き続き取引や保有を続けることができます。また、販売会社が破たんしたタイミングで申し込めば、そのときの基準価額で売却することも可能です。
運用会社が破たんした場合
運用会社の役割は、ファンドの運用指図を行うことです。投資家と直接金銭をやり取りすることがないため、仮に破たんしても信託財産には影響しません。
破たんに伴ってファンドが別の運用会社に委託される場合、投資家は引き続き保有や取引を続けることができます。ただし、運用が困難な場合などは繰上償還される可能性もあります。
信託銀行が破たんした場合
信託銀行の役割は、ファンドの信託財産を管理することです。信託財産に直接関わりますが、自身の財産とは切り分けての管理(分別管理)が義務づけられているため、信託銀行の破たんは信託財産に影響しません。
もし破綻した場合は、ファンドの管理業務が別の信託銀行に移管されるか、またはそのときの基準価額で現金化されます。
投資信託が値下がりするリスク
投資家が注意したい投資信託のリスクとして、基準価額の値下がりがあります。ファンドの売却金額は基準価額に左右されるため、下落幅によっては大きな損失を抱えるかもしれません。ここからは、投資信託が値下がりする4つのリスクについて解説します。
価格変動リスク
価格変動リスクとは、ファンドが組み入れている資産の価値が下がるリスクです。たとえば、ファンドの投資先に含まれる株式や債券などが下落すると、それに伴って基準価額も値下がりします。
実際にどのような場面で値下がりするのか、以下では株式を例にご紹介します。
<株式の主な下落要因>
・投資先企業の業績が悪かったとき
・景気動向が悪化したとき
・国際情勢や政治が不安定になったとき
・自然災害の影響を受けたとき
株式の価格は需給のバランスで決まるため、基本的には売却を考える投資家が多いほど下落しやすくなります。
為替変動リスク
外国資産に投資をする投資信託は、為替変動の影響を受けます。例としては、米国株式を組み入れたファンドや、中国株式に投資をするファンドなどが挙げられます。
たとえば、米国株式を中心に構成されたファンドでは、為替レートが円高米ドル安に進むほど資産価値が下がります。組み入れ銘柄のパフォーマンスにも左右されますが、為替レートの変動だけで損失が膨らむこともあります。
そのため、外国資産が含まれるファンドの購入時には、為替状況をこまめに確認することが重要です。どの国の資産が含まれるのかについては、各ファンドの交付目論見書などから確認できます。
金利変動リスク
株式や債券などの価格変動要因には、各国の金利政策もあります。ここで言う金利とは、政策金利や債券金利、為替スワップ金利などを指します。
<政策金利と投資信託の関係>
政策金利が上がると企業の資金調達が難しくなり、一部の企業は生産体制の縮小などを強いられます。その結果として業績が悪化する(株価が下落する)企業が増えるため、株式を中心に構成されたファンドの基準価額も低下します。
<債券金利と投資信託の関係>
債券金利が上がると、新たに発行される債券を購入する投資家が増える一方で、古い債券の魅力が低下します。結果として債券価格が下がるため、既存の債券を組み入れているファンドは値下がりしやすくなります。
<為替スワップ金利と投資信託の関係>
日本円のスワップ金利が上昇すると、日本円の需要が増えて為替レートが円高方向に進む可能性があります。その結果として、外国資産を投資対象とするファンドは円建ての評価額が下がるため、値下がりする場合があります。
上記の通り、金利が上がると株式や債券の価格が下がりやすくなるため、投資信託の基準価額もその影響を受けます。
デフォルトリスク
デフォルトとは、債券を発行する国や企業などの財政難によって、事前に決められた条件を満たせなくなることです。簡単に言えば債務の不履行であり、デフォルトされた債券を保有する投資家は、当初に想定したリターンを受けとれません。
債券を投資対象とするファンドでも、同様のことが起こります。そのため、デフォルトが起こると債券型ファンドの基準価額は下落し、投資家の損失にもつながります。
投資家の安全を守る「金融商品取引法」とは
2007年から施行されている「金融商品取引法(金商法)」にも、投資者保護の観点がとり入れられています。
金融商品取引法とは、資本市場の公正を確保する目的で、金融商品取引業者(証券会社など)や登録金融機関(銀行など)に遵守させるルールを定めた法律です。無登録の金融機関は取引自体が禁止されているため、国内で金融商品を取り扱うことができません。
参考:金融庁「金融商品取引法について」
どのような観点で投資家が保護されているのか、以下では2つの例をご紹介します。
<1.交付目論見書の開示義務>
一般投資家に向けて販売されているファンドについては、発行者や販売会社による交付目論見書の開示が義務づけられています。交付目論見書とは、投資判断に必要なファンドの重要事項が記載された書類であり、たとえば投資対象の資産や運用実績、リスク、手数料などの情報を確認できます。
<2.請求目論見書の交付義務>
ファンドの発行者や販売会社は、投資家から請求があった場合に請求目論見書を交付しなければなりません。請求目論見書は交付目論見書の内容を補足する書類であり、ファンドの経理状況や沿革、運用会社の情報などが記載されています。
金融商品取引法では上記のようなルールを定めることで、一部の投資家に不利益が生じることを防いでいます。
投資信託購入時の安全性を高めるポイント
投資信託の損失リスクを抑えるには、どのような点を意識すればよいでしょうか。ここからは、投資信託購入時の安全性を高める6つのポイントをご紹介します。
登録された金融機関であることを確認する
まずは前提として、取引に関わる証券会社などが登録された金融機関であることを確認しましょう。登録された金融機関は金融庁の公式サイトで公開されています。
参考:金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」
また、各社の公式サイトを確認すると、ページの下部などに登録番号や加入協会が記載されています。
交付目論見書を見る
投資信託の購入前には、各ファンドの情報収集が欠かせません。証券会社などの公式サイトでは、各ファンドの直近のパフォーマンスをまとめた個別ページが公開されていますが、交付目論見書もあわせて確認することが重要です。
交付目論見書にはファンドの概要のほか、具体的な投資リスクや繰上償還の条件などが記載されています。細かい部分まで確認し、各ファンドの安全性を慎重に判断しましょう。
月次レポートや運用報告書を見る
各ファンドの月次レポートには、直近のパフォーマンスや分配金実績などの詳細がまとめられています。また、運用報告書には価格変動が起こった要因なども記載されているため、そのファンドに関連する市場環境を読みとれます。
月次レポートや運用報告書については、資産構成や組入上位銘柄もあわせて確認しましょう。「どのような資産に投資しているか」や「集中的に投資している地域はどこか」などを把握すると、具体的なリスクをイメージしやすくなります。
運用会社の実績や信頼性を確認する
ファンドの運用指図を行う運用会社は、パフォーマンスやリスク管理を左右する重要な存在です。ご自身の資産運用を任せる形になるので、運用会社の実績や信頼性もきちんと確認しておきましょう。
運用会社の情報は交付目論見書にも記載されていますが、各社の公式サイトや請求目論見書を見ると、より多くの情報を得られます。
新NISA(つみたて投資枠)の対象商品から選ぶ
新NISAのつみたて投資枠では、対象商品が金融庁の基準を満たしたファンドに限定されています。具体的には以下の条件が設けられており、金融庁の公式サイトで対象商品の一覧が公開されています。
<つみたて投資枠の対象商品の基準>
・信託契約期間が20年以上または無期限
・ヘッジ以外の目的でデリバティブ取引での運用を行っていない
・毎月分配型のファンドではない
・販売手数料が0%であり、信託報酬が低水準
・金融庁がベンチマークを指定しているインデックス・ファンド
・以下の要件を満たすアクティブ・ファンド
【1】純資産額が50億円以上
【2】運用実績が5年以上
【3】信託期間中の3分の2以上で資金流入を超える実績がある
参考:金融庁「つみたて投資枠対象商品」
簡単に言い換えると、つみたて投資枠の対象商品は長期積立や分散投資に適したファンドのみです。金融庁の厳しい基準を満たしているという点で、比較的安全に取引できるファンドと考えられます。
ただし、どのファンドにも損失のリスクはあるため、確実に利益を得られるわけではありません。つみたて投資枠を活用する場合も、各ファンドの情報収集や分析は入念に行ってください。
少ない資金で始める
ここまでのポイントを実践しても不安が残る場合は、少ない資金で始める方法が選択肢になります。投資資金を減らすと、期待できるリターンが減る代わりに最大の損失額を抑えられます。
金融機関によっては、毎月100円や1,000円から始められる「投信積立」のサービスを提供しており、投信積立ではファンドと金額を選ぶだけで積立設定ができます。まずは100円などの少額から始めて、月次レポートなどで運用状況をこまめに確認すれば、ファンドの特性を理解した上で買い増しの判断ができるでしょう。
少額からでも実際に投資を始めることは、情報収集のモチベーションを保つ意味でも重要です。
投資信託は許容リスクを超えない方法で取引しよう
投資信託は安全性に配慮されている一方で、元本保証が備わった金融商品ではありません。どのようなファンドにも損失のリスクがあるため、投資先としての特性は正しく理解することが重要です。
これから取引を始める人は、各ファンドの情報収集や分析を行った上で、ご自身の許容リスクを超えないように注意しましょう。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。
※本記事は、2024年11月26日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。