世界最大の証券市場を誇る米国でビットコインの現物ETF(上場投資信託)の取引が開始されたことにより、暗号資産市場が大きな転換期を迎えると期待されています。本記事では、今回の動きが金融・暗号資産市場や、ビットコインの基盤技術であるブロックチェーンの未来に及ぼす潜在的な影響について考察します。
目次
41億ドルの資金が流入したビットコインの現物ETFとは
ビットコインETFとは、ビットコインの価格に連動する上場投資信託のことです。ビットコインを購入しなくても、ビットコインに間接的に投資できる金融商品として注目されています。
証券会社の口座を介して売買できるため、暗号資産取引所やプライベートウォレットは不要。セキュリティや規制面で安心して暗号資産に投資できる機会を、投資家に提供することが目的です。現在、以下の2種類のビットコインEFTが上場しています。
ビットコイン先物ETF
ビットコイン先物EFTは取引の時点で決めた価格や数量で、定められた期日までに売買を行う取引です。ETFの発行体であるファンドはビットコインを保有する代わりに、ビットコイン先物EFT市場でポジション(※)を取っています。
(※)未決済のまま残っている約定のこと。
ビットコイン現物ETF
ビットコイン現物ETFは、ビットコインを原資産として保有しているファンドを介して、ビットコインの価格変動に応じた運用損益が発生する金融商品です。ビットコインの価格をリアルタイムで反映しており、ビットコインを直接購入することなく、ビットコインへのエクスポージャー(※)を増やせる点が魅力です。
(※)保有金融資産を価格変動などのリスクにさらしている割合のこと。
米国においては2024年1月、「フィデリティ・ワイズ・オリジン・ビットコイン・ファンド」や「インベスコ・ギャラクシー・ビットコインETF」を含む11本が承認され、取引を開始しています。米暗号資産企業コインシェアーズによると、取引開始から約10日間で総額41億ドル(約6,109億円)が流入しました。
暗号資産市場に追い風となるか
SEC(米国証券取引委員会)による現物ビットコインETFの承認は、米国内初の承認申請から10年以上を経て、ついに実現したものです。その背景には、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェース、フィデリティ・インベストメンツといった大手金融機関の暗号資産市場参入があります。
2023年、ビットコイン・トラスト(※)からビットコインETFへの変更申請を巡り、暗号資産運用企業グレースケール・インベストメンツがSECに勝訴したこと、世界最大の資産運用企業ブラックロックがビットコインEFTの申請を行ったことなども、大きな転機となりました。
(※)ビットコインに連動した投資結果を目指す金融商品のこと。
このような追い風を受け、今後、暗号資産市場に新たな資金や幅広い層の投資家が流入し、それにより市場の流動性と安定性が高まることが期待されます。ブルームバーグ・インテリジェンスは、現物ビットコインEFT市場が1,000億ドル(約14兆9,000億円)規模に成長すると予想しています。
ブロックチェーン市場の成長にも期待
ビットコインETFの発展は、ブロックチェーン市場の成長にもポジティブな影響を与えると期待されています。金融セクターの成長に欠かせない重要な技術として、今後ブロックチェーン技術の存在感がさらに増す可能性が大いに考えられるでしょう。
インドの市場調査企業ビジネスリサーチ・カンパニーは、銀行・金融セクターにおける世界のブロックチェーン市場規模が、2028年までに276億ドル(約4兆1,124億円)を超えると予想しています。
SECは引き続き警鐘「慎重な投資判断を」
今回の動きが暗号資産市場やブロックチェーン技術にとって、重要なマイルストーンとなることは間違ありません。とはいうものの、SECは承認後もビットコインに懐疑的なスタンスを維持しており、「無数のリスク」を警戒するよう呼びかけています。
また、2024年1月にビットコイン先物取引の提供中止を発表した大手資産運用企業バンカードのように、ビットコイン関連事業の縮小・撤退に舵を切る動きも見られることから、引き続き慎重な投資判断が求められます。Wealth Roadでは、今後もブロックチェーン及び暗号資産市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=149円
※本記事はブロックチェーン技術や暗号資産に関わる基礎知識を解説することを目的としており、ブロックチェーン関連資産等への投資を推奨するものではありません。