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世界市場ダイジェスト: 利上げ、雇用統計、債務上限、その他

世界市場ダイジェスト: 利上げ、雇用統計、債務上限、その他

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • 中央銀行による引き締め:先週は、サプライズ的な発表や、意図をはっきりさせるというよりむしろ混乱を招くような発言など、中央銀行の動きが相次いだ
  • 雇用統計:雇用に関するデータでは良いニュースがあったが、詳細を見ると、雇用情勢はヘッドラインが示唆するほどには強くなさそう
  • 債務上限:イエレン米財務長官は、議会が債務上限の引き上げや一時停止を行わない場合、6月1日までに、米国政府の支払いに必要な資金が枯渇する可能性があると警告

中央銀行による引き締めは継続

力強いサービス業/弱含む製造業

雇用は比較的堅調だが、細部が重要

インフレは依然として高いが、改善の兆しがみられる

与信条件の厳格化

イエレン米財務長官、米国の債務上限について警告

様々なリスクについて懸念が残る

先週は、中央銀行による引き締め、数字の上では力強く表れた雇用統計、米国の債務上限突破への懸念の高まりなど、世界市場にインパクトのあるニュースが目白押しとなりました。それでは詳しく見ていきましょう。

中央銀行による引き締めは継続

先週は、サプライズ的な発表や、意図をはっきりさせるというよりむしろ混乱を招くような発言など、中央銀行の動きが相次ぎました。

  • オーストラリア。まず、オーストラリア準備銀行が0.25%の政策金利引き上げを行うサプライズを発表し、「合理的な期間」にインフレ率が目標に戻ることを確実にするためには「さらなる引き締め」が必要な可能性がある、と追加利上げの可能性を示唆しました1 。ニュージーランド準備銀行も、今月後半に政策金利の引き上げを行うと予想されています。
  • 米国。そして、米連邦公開市場委員会(FOMC)は0.25%の政策金利の引き上げを決定しました。引き上げは予想されていたものの、記者会見でのパウエル議長の発言はやや混乱を招く内容でした。「利上げを一時停止するとの決定は本日行われなかった」と述べた一方で、引き締めサイクルの終わりについて「私たちはそこに近づいているか、あるいはもう到達しているかもしれない」と述べ、また「私たちは、長い道のりをかなり急速に進んだと思う」、「データを見て慎重に評価を行ってよいと思う」とも述べました2 。私は、これは事実上の「条件付き一時停止」であり、米連邦準備制度理事会(FRB)が再び利上げに踏み切るためのハードルが高くなったことを意味すると考えています。このことは、今後、データ(特にインフレデータ)への注目がさらに高まるため、当面は市場のボラティリティの上昇が予想されることを意味します。(詳しくは「特別レポート:FRBは「条件付き一時停止」の状態にあるようにみえる」を参照)
  • 欧州。欧州中央銀行(ECB)も0.25%の政策金利の引き上げを決定しました。しかしECBのラガルド総裁は、「私たちにはまだ進むべき道のりがあり、一時停止を行うつもりはない―それは極めて明白だ」3と述べ、ユーロ圏が米国とは異なる状況にあることを明確にしました。

力強いサービス業/弱含む製造業

世界中の多くの地域でここ数カ月間見られ、4月も続いた似通ったパターンは、 好調なサービス業に対して、製造業が低調だったという状況です。

  • 米国。米供給管理協会(ISM)の4月のサービス業購買担当者景気指数(PMI)は51.9となり、拡大領域を維持しました。しかし4月の製造業PMIは47.1となり、3月に比べ改善したものの、縮小領域の数値となりました。製造業の新規受注指数も改善はしているものの、依然として弱含んでいることにも注目です4
  • 欧州。4月のユーロ圏PMIも、製造業とサービス業の格差の継続を示しています。製造業PMIは45.8と縮小領域にある一方で、サービス業PMIは56.2と3月の55.0から拡大しました5
  • 中国。中国国家統計局による4月のPMIは、製造業が前月の51.9に対して49.2と驚くほど低い数値となり、非製造業が3月の58.2に対して56.4となりました6 。同様に、中国財新の製造業PMIは49.5、サービス業PMIは56.4となりました7 。中国経済のサービス部門の強さは、ゴールデンウィークの結果からも明らかです。この5連休の国内観光収入は、パンデミック前の101%という大きな伸びを示しました8 。サービスに対する中国の旺盛な個人消費が持続的なものかどうかは懐疑的な見方もありますが、私は、何年も続いたロックダウンがようやく終わり、抑えつけられていた需要はまだ満たされていないのではないかと推測しています。

雇用は比較的堅調だが、細部が重要

雇用に関するデータでは良いニュースがありましたが、詳細を見ると、雇用情勢はヘッドラインで示されているほど強くはないようです。

  • カナダ。カナダの4月の雇用統計によると、純新規雇用は4万1000件でしたが、これはパートタイム雇用が牽引したものでした9
  • 米国。米雇用統計によると、4月の雇用者数は、予想の18万5000人を大きく上回る25万3000人もの増加となりました。しかし2月、3月の雇用者数が、合計14万9000人の大幅な下方修正となりました10

インフレは依然として高いが、改善の兆しがみられる

  • 4月の米雇用統計は、賃金の伸びの上昇を示しました。平均時給は前年同月比4.4%増となり、3月の改定値の同4.3%増を上回りました10。カナダの平均時給は前年同月比5.2%増と、3月の同5.3%増に続き依然として高い水準にあります9 。また、4月のユーロ圏のインフレ率速報値は前年同月比7.0%となり、3月の同6.9%から上昇しました11 。食品、エネルギーを除くコアインフレ率が同5.6%となり、3月の同5.7%から低下したのは朗報でした11 。これらは依然として非常に高い数値で、各データポイントが好ましい方向に動いているとは言えないかもしれませんが、全般的には低下傾向にあると言えます。
  • 4月のニューヨーク連銀の消費者調査で、1年先の期待インフレ率が低下したという良いニュースもありました。残念ながら、3年先と5年先の期待インフレ率は上昇しましたが、インフレ率そのものと同様、期待インフレ率も全般的な下降トレンドを追うにつれて、でこぼことした不完全な動きをみせるでしょう12

与信条件の厳格化

今年初めのミニ銀行危機の発生後、与信条件は厳しくなりましたが、今後さらなる厳格化が予想されます。FRBの4月のシニアローンオフィサー調査結果では、「2023年の残りの期間、銀行はすべての融資カテゴリーにおいて(与信)基準を厳格化すると予想しており、その理由として、信用力と担保価値の悪化が予想されること、リスク許容度の低下および、銀行の調達コストや流動性ポジション、預金流出に関する懸念を挙げている」としています13
融資をめぐる環境は明らかに困難になってきています(ただし与信条件の厳格化により、FRBが「条件付き一時停止」を維持し、利上げサイクルに戻らない可能性を高めるという利点もあります)。もちろん私たちは今後、与信条件を注意深く観察していきます。

イエレン米財務長官、米国の債務上限について警告

私は以前から、債務上限問題が経済と市場を混乱させる可能性について警告してきました。ここ数日、市場はさらに懸念を強めています。私の同僚は、投資家が、議論が最も激しくなる時期に満期を迎える金融商品への投資を控えようとするため、米国債の1カ月物レートが最近急騰していることを指摘しました。先週月曜日にイエレン米財務長官が、議会が債務上限の引き上げや一時停止を行わない場合、6月1日までに、米国政府の支払いに必要な資金が枯渇する可能性があると警告したことを踏まえれば、これは驚くには値しません。この計算には多くの変動要因があるため、詳細を注視していくつもりです。

債務上限が引き上げられず米国が資金不足に陥る日となるXデーが、6月1日より後になる可能性があるとは言っておきましょう。これについては米内国歳入庁(IRS)が、これまでの税収評価と将来の税収予測を行うことで、より明らかになるでしょう。また短期的な延長を行った場合、Xデーは2023年夏の終わりか秋にずれ込む可能性もあります。

短期的には、これにより2011年に起こったような下落ショック―市場を震撼させ、リスク資産の価格を下落させ、国債や金などの「セーフヘーブン」となる資産クラスへの需要を増加させた―が起きる可能性があります。また、債務上限を引き上げずにXデーを迎えた場合、連邦政府は米国債の償還を優先する可能性が高いため、社会保障給付や軍人給与などの支払いの遅延措置または一時停止措置が発動された場合、米国経済に大きなダメージを与える可能性があります。私の同僚の公共政策の専門家によれば、今回の債務上限をめぐる争議は、これまでで最も揉めそうだとのことです。少なくとも、実際に債務上限の引き上げが行われるまでは、不透明感から市場のボラティリティが高まることが予想されます。

様々なリスクについて懸念が残る

他のニュースとしては:

  • 米銀行株に対する懸念は完全に和らいだわけではありませんが、主に地方銀行に限定的なものとなっています。これらの銀行の株価は、数週間にわたり大きな下押し圧力を受けています。
  • FRBによる積極的な引き締めが米国の景気後退を引き起こす懸念があることから、景気後退への恐怖は最近さらに強まっています。米国債のイールドカーブは、3カ月物と18カ月物でみると、1981年以来、見たことがないようなレベルで反転(逆イールド、長短金利差の逆転)しています14
  • 米国債の2年物と10年物のイールドカーブの反転度合は、3月のミニ銀行危機のピーク時より大幅に縮小しているものの、依然として比較的大きいままとなっています15 。この縮小は、ほとんどが3月初旬からの2年物利回りの低下によるものでした。市場は遠くない将来に利下げを予想していますが、これは利上げによる景気の悪化、与信条件の厳格化、適時に債務上限を引き上げられないことへの懸念、からくるものと思われます。
  • パンデミックは正式に終わりを迎えました。先週、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスに関する国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の終了を宣言しました。世界は長い間、パンデミックは既に終わったかのように振る舞ってきましたが、この発表により、一つの期間の終わりが正式に宣言されたことになります。これは同時に、次のことをも思い起こさせます:「ある時点で経済、市場への最大のリスクと認識されていた問題は、もはや存在しない。今日この日の最大のリスクもいつかは過去のこととなるように、これもまた、いつか過ぎ去る。」

今後は、今週追って発表される米国のインフレデータ(特に消費者物価指数)に、特に注目が集まると考えています。

(執筆協力:ポール・ジャクソン、ブライアン・レヴィット、アンディ・ブロッカー、ジェニファー・フリットン)

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

1.出所:ロイター、“Australia central bank stuns with 25-bps hike, warns more might be needed”、 2023年5月2日
2.出所:パウエルFRB議長記者会見録、2023年5月3日
3.出所:ラガルドECB総裁記者会見録、2023年5月4日
4.出所:米供給管理協会、2023年5月
5.出所:HCOBユーロ圏製造業PMI、2023年5月2日、HCOBユーロ圏サービス業PMI、2023年5月4日
6.出所:中国国家統計局、2023年4月30日
7.出所:財新グローバル、2023年5月4日、5月5日
8.出所:サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、2023年5月4日
9.出所:カナダ統計局、2023年5月5日
10.出所:米雇用統計、2023年5月5日
11.出所:ユーロスタット、2023年5月2日
12.出所:ニューヨーク連銀消費者調査、2023年5月8日
13.出所:シニアローンオフィサー意見調査、2023年5月8日
14.出所:ブルームバーグ、2023年5月5日
15.出所:ブルームバーグ、2023年5月5日

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