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FRBによる引き締めの影響を評価する試み

FRBによる引き締めの影響を評価する試み

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〔要旨〕

  • 米国経済:米国経済はクールダウン傾向であるものの、それが適度であり、それに伴ってインフレが低下している場合は朗報といえる
  • 引き締めのラグ効果:しかし、FRBの引き締めの影響が完全に顕在化したとき、経済にどのような影響が及ぶかは気にかけておく必要がある
  • FRBの考えは?:3月のFOMC議事要旨が公表されれば、FRBの考えをより深く知ることができるだろう

欧州、中国のサービス需要が活発化

米国経済の減速はインフレ抑制の面で好都合の可能性

銀行問題が再燃する可能性は?

今後の展望

1970年代から1980年代の米国で育った私は、学生時代の友人たちと、自分たちがいかに危険に無頓着だったかについてよく笑い話にしています。車のシートベルトや自転車のヘルメットの着用が義務付けられていなかったにもかかわらず、よくぞ生き延びたものだと思わずにはいられません。ある親しい友人は、母親の車で道路を走っているときに、猫を膝に乗せたまま車から転落したことがありました。どちらも無傷だったのは幸いでしたが、自由気ままに過ごしていても、うまくいくとは限りません。かつて私の母は、ムーンルーフ付きの新車を手に入れて至福の時を過ごしていましたが、オイル交換やモーターオイルを入れるのを1年ほどすっかり忘れていたことがありました。するとある日、晴天での外出を楽しんでいたところ、エンジンが焼けて、車が動かなくなってしまいました。フラットベッド・トラックで車がレッカー移動されるのを見ながら、私たちは、楽しい時間があっという間に終わってしまったことを悟りました。

このようなエピソードをご紹介するのは、政策当局が身に迫るリスクに無頓着であるか、少なくとも自己満足に陥ってはいないかと考えるからです。確かに経済データはおおむね、私たちが望んでいたとおりの内容となりましたが、過去1年に見られたような積極的で急速な引き締めには、大きなリスクがあります。政策の実行と実体経済への影響にはタイムラグがあり、まだ全ての効果が現れているわけではありません。私の基本シナリオは依然として、経済への大きなダメージが避けられ、私の友人と猫のように、少し揺さぶられながらもかすり傷程度で終わることができるというものですが、それでも私たちは、最後はフラットベッド・トラックに載せられてしまった母の車のようにならないよう、リスクを考慮し、しっかりとフォローアップしていかねばなりません。

先週は、欧州や中国におけるサービス需要の急増を示すデータや、米国におけるインフレ抑制につながる経済のクールダウンを示すようなデータが相次いで発表されました。米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする中央銀行は、インフレとの闘いのなかで、こうした進展に満足するでしょうか。以下でその詳細をみてみましょう。

欧州、中国のサービス需要が活発化

S&Pグローバルが発表したユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)は、サービス業PMIが3月に10カ月ぶりの高水準を記録するなど、経済環境がますます強固となっている状況を示しました1。同様に、中国の財新PMI調査では、製造業の環境は低調でしたが、サービス業PMIは中国経済の再開が始まった2022年末から大きく上昇し、堅調な値を示しました。財新サービス業 PMIは2月の55から3月は57.8に上昇し、新規受注指数は28カ月ぶりの高水準に達しました2。 以前にも述べたように、大きな繰り延べ需要が顕在化し始める中で、「リベンジ生活」が広がっています。

米国経済の減速はインフレ抑制の面で好都合の可能性

先週は、米国経済が減速していることを示す新たな兆候も得られました:

  • 米供給管理協会(ISM)の3月製造業PMIは46.3、3月サービス業PMIは51.2と、いずれもコンセンサス予想を下回りました3 。特に新規受注指数は、依然として拡大領域にあるものの、62.6から52.2へと10ポイント以上急落しました3
  • 2月の米建設支出は0.1%減少し、2月の米工場受注は0.7%減少しました4
  • そしておそらく最も重要な求人労働異動調査(JOLTS)のデータでは、求人数が大幅に減少しました5

米国経済はクールダウン傾向であるものの、それが適度であり、これに伴いインフレが低下するならほぼ確実に朗報といえるでしょう。今のところはそうなっているようです。ここで、パウエルFRB議長が非常に持続的に高止まりする懸念のあるインフレ指標としているサービスインフレに焦点を当ててみましょう。米ISMサービス価格指数(PPS)は依然として高い水準にあるものの、この1年で大幅に低下し、1年前の83.80という高水準から今年3月には59.5となりました6 。物価は明らかに適切な方向に動いており、その動きはこのところ加速しています。

さらにサービスインフレの主要因となっている非常にタイトな米労働市場も、正常化の兆しを見せています。私にとって3月雇用統計のポイントは、正常化への道筋に大きな進展が見られたことです7

  • 非農業部門雇用者数は、ここ数カ月に見られた非常に高い値から大きく減速しました。3月の23万6千人という数字は、ここ1年以上で最も低い水準でした。
  • 民間部門の雇用は予想より弱く、わずか18万9000人増となりました。これは2020年2月以来の低水準でした。
  • 3月の平均時給は前月比0.27%増と予想を下回り、2月の数値は下方修正されました。前年同月比で平均時給は4.2%増となり、大幅な低下となりました。過去6カ月を年率換算すると4%の上昇となる一方、過去3ヵ月を年率換算すると3.2%と、比較的緩やかな上昇となりました。
  • さらに労働参加率は62.6%とパンデミック以降で最も高い水準でした(2020年3月の労働参加率は63.3%)。労働参加率の増加は、タイトな労働市場を緩和し、賃金上昇圧力をさらに和らげる上で不可欠です。

端的に言えば、米国経済は今比較的良い状態にあり、明らかにパンデミック前のより正常な環境へと向かっているようです。しかし金融政策の効果がラグを伴って現れることや、FRBの引き締めの影響が完全に顕在化したとき、経済にどのような影響が及ぶかを気にかけておく必要があります。FRBと投資家に突き付けられた問いは、中央銀行がインフレを制御するために十分な対応をしたと考えているかどうか、そしておそらく今それより重要なのは、景気後退を回避する上では、対応が過剰だったのではないかということです。

銀行問題が再燃する可能性は?

さらに銀行セクターの問題が再燃するのではとの懸念も、いまだ残っています。

まず、先月銀行問題が噴出した際に我々が懸念したリスクのひとつは、与信条件の厳格化でした。先週の本レポートで述べたように、FRBがもう政策的な引き締めを行う必要がないと判断する程度に金融環境が多少引き締まるのは、むしろプラスかもしれません。しかし金融環境が過度に引き締まってしまえば、景気後退に陥る可能性があります。従って与信条件を注視することが重要なのです。

  • 先週発表された米銀行協会による与信条件指数によると、与信条件がパンデミック開始以来最もタイトな水準にあることが示されました8
  • ダラス連銀の3月の銀行業況調査でも、与信条件の大幅な厳格化が続いていることが示されました。金利上昇が企業に与える影響や、先月の銀行破綻によって生じた銀行システム(少なくとも地方銀行システム)に対する信頼喪失が懸念されています。ある調査回答者はこう明言しました: 「金利上昇がバランスシートに及ぼす影響は、最近の銀行破綻のニュースや、危機の連鎖の可能性、連邦政府の債務増加、国際的な銀行破綻の可能性などと同様(に懸念される)」 9
  • 3月31日時点のシカゴ連銀全米金融環境指数からも、金融環境が引き締まっていることが示唆されました10 。引き締めの状況は深刻ではありませんでしたが、与信条件は当該指数の一構成要素に過ぎないことを念頭に置く必要があります。

与信条件の厳格化は大きな逆風となる可能性があります。例えば米国の一部の銀行が、自動車ディーラーなど特定の事業体への融資を引きあげる可能性があると囁かれています。仮に貸出条件が厳しくなり、多くの産業に影響が及ぶようなことがあれば、大幅な景気後退につながる可能性が高くなります。そのため私たちは、この指標を注意深く見守る必要があるのです。

次に、銀行もまた逆風にさらされる可能性があります。深刻な銀行危機が発生する可能性は低いと考えていますが、信頼が大きく損なわれ、他の銀行への資金「退避」が発生するリスクは残っています。こうした事態を防ぐための政策手段があり、政策当局が危機の再発防止に非常に集中していることから、その可能性は低いと思われますが、それでも警戒はしておきたいところです。可能性がより高いと考えられるのは、銀行が当面、厳しい経営環境に置かれるだろうということです。銀行は、預金者が銀行から資金を引き出し、マネー・マーケット・ファンドやその他の高利回りの投資先に回すことを心配しなければなりません。銀行は預金獲得の競争力を高めるために預金金利を引き上げる必要があるかもしれず、その結果、利ざやが縮小する可能性があります。もちろん私たちは、この業界を注意深く観察し、今シーズンの銀行決算説明会で何が語られるかをしっかり見ていきたいと考えています。

今後の展望

私は決算シーズン、特に銀行決算から得られる知見に非常に注目したいと考えています。またユーロ圏経済の強さを確認する上でユーロ圏の小売売上高、及びFRBによる利上げの一時停止への説得材料となるかもしれないとの期待から、米消費者物価指数にも注目したいと考えています。

3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が公表されれば、FRBの考えをより深く知ることができるでしょう。私はそこで、FRBがインフレとの闘いの進展に、より満足感を高めている兆候が見られることを望んでいます。また議事要旨において、過去1年間の積極的な引き締めサイクルが米国経済にラグをもって及ぼす影響に対して、思慮深く敏感なFRBの姿が示されることを期待しています。

今後は、戦術的にディフェンシブなポジションを維持することが賢明なアプローチだと考えています。株式では、テクノロジー、ヘルスケア、生活必需品、公益事業の各セクターで、クオリティ、低ボラティリティのファクターを選好します。債券では投資適格債を選好します。戦略的な位置づけとしては、引き続き、3つの主要な資産クラスの各クラス内及び異なるクラスで幅広く分散投資を行いつつ、キャピタルゲインを得られる可能性のある資産及びインカムゲインを生む資産に十分なエクスポージャーを行うことを提唱します。

(執筆協力:アンドラス・ヴィグ)

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

1.出所:S&Pグローバル、2023年4月5日
2.出所:中国財新サービス業PMI、2023年4月6日
3.出所:米供給管理協会、2023年4月3日(製造業)、2023年4月5日(サービス業)
4.出所:米国勢調査局、2023年4月3日(建設)、2023年4月4日(工場受注)
5.出所:米労働統計局、2023年4月4日
6.出所:米供給管理協会、2023年4月5日
7.出所:米雇用統計より米雇用、賃金データ、2023年4月7日
8.出所:米銀行協会、ABA 信用条件指数 – 2023年第2四半期
9.出所:ダラス連銀、銀行業況調査、2023年3月
10.出所:シカゴ連銀、全米金融環境指数、2023年3月

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