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米国中間選挙が金融市場に及ぼすインパクト

米国中間選挙が金融市場に及ぼすインパクト

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要旨

新しい議会の下で変わること

11月8日に実施された米国中間選挙は、上下両院とも多数派のポジションを巡る接戦となりました。米ネットワーク局の一つであるNBCテレビは、本稿執筆時点(日本時間で11月10日午前11時30分現在)において、共和党が下院における多数派政党になるとの見通しを報道しています。この通りの結果となれば、「ねじれ政治」の下、2023年初からの新議会では、①積極的な財政政策が期待しにくくなる、➁巨大テック企業に対する規制を含め、主要産業への規制強化策が実施される可能性がほとんどなくなる—という変化が生じるでしょう。

新しい議会の下でも変わらないこと

一方、共和党が下院での多数派政党になる見通しの2023~2024年においても変化がないと考えられるのが、中国との競争激化を念頭に置いた政策が必要に応じて法制化されるとみられる点です。

金融市場が抱えるリスク―債務上限引き上げ問題には要注意

中間選挙の結果として高まる金融市場のリスクとしては、①連邦政府の債務上限の引き上げが難航するリスク、➁予算交渉が決裂して連邦政府が一時的に閉鎖されるリスク―が注目されます。

新しい議会の下で変わること

11月8日に実施された米国中間選挙は、上下両院とも多数派のポジションを巡る接戦となりました。米ネットワーク局の一つであるNBCテレビは、本稿執筆時点(日本時間で11月10日午前11時30分現在)において、共和党の下院での獲得議席が過半数の218議席を上回る222議席に達し、共和党が多数派政党の地位を民主党から奪還するとの見通しを報道しています。現時点では、上院では議席が完全には決まっておらず、民主党と共和党のどちらが多数派になるかはまだ定まってはいませんが、2023~2024年の2年間にわたり、民主党の大統領府に対して、共和党が議会の少なくとも一院で多数派になるという、「ねじれ政治」の状況に転じる可能性が高いと言えます。今回の選挙結果についての社会的・軍事的な影響については各種報道等に譲ることにして、以下では、「ねじれ政治」になることを前提にして、中間選挙結果が経済・金融市場にもたらすインパクトについて考察したいと思います

まず、2023年初からの新議会(第118回連邦議会)において変化が生じるポイントとして、①積極的な財政政策が期待しにくくなる点、➁巨大テック企業に対する規制を含め、主要産業への規制強化策が実施される可能性がほとんどなくなる点—を挙げたいと思います。前者(①)については、2021~2022年にかけてのバイデン政権前半においては、コロナ禍での国民への給付金プログラムを始め、気候変動対策を含む「インフレ削減法」などバイデン政権が成立を目指した多くの経済プログラムが法制化されました。これらの成果は、政権与党である民主党が上下両院で過半数の議席を有する政党であったからこそ達成できたと言えます。下院が共和党多数に転じる来年初めからの議会では、バイデン大統領が推進する国内経済関連の法案が成立する可能性は非常に低いと考えられます。米国経済は、現在、高インフレとFRB(米連邦準備理事会)による金融引き締め政策による減速過程にあり、2023年に景気後退に陥る可能性が高まっていますが、仮に景気がある程度落ち込んだとしても、2024年11月の大統領・議会選挙を有利に戦いたい共和党は、景気対策法案に消極的に対応することが予想されます。これにより、2023~24年は、既に成立した法律にのっとった支出以外の支出が大きく増額されず、積極的な財政政策が期待しにくい展開が予想されます。

財政支出が抑制される点は株式市場にとってはプラスとは言えませんが、債券市場では長期金利の上昇を抑える材料となることから、グロース株にはプラスに作用すると考えられます。なお、共和党は国防関連の予算措置に対して民主党よりも積極的であることから、議会における今後の予算関連法案審議においては、これまでよりも国防支出の増額に重点が置かれる公算が大きいと見込まれます。このため、株式市場では防衛関連企業への注目が増すと見込まれます。

後者(➁)については、バイデン政権発足(2021年初)以降、民主党のなかでもリベラル的な考え方を有する急進派が巨大テック企業への規制強化を訴えてきたにもかかわらず、実際に規制を強化する法案が成立することはありませんでした。共和党が下院を制する状況では、巨大テック企業への規制強化法案が成立する可能性は大きく低下すると考えられ、これは関連企業の株価にはプラスに寄与することになります。ただし、現在の議会では、ITプラットフォーム企業が競合他社よりも自社のビジネスを有利にすることを防ぐための条項等を含む「米国イノベーション・選択オンライン法案(American Innovation and Choice Online Bill:AICO)」が審議されています。バイデン政権は中間選挙後、新議会が成立するまでの間(選挙によって新しい議員が決まったにも関わらず現職議員がやり残した仕事をする期間ということで「レームダック・セッション」と呼ばれます)にこのAICO法案を成立させたい意向があるとみられる(ブルームバーグの報道による)ことから、今後しばらくの間は注意が必要です

新しい議会の下でも変わらないこと

一方、共和党が下院での多数派政党になる見通しの2023~2024年においても変化がないと考えられるのが、中国との競争激化を念頭に置いた政策が必要に応じて法制化されるとみられる点です。中国が米国の最大の競争相手であるという認識は議会の党派を問わず共有されており、競争力や軍事力の強化を推進する政策については議会での超党派の対応が進むと見込まれます。米国では、2022年8月9日に半導体・科学技術分野等に幅広く多額の補助金を投じる法案(CHIPS and Science Act of 2022;このCHIPSは、Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors⦅半導体を製造する助けになるインセンティブを創る⦆の略語です)が成立しましたが、これは民主党議員だけではなく、共和党議員の多くの支持を集めて法制化されました。

なお、議会に直接関連したポイントではありませんが、バイデン政権がFRBの金融引き締め政策に反対せずに見守る姿勢には、来年に入っても変わりがないと見込まれます。今回の中間選挙では高インフレの問題がバイデン政権および民主党に対して強い逆風として作用しました。バイデン政権は高インフレ問題が2024年11月に実施される大統領・議会選挙において再び民主党批判の材料になることを回避したいはずです。バイデン政権は、こうした観点から、短期的な景気悪化のリスクをちゅうちょせずに金融引き締めを続けるFRBの現行金融政策をサポートしていくと考えられます。

金融市場が抱えるリスク―債務上限引き上げ問題には要注意

最後に、来年初めからの新しい議会での下でのリスクについて触れたいと思います。金融市場で重要なリスクとしては、①連邦政府の債務上限の引き上げが難航するリスク、➁予算交渉が決裂して連邦政府が一時的に閉鎖されるリスク―があります。このうち、➁よりも①がはるかに重要です。連邦政府の債務上限は、2021年12月に成立した法律によって2.5兆ドル引き上げられて31.381兆ドルと定められました。新たな債務上限の引き上げ措置なしに米国国債がデフォルトせずに済む期限については、米国財務省・議会予算局ともに公表していません。しかし、ワシントンDCを本拠とするシンクタンクである超党派政策センターは、早ければ2023年7-9月期にその期限が到来すると判断しています。このため、議会は2023年7月までには債務上限を引き上げる法案を通過させる必要が出てくるとみられますが、ねじれ政治の下で、両党の対立が先鋭化しやすいことを踏まえると、債務上限引き上げ法案を巡る与野党交渉が難航する可能性を意識しておく必要があるでしょう。新しい議会では下院議長に共和党のケビン・マッカーシー議員が就任すると見込まれますが、党派対立が深まる中でマッカーシー氏が指導力を発揮して債務上限引き上げ法案を通過させることができるかどうかが注目されます。バイデン政権・民主党からは、こうしたリスクをふまえて、新議会が発足するまでのレームダック・セッション中に債務上限引き上げ法案を可決させようとする動きも出てきており、年内はこうした動きにも注目したいと思います。

➁の連邦政府閉鎖リスクについては、ねじれ政治の下では予算交渉が簡単にまとまりにくいことから注意が必要です。ただし、たとえ連邦政府が数日間閉鎖されてしまったとしても、景気に大きな悪影響が及ぶことはなく、閉鎖が長引くような事態は回避できると考えられます。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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