ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティ(持続可能性)をうたう投資信託が増える中、上辺だけの環境対策「グリーンウォッシュ(Green Wash)」を取り締まる動きが世界で加速しています。これは、投資環境にどのような影響を与えるのでしょうか。
大手銀行にも捜査の手
GSIA(世界持続的投資連合)のデータによると、2020年の世界のESG投資総額は2018年比で15%増加し、35兆3,000億ドル(約4,730兆億円)に達しました。全運用資産に占める比率は、2.5%増の35.9%でした。
ESG投資が目覚ましい成長を遂げる中、実績が伴わない、あるいはESGの理念に反するグリーンウォッシュが問題視されています。
グリーンウォッシュは「環境(Green)に優しい」と「上辺を取り繕う(White Wash)」を組み合わせた造語で、近年は企業イメージの向上や商品・サービスを販売するための戦略として、ビジネスから投資まで広範囲に利用されています。
最近では、2022年5月にドイツ銀行とその資産運用部門であるDWSグループのフランクフルト拠点がグリーンウォッシュに関与していた疑いで、同国の検察および金融当局の捜索を受けました。また、米証券取引委員会(SEC)は米大手銀行、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY)の運用子会社に対し、「情報開示書類で投資家の誤解を招くような不正確な記述があった」とし、150万ドル(約2億円)の制裁金を科しました。
欧米、日本の規制動向
このような潮流は、ESG投資の信頼性や透明性を著しく損なうリスクがあります。欧米の規制当局は、市場のサステナブルな成長を維持する目的で、規制強化に乗り出しています。
欧州
世界に先駆けて規制に乗り出した英国では、2022年4月に「企業(戦略報告書)(気候関連財務情報開示)規則」と「パートナーシップ(気候関連の財務開示)規則」が施行されました。
これにより、英国内の上場企業と年間売上高が5億ポンド(約815億円)を超える従業員500人以上のLLP(有限責任事業組合)などにガバナンスや戦略やリスク管理、指標、目標の評価・開が義務付けられます。
一方でEU(欧州連合)では2023年1月以降、資産運用会社に義務付けられている投資先企業のESG情報開示「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」が強化されます。
米国
米証券取引委員会(SEC)は5月、ESGファンド(投資信託)に対してより明確かつ厳格な開示基準を設けると同時に、投資信託名称規制の見直しを図る規制案を発表しました。
例えば、環境要因の考慮に焦点を当てたファンドは、ポートフォリオに組み込んだ投資先企業の温室効果ガス排出量を開示する義務が生じます。ファンドの名称にESGを用いる場合は、運用資産に対してESG分野への投資が占める割合が80%以上でなければなりません。
日本
2020年4月、日本の金融庁も「ESG関連公募投資信託を巡る状況』に関する報告書を発表しました。
現時点では欧米のように具体的な対策は打ち出していませんが、「ESG要素を考慮している」といった記載を行っているファンドに対して「運用プロセス・アプローチの一層の強化を継続的に図るとともに、顧客が投資判断を適切に行えるよう、運用プロセスの実態に即して一貫性のある形で、明確な説明や開示を行うべき」との方針を示しています。
欧米にならい、今後明確な基準が設けられる可能性があります。
投資への影響は?
投資への影響に関しては、プラス面とマイナス面がそれぞれ指摘されています。
プラス面は、不透明なESG関連の金融商品が一掃されることで市場の透明性が向上し、投資家に長期的な利益をもたらすことが期待されることです。
マイナス面は、ESGへの投資規模が大幅に縮小する可能性があることです。
米国株式の低迷や不景気懸念の高まりを背景に、多くの投資家の最優先課題はESGへの配慮からポートフォリオの保護へと移行しつつあります。
カナダロイヤル銀行のウェルスマネージメント部門が、米国を拠点とする 900 を超える顧客を対象に実施した調査では、49%(前年比7%増)が「 ESG への影響よりもパフォーマンスとリターンを優先する」と回答しました。
米国で加速するESGファンド離れ
このような兆候は、特に米国市場で顕著に見られます。
ブルームバーグ・インテリジェンスのデータによると、2022年5月には 米ESG 株式ファンドへの月間資金流入がマイナスに転じ、20 億ドル(約2,680億円)が流出しました。対照的に、化石燃料株はロシアのウクライナ侵攻を背景に上昇し、S&P 500エネルギー指数は2022年上半期に59%上昇しました。
「ESG」をうたうだけで資金が流入する時代が終わろうとしている中、需要の小さいESGファンドの廃止が増えています。規制強化がこの状況に拍車をかけるのは、ほぼ間違いないでしょう。
「社会に真の価値を創出するESG投資」へ
規制によって、ESG投資の成長が頭打ちになるということではありません。今後は、優れたパフォーマンスを発揮する企業が生き残るでしょう。中長期的な視点では、ESG投資にとってはポジティブな流れとなるといえます。
Wealth Roadでは引き続き、大いなる成長の可能性を秘めた領域として、ESG投資の動向に注視していきます。
※為替レート:1ドル=134円、1ポンド=163円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式などの売買及び投資を推奨するものではありません。