※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。
FRBはカナダ中銀に続くか?
日銀は利上げの準備ができたようだ
イングランド銀行も利下げを実施するか?
決算シーズン:企業は消費の低迷とAI関連支出に言及
カナダ中銀(BOC)は先週、再び利下げを実施しました。カナダと米国が、過去の利上げ及び現在の経済状況の面で似通っていることを踏まえると、これは今後米国で起きることの予兆となり得るでしょうか?本レポートでは、今週開催予定の日銀及びBOEの会合に関する私の見解についてもご紹介したいと思います。
先週BOCは、6月上旬に実施された最初の利下げに続いて、追加の利下げを決定しました。BOCとFRBには似ている面も多いことから、これを受けてFRBがいつ利下げを開始するかが問われます。
FRBと同様、BOCは2022年3月から2023年7月までの間、急速な利上げを実施しました。この間10回の利上げが行われ、政策金利が0.25%から5%まで引き上げられる非常に積極的な引き締めサイクルとなりました1 。FRBと同様、BOCは―2024年6月会合まで―ほぼ1年にわたり、政策金利をこの5%の水準で据え置いていました。FRBが同じように15ヶ月余りの間に5%の政策金利の引き上げを実施し、それ以降この水準で据え置いているため、FRBが今後間もなくBOCに追随する動きを見せるかが注目されます2 。
これらの中央銀行間の類似点に加え、カナダと米国の経済そのものにも重要な類似点があります。
まずインフレ率から見ていきましょう。BOCのティフ・マックレム総裁は先週、インフレ率の目標値への回帰は「視野に入っている」と説明しました。同総裁は、ディスインフレについて大きな進展があったことは認めつつも、その道筋は一様ではないとの認識を示しました。BOCは自身が「選好する」コアインフレ指標をいくつか用いていますが、それらはいずれも今年上半期に大きく低下しました。例えば、コアインフレ率の前年同月比上昇率の中央値は、3.1%から上半期に2.6%に低下しました3。コア個人消費支出(PCE)価格指数で測られる米国のコアインフレ率の前年同月比上昇率も大幅に低下しており、上半期に2.9%から2.6%に低下しました4。米国においても、平たんではないディスインフレの道のりが続いていますが、重要なのは大きな進展が見られたということです。
米国のインフレと同様、カナダのインフレにも、住居費インフレの上昇など一定の粘着性があります。しかしそれがBOCの利下げを妨げることはなかったように、FRBにとってもこれが利下げの妨げにはならないだろうと私は考えています。BOCの政策担当者は、高金利が住居費の高インフレの一因となっており、全体的なインフレが下降傾向にある限りはインフレの粘着性は許容し得ると認識しており、だからこそ利下げを行っても大丈夫だと考えたのではないでしょうか。米国でも同様に、住居費インフレがFRBの利下げ実施を妨げる大きな要因でした。しかし、アドリアナ・クーグラー理事を始めとするFRB理事らは、住居費の高インフレは非常に遅行的な指標と認識しており、近い将来大幅な低下が予想されると述べました。
人件費も粘着的となっています。カナダでは、前年同月比の賃金上昇率が5月の5.2%から6月は5.6%に上昇しました5。しかし、それがBOCによる利下げを阻むことはありませんでした。全体的なインフレが低下傾向にあり、賃金上昇が公共セクターに牽引されていることから、BOCは安心して2回の利下げを実施し、今後の更なる利下げも示唆していると考えられます。米国では、前年同月比の賃金上昇率はまだ高い水準にはあるものの、5月の4.1%から6月は3.9%に低下しました6 。
カナダでは、今年前半に失業率が5.7%から6.4%へ大幅に上昇しました7。米国の失業率はカナダよりかなり低いものの、今年前半に3.7%から4.1%へ上昇しました8。両国とも経済の落ち込みの兆しが見られつつあります。ティフ・マックレム総裁は、「私たちが本当に伝えたいのは、リスク・バランスが変化しつつあるということだ。」と巧みに表現しました9。FRBもまた、同様ではないでしょうか。
実際、ウィリアム・ダドリー前ニューヨーク連銀総裁は、これまで政策金利を「より長期に、より高く」すべきとの考え方でしたが、最近、米国の失業率上昇と個人消費の低迷への懸念から、大幅な方向転換を見せました。同氏は先週のとある記事で、「実際の状況が変化したので、考え方を変えた。FRBはできれば来週の政策決定会合で利下げを行うべきだ」と述べ、今週会合での利下げ実施を主張しました10。
FRBが今週の会合で利下げを実施する可能性は低いと私は見ていますが、わずかながらその可能性は高まっています。私も現時点での利下げが正しい選択だと考えています。米国の金融政策は、ディスインフレの進展や米国経済の置かれた状況に対して、あまりに抑制的過ぎると考えられるためです。フェデラル・ファンド(FF)金利は、コア個人消費支出(PCE)に対するスプレッドが2007年以降で最も大きくなっています11。また、「シャドーFF金利」(他の金融政策手段を加味し、インフレの「実感」を提供するもの)は5.9%となっています12。現時点では、FRBはインフレの再燃よりも、金融政策が時間的な遅れを伴って実体経済に不安定な影響をもたらすことが、今後数カ月の間に米国経済に大きなマイナスの影響を与える可能性について、より心配すべきだと私は考えます。
日銀も今週会合を開く予定です。市場は利上げを予想し始めており、金利と物価の相乗効果が起こっていることからも、妥当な予想と言えます。私自身も、日銀が利上げを実施し、国債買い入れを縮小するだろうと予想しています。これは政策正常化の重要かつ―正当な―ステップと見られ、特にFRBが間もなく利下げを実施した場合は、相対的に日本円が強い状態が継続するでしょう。
イングランド銀行(BOE)も今週会合を予定していますが、他の主要中央銀行と同様、利下げを開始するだろうと私はみています。レイチェル・リーブス英財務相が7月29日に議会で発表した声明は、BOEによる利下げ決断の後押しとなるかもしれません。というのも、労働党新政権が前政権から引き継いだ深刻な財政課題のため、今後財政支出削減を行い、増税する可能性があると示唆されたためです。これは経済にとって実質的な逆風となる可能性があり、BOEが利下げを実施する理由の1つとなります。利下げは、英国株にとって前向きな材料となる可能性があります。
今週は多くの企業が決算発表を行う予定です。先週金曜日の時点で、S&P500種指数構成企業の41%が2024年4-6月期決算の発表を終えました。良いニュースは、これらの企業のうち78%について、利益が予想を上回ったことです。4-6月期の(未公表の企業の予想値と、既公表の企業の実績値を合わせて算出した)ブレンド利益成長率は現在9.8%で、これが実現すれば、過去8四半期以上で最高となります。しかし、S&P500種指数構成企業のうち売上高が予想を上回った企業は60%に過ぎず、過去5年の平均を下回りました13 。
先週判明した重要な事実の1つは、今決算シーズンで、消費低迷の兆候が示唆され続けていることです。例えば、ワールプールは通期の利益予想を下方修正しましたが、これは消費者が「疲弊して」おり、高額家電製品の購入を避けていることを示唆しています14 。
先週の決算報告から読み取れるもう1つの重要な点は、投資家が突然、企業の人工知能(AI)への大規模投資に焦りを覚え始めたことです。この種の投資が成果を上げるには時間がかかると見込まれるため、私はこれは近視眼的な見方だと考えています。アルファベットCEOのサンダー・ピチャイ氏の、「このようなカーブを通過するとき、過大投資であることが判明したシナリオにおいてさえも、私たちにとって過少投資のリスクは、過大投資のリスクよりもはるかに大きい」とのコメントには共感させられました15。彼はすぐに、同社のAIインフラが既に売上高を大きく牽引しており、テクノロジー・インフラは耐用年数が長く、効率性を向上させ、応用範囲が幅広くかつ進化しているため、過大投資は大きな懸念とはならないと指摘しました。
今週は、マイクロソフトやアップルなどの大型テクノロジー企業、メルクなどの大手製薬企業、マクドナルドやプロクター・アンド・ギャンブルなどのベルウェザー(先行指標)となる消費財企業など、多くの企業の決算発表が予定されています。いつも通り、私は業績そのものよりも、決算説明会から得られるガイダンスやニュアンスに注目しています。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
7月29日 | 日本失業率 | 労働市場の健全性を示す |
7月30日 | 米国ケースシラー住宅 価格指数 | 住宅市場の健全性を示す |
7月30日 | 米国消費者信頼感指数 | 消費者センチメントを示す |
7月30日 | 米国雇用動態調査 (JOLTS) | 求人、雇用、離職に関するデータを収集 |
7月30日 | 中国製造業・サービス業PMI | 製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
7月30日 | オーストラリアCPI | インフレの動向を示す |
7月30日 | 日銀金融政策決定会合 | 金利の道筋を発表 |
7月30日 | ユーロ圏国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
7月30日 | ユーロ圏消費者インフレ期待 | インフレの道筋に対する消費者期待を測定 |
7月30日 | ユーロ圏消費者信頼感指数 | ユーロ圏の消費者心理を追跡 |
7月30日 | 日本小売売上高 | 小売業の健全性を示す |
7月31日 | 日銀展望レポート | 経済活動と物価の動向に関する日銀の見通しを 示し、アップサイド、ダウンサイドのリスクを 評価しつつ、金融政策の今後の見通しを概説 |
7月31日 | ユーロ圏CPI(速報値) | インフレの道筋に関する兆候を示す |
7月31日 | ドイツ失業率 | 労働市場の健全性を示す |
7月31日 | ブラジル中央銀行金融政策 決定会合 | 金利の道筋を発表 |
7月31日 | FOMC政策決定会合 | 米国金利の道筋を発表 |
7月31日 | カナダ国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
7月31日 | ブラジル失業率 | 労働市場の健全性を示す |
7月31日 | 日本製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
7月31日 | 中国財新製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
8月1日 | インド製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
8月1日 | ユーロ圏失業率 | 労働市場の健全性を示す |
8月1日 | イングランド銀行金融政策委員会 | 金利の道筋を発表 |
8月1日 | 米国ISM製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
8月1日 | 英国製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
8月1日 | ユーロ圏製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
8月2日 | 米国雇用統計 | 労働市場の健全性を示す |
8月2日 | メキシコ失業率 | 労働市場の健全性を示す |
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2024-098