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日本銀行は、3月18-19日に開催された金融政策決定会合で2007年2月以来となる引き締め政策の実施に踏み切りました。これまで実施してきた緩和政策からの転換になったことで、日銀の政策フレームワークは以下の3つの点を軸に大きく修正されました。まず、短期の政策金利については、マイナス金利政策が解除されました。各種メディアによる事前報道によって今回の会合でのマイナス解除方針が広く報道されていたこともあり、ここにはサプライズはありませんでした。利上げ幅についは市場のコンセンサスがなく、注目されていましたが、日銀当座預金への付利金利を-0.1%とするこれまでの政策から、オーバーナイト物無担保コールレートを0~0.1%の範囲に促すという政策に変更されました。当座預金への付利金利が0.1%に設定されたことで、2016年1月におけるマイナス金利導入の直前の金利環境に戻ったことになります。
第2に、長期金利のコントロールを軸とするYCC(イールドカーブコントロール)政策が撤廃される一方、日銀による長期国債の買い入れ額をこれまでと同程度にするとの方針が示され、これまでの同様の緩和的な金融環境が維持されることになりました。長期金利が急激に上昇する場合には、これまで通り、「指値オペ」によって金利上昇が抑制されます。
第3に、株式ETFやJ-REITの新規購入が停止されました。これらの資産を買入れる措置は金融政策の一環として実施されてきたものですから、政策金利の引き上げに伴って新規購入を停止するのは当然であったと判断されます。
今後の日銀の政策についての注目点は、①今後の短期政策金利の経路、➁長期金利の上昇をどの水準まで容認するか、➂既に買い入れた株式ETF、J-REITの保有・売却方針—です。政策金利の先行き(①)については、2%の物価安定目標を掲げる日銀は、物価見通し次第で判断していくと考えるのが自然です。1月の展望レポートでは、2024年度、2025年度のコアコアCPI(生鮮食品とエネルギーを除くCPI)インフレ見通しとして、共に1.9%の見通しが示されました。今回日銀が示した「経済・物価の現状と見通し」は、1月の展望レポートから大きく修正されておらず、これを基に考えると、日銀はコアコアCPIの24~25年度の見通しとして前回同様の2%程度を想定しているとみられます。この見方が継続する限りは今後の追加的な利上げの必要は生じないことになります。私は今年末までは0.25%への追加利上げが実施される可能性は低いと予想しています。
一方、長期金利の水準(➁)については、今回の政策変更が市場で織り込まれたことで、いったん上昇した10年国債金利が0.724%に再び低下してきました(3月19日13時30分の執筆時点)。日銀としては、長期金利の急激な上昇が生じるような場合に、日本の景気に悪影響をもたらすことを依然として懸念しているとみられますが、「名目10年国債金利から市場での期待インフレ率(ブレイクイーブン・インフレ率)を差し引いた実質10年国債金利は足元で-0.5%程度であり、これが明確にマイナス圏にある限りは景気への大きな悪影響は及ばない」という見方に基づけば、日銀が指値オペを実施して長期金利を抑制する名目10年国債金利の水準として、1.2%程度が想定できるでしょう。もちろん、これは固定された水準ではなく、日本の期待インフレ率や米国の長期金利水準の今後の動きによって、指値オペが実施される長期金利水準が変化していくと見込まれます。金融市場は、日銀の実際の指値オペをみて日銀が許容する長期金利の上限を探っていくことになるでしょう。私は、2024年末時点での名目10年国債金利の水準として、従来からの0.8~1.2%のレンジを引き続き予想します。
他方、既に買い入れた株式ETF、J-REIT(➂)については、日銀としては市場への影響を避ける観点から、売却の検討を表明する可能性は当面極めて低いとみられます。
為替市場では、日銀の引き締め策への転換が事前に織り込まれていたこともあり、執筆時点(1月19日13時30分)のドル円為替レートが、1ドル=149.9円まで円安方向に動きました。一方、株式市場では、日経平均株価が、株価が大きく上昇した前日の終値付近を保っている状況です。金融引き締めそれ自体は借り入れコストの上昇を通じて多くの企業の業績に悪影響をもたらしかねませんが、①今後の日銀政策の引き締め策が限定的なものにとどまるとみられることや、➁今回の引き締め策が「物価と賃金の好循環」の実現確度が高まった結果として実施されたものであること―をふまえると、今回の政策変更による日本株への悪影響は限定的であり、好循環の実現による内需へのプラス効果を通じた日本の潜在成長率の底上げが視野に入れば、業績のさらなる改善を通じて株価がさらに上昇する可能性が高いと見込まれます。特に、外国人投資家は、日銀による今回の政策変更を日本経済の構造変化の証としてポジティブに評価する可能性があることを指摘したいと思います。
私は、日本株が4-6月期のどこかまでは米国やその他の株式市場を追う形で上昇を続け、その後の欧米株の2024年末までの横ばい圏入り後は、構造的な前向きの変化が評価される形で日本株のパフォーマンスが欧米株を若干上回る形で推移するという、これまでの見方を維持したいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2024-035