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目次
FRBが 「ドットプロット 」を修正
予想は必ずそうなるわけではない
イングランド銀行が利上げを一時停止するサプライズ
日銀は予想通り据え置き
中国人民銀行は政策的緩和を継続する可能性が高い
政策の不確実性は依然として問題
私は先週火曜日に、ヒューストンで金融関係者の前でプレゼンを行いました。私自身は楽しみましたが、聴衆にも楽しんでもらえたかどうかは分かりません。というのも、中央銀行についてかなり時間を割いて話したからです。少々申し訳ない気もしましたが、仕方ありませんでした。金融政策が市場に過大な影響を与え続けている以上、私自身は、中央銀行についてしっかり触れる必要があると考えているからです。
先週水曜日、米連邦準備制度理事会(FRB)による「利上げのタカ派的一時停止」に市場が大きく反応したことで、私が中央銀行の動向に多少なりともこだわってきたのが正しかったことが証明されました。特に、市場では金利が「より長期に、より高くなる」シナリオにのっとり、資産価格が見直されることになりました。
市場がこのような結論に達したのは、四半期ごとに発表される経済予測サマリー(SEP)、別名「ドットプロット」の内容が主な理由です。2023年6月のドットプロットでは、2024年末のFF金利は4.6%と予想され、4回の利下げが示唆されていましたが、2023年9月のドットプロットではそれが5.1%に引き上げられ、2024年中に示唆される利下げは2回のみとなりました1。これは大きな変化です。
9月のドットプロットでは、他にもいくつか、6月のドットプロットからの注目すべき修正点がありました1 :
FRBの来年の利下げ予想が変更されたことに対し、市場はかなり直感的に反応しました。株価は世界的に下落し、2年物、10年物の米国債利回りは本サイクルでの最高値を更新し、過去15年以上見られなかった水準に達しました2。
ドットプロットについては、多少割り引いて考えずにはいられません。ドットプロットは、米連邦公開市場委員会(FOMC)各メンバーの政策予想を示したものに過ぎないことに注意せねばなりません。ドットプロットは透明性を向上させ、市場予想をより的確に導くために、2012年(先週ようやく最高水準を更新した2年物、10年物の米国債利回りが、前回最高を更新したタイミングの数年後)に導入されたばかりです。金融政策の決定前にFRBから発せられる情報のほとんどが、グリーンスパン元FRB議長のブリーフケースのサイズであったのは、それほど昔のことではありません。しかし、善意で生み出された多くのものがそうであるように、ドットプロットにも多くの欠点があります。FRBメンバーの推測によるところが非常に大きいのです(パウエルFRB議長の言葉を借りれば、彼らは「曇り空の下、星を頼りに航海している」ようなものです3)。そして予測は、特により先の未来になるほど、信頼性が非常に低くなり得ます。
例えば2021年12月のドットプロットでは、2022年12月までにFF金利の中央値が0.9%になると予想されていました。実際には2022年12月までにFF金利は4.25%-4.5%となり、わずか1年前のFRBの予想よりも3.5%近く高い値となりました。私は2021年12月のFF金利のドットプロットをオフィスの壁に貼り、SEPに懐疑的(skeptical)(もっとも「SEPtical」の方がふさわしいかもしれませんが)であることを忘れないようにしています。
認識しておくべき最も重要なことは、最終的にFF金利の道筋はデータによって決まるということです。FRBはデータがどうなるか分からないため、いつどれだけ利下げを行うかは未定のままです。言い換えればSEPは未来を映す水晶玉ではないので、SEPを受けた、今回見られたような市場の反応は正当化されないと私は考えています。
先週は、他にも中央銀行による重要な決定がありました。やや意外な展開として、イングランド銀行(BOE)は、14回連続で実施してきた利上げの一時停止を選択しました。
予想を下回るインフレデータを受けて、現行の政策金利水準を維持するとの方向に傾いたようです。8月の英国の消費者物価指数(CPI)は前月比では0.3%の上昇(予想では同0.7%の上昇)、前年同月比では6.7%の上昇と、7月の同6.8%上昇から低下しました。コアCPIも前年同月比6.19%上昇と、7月の同6.83%上昇から大幅に低下しました4 。
前月比ベースでのヘッドラインインフレ率の急低下と、コアインフレ率(4月に発表された前年同月比7.14%上昇がピークだった模様4)の継続的な低下は、BOEによるディスインフレへの取り組みがようやく功を奏し始めたことを示唆しています。
BOE会合の議事要旨では、利上げの一時停止の追加的な理由として、労働市場の緩和と経済活動の弱含みを挙げています。例えば議事要旨には、BOEの金融政策委員会(MPC)が、「2023年後半の基調的な成長は…予想よりも弱含む可能性が高い」と考えているとの記載があります。MPCが量的引き締めについては一時停止していないことも、留意すべき重要な点です。実際、MPCは英国債の保有残高削減による量的引き締めのペースを、今後1年間で年800億ポンドから、資産全体の10%程度に相当する年1000億ポンドに引き上げることを全会一致で決定しました。
日本銀行(BOJ)は先週の金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策を据え置きました。声明では、日銀の経済とインフレに対する見方が変わっていないことが示されました。記者会見で植田総裁は、経済及び金融市場、そして企業の価格決定行動に関する不確実性が高いことから、日銀が2%の持続的なインフレを期待できる段階にはまだ達していない、と示唆し、ハト派的なトーンの印象を与えました。
植田総裁は、金融引き締めのタイミングや順序については、成長率とインフレ両方の今後の動向次第であるとして、手がかりを示しませんでした。植田総裁は、日銀はインフレ見通しを策定する上で、生産ギャップ、インフレ期待、賃金の伸びの状況を注意深く精査していくと述べましたが、日本が持続的な2%のインフレへの道のりを歩んでいるかを判断する上では、賃金の伸びが最も重要な判断材料だと示唆しました。日銀は極めて緩和的なスタンスを維持しています。
そして中国人民銀行(PBOC)です。PBOCは引き続き金融緩和を継続する可能性が高いでしょうが、それは的を絞った財政政策ほどの存在感は与えないでしょう。人民元は主に金利差によるプレッシャーを受けています。FRBやその他の中央銀行が引き締めを行っているのに対し、PBOCは金融政策の緩和を進めてきました。また市場は、中国の成長見通しについて過度に弱気なっており、通貨安が必要だと確信しています。
今後については、私は短期的にはボラティリティが高まると予想しています。ボラティリティは多くの場合、政策の不確実性の結果ですが、先週よりも今日の方が、政策の不確実性は更に高まっています。
というのも6月を振り返ると、2024年末のFF金利の市場予想は、6月のFOMCドットプロットを大きく下回っていたからです。しかしこの市場予想は数ヵ月に変化し、9月のドットプロットの発表よりも早く6月のドットプロットの水準に達しました。こうした経験から、いかなる経済データも予想を上回れば、2024年のFF金利の更なる上昇(それだけでなくより長期の、更なる上昇)に対する市場の懸念を増幅させる可能性があり、私は、短期的に市場はかなり不安定な状態が続くと予想しています。過去の引き締めサイクルでもそうであったように、米10年債利回りがFF金利と同程度に上昇する恐れがあることから、この懸念は増幅されます。私は、実際にインフレが低下し、米国の経済成長が鈍化しない限り、この懸念が和らぐことはないのではないかと考えています。
金融政策の不確実性だけではありません。迫り来る米政府機関の閉鎖、全米自動車労組のストライキ、学生ローンの返済免除措置の終了等の全てが不確実性を上昇させており、非常に短期にボラティリティを拡大させる可能性があります(ただし私自身は、それが市場に大きな影響を与えるとは考えていませんが)。また私は、米国の金利が実際に「より長期に、より高く」なれば、FRBによる引き締め過剰を引き起こすリスクが高まり、米国経済を景気後退に陥らせかねないことから、より市場に動揺が走ると予想しています。金利上昇は通常、株価、特にテクノロジー等のセクターへの下落圧力となります。ここ数週間で私たちは、それを味わいました。
FRBの直近のドットプロットは、より良い経済データを受けての反応ではありますが、金融政策のラグ効果により、皮肉にもそれが、不要なダメージを与えかねない状況となっています。これまでにも増して今は、ドットプロットへの過剰反応は避け、1つひとつのデータを注意深く追っていきたいところです。そして私たちが待機し見守る間にも、少なくとも投資家は、世界中の多くの国々において、これまで何年も見られなかったような債券の高利回りを享受することができます。
(執筆協力:ポール・ジャクソン、アーナブ・ダス、木下智夫、アダム・バートン)
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2023-153