世界経済について4月にわかった9つのこと

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〔要旨〕

  • 銀行危機:銀行セクターのミニ危機は沈静化しており、システミックというよりは個別の危機だったように思われる
  • インフレ率:英国や日本など世界の多くの地域で、依然インフレ率の上昇が懸念となっているが、カナダの経験は米国に希望をもたらす
  • 決算シーズン:決算シーズンの初期に公表を行った企業の中にはいくつか好業績のサプライズもあったが、見誤るなかれ、2023年4-6月期は収益の低下が見込まれる

1. 大規模な銀行危機は回避されたように見える

2. 与信条件の厳格化

3. 米国経済に関するシグナルは入り乱れている

4. ユーロ圏経済は引き続き底堅い

5. 世界の多くの地域でインフレ率の上昇が引き続き懸念される

6. インフレ率の上昇が懸念となっていない国もある

7. 再開により中国経済は活性化

8. これまでのところ決算シーズンは比較的良好

9. 乖離が加速している

結論

あっという間に4月が過ぎ去ろうとしています。今月は、アグレッシブな金融政策やインフレとの戦いを受けて世界経済の状況がどうなっているか、その手がかりを与える様々なデータ発表が目白押しとなりました。以下では、投資家に関係する、今月得られた9つの学びについて記したいと思います。

1. 大規模な銀行危機は回避されたように見える

銀行セクターのミニ危機は沈静化しており、システミックというよりは個別の危機だったようです。VIX指数は混乱のピークだった3月26日に26を超えましたが、その後大幅に落ち着き、先週は17を下回りました1。しかし今期の決算発表を見る限り、まだどうなるかはわかりません。これまでのところ、銀行は10%を大きく上回る収入の伸びを発表した、または発表する見込みのところが多くなっていますが2、その内容はさまざまです:

  • 大手のマネーセンターバンクについては、銀行全般が受けたと同様の逆風(景気減速を見越した貸倒引当金の増加、預金金利の引き上げの必要性など)を受けつつも、全体的にはるかに良い業績となりました。
  • 地方銀行の状況はよりまちまちで、預金量の減少が続き、明らかにストレス下にある銀行もあれば、最近預金量が増加していると発表した銀行もありました。KBW地方銀行指数は3月上旬に大幅に低下し、それ以降も低いレンジで取引されており、少なくとも一部の地方銀行については悲観的な見方が続いていることを示唆しています。重要なのは、大規模な危機が回避されたように見えるということです。

ある金融機関のCEOは、2023年1-3月期を「現実のストレステスト」と表現し、政策当局が迅速かつ効果的に行動すれば、銀行セクターは回復力を持つことを示しました3

2. 与信条件の厳格化

銀行危機がもたらした最も重大な結果は、与信条件の厳格化です。米連邦準備制度理事会(FRB)が公表した最新の地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、全般的に経済活動は堅調に推移しているものの、多くの地区で与信条件の厳格化が起こったとのことです。例えば、ダラス連銀は「融資需要がさらに弱まり、融資量が減少し、与信条件が厳格化された」と報告し、サンフランシスコ連銀は「融資基準が顕著に厳格化され、いくつかの預金取扱機関は、潤沢な流動性を報告したにもかかわらず、特に新規顧客向けの融資量を減らすことを選択した」と指摘しました4

さらに最新の米銀行協会の信用条件指数によると、銀行エコノミストは、今後6カ月間、信用市場の状況が著しく悪化し、与信基準がより厳格化すると予想しています5

3. 米国経済に関するシグナルは入り乱れている

米国経済については、問題を抱えていることを示唆するシグナルもあれば、非常に回復力があり、反発さえしていると示唆するシグナルもあります。フィラデルフィア連銀製造業景気指数は2020年5月以来の低水準となった一方、ニューヨーク連銀製造業景気指数(エンパイア・ステイト景況指数)は5カ月ぶりのプラス圏(活動拡大)を示しました6。また、S&Pグローバル購買担当者景気指数(PMI)の速報値は、サービス業PMIが12カ月ぶり、製造業PMIでさえ6カ月ぶりの高水準と、印象的な数値となりました7。大半のデータは、米国経済が、金融引き締めのラグ効果に対する脆弱性を持ちつつも、依然として回復力を持つことを示唆しています。

4. ユーロ圏経済は引き続き底堅い

ユーロ圏の経済指標は引き続き良好で、予想をはるかに上回る回復力を示しています。ユーロ圏のS&P総合PMI速報値は54.4で、11カ月ぶりの高水準となりました8。これは、12カ月ぶりの高水準となったサービス業が牽引したもので、製造業には引き続き弱さがみられます。

5. 世界の多くの地域でインフレ率の上昇が引き続き懸念される

S&PグローバルPMI調査に見られるように、ユーロ圏経済のサービス部門価格は根強く高止まりしています。3月の英国の消費者物価指数上昇率は前年同月比10.1%と予想を上回りました9。これは、さらに驚きだった2月の10.4%から低下したものの10 、インフレがより強固に根付いてしまった可能性への懸念を抱かせ、政策当局にとっては好ましくない数字でした。

3月の日本のインフレ上昇率は前年同月比3.2%で、2月から小幅な低下となりました11。しかし、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は3.8%となり、2月の3.5%から大幅な上昇となりました11。これは、金融政策の変更に向けての日銀新総裁への圧力を増すことになるかもしれません。

6. インフレ率の上昇が懸念となっていない国もある

カナダの生産者物価指数(PPI)上昇率は、2022年3月にピークを迎えた後、今年3月に年率換算で実際マイナスに転じました。PPIの大幅な低下は、ディスインフレのペースが市場で過小評価されている可能性を示唆しています。またこのデータは、カナダ銀行が、1月に政策金利引き上げの一時停止ボタンを押した後のものだということを忘れてはいけません。これは、非常にリアルな政策効果のラグを想起させます。このサイクルでは、カナダのインフレ率の動きが米国のインフレ率の動きを先導する形となっており、米国がカナダの動向に追随する日もそう遠くはないかもしれません。

7. 再開により中国経済は活性化

経済活動が再開し、展開が続く中国の経済活動については、概ね良いニュースが続いています。2023年1-3月期の中国経済の成長率は4.5%で、予想の4%を上回り、2022年10-12月期の2.9%を大きく上回りました12。さらに心強いことに、中国の3月の小売売上高は10.6%増加し、1-2月の3.5%を上回りました13。「リベンジ生活」の現象が起きていることは明らかです。エアバスのCEOは、「中国経済の再開は、徐々に回復しつつある航空輸送量拡大の強力な牽引力になっているほか、あらゆる地域が通常水準あるいは新型コロナウイルス禍前を超える水準に向かっていくだろう」と勢いよく語りました14

鉱工業生産と固定資産投資についてはややがっかりする部分もありましたが、それも景況感の改善につれ上向いていくでしょう。都市部の失業率は好ましい方向に向かっており、再開が進むにつれて若者の失業率もこれに続くと予想されます。またニューヨーク連銀のグローバル・サプライチェーン圧力指数によると、世界のサプライチェーン圧力は現在、パンデミック前の水準まで戻っており、私は中国経済の再開がこの改善に寄与したと考えています。

8. これまでのところ決算シーズンは比較的良好

これまでのところ、S&P500種指数を構成する企業のうち、18%が2023年1-3月期決算を発表しました15。そのうち76%の企業が収益について前向きなサプライズを伝えました15。好業績を牽引したのは、ヘルスケア、一般消費財、金融のセクターでした。しかし見誤ってはいけないのは、これらは業績予想が下方修正される中での「良好な結果」だったという点です。2023年4-6月期は収益低下が予想されていますが、昨年に株価が下落したのはそれを見越してのことだったように思われますし、仕方ないでしょう。そして収益低下により株価に下落圧力がかかっても、金利の低下が、マルチプルの拡大に寄与する対抗力となるはずだと私は考えています。

9. 乖離が加速している

株式のボラティリティが低下する一方で、債券のボラティリティは上昇しています。この乖離は2022年半ばに始まりましたが、最近になって加速しています。その原因は、FRBの今後の道筋が不透明であることにあるかもしれません。私は、米国が解決策を講じないまま債務上限への到達に近づけば、株式のインプライド・ボラティリティは上昇すると予想しています。

結論

全体として4月の世界経済は、多くの地域で依然としてインフレとの闘いが続いています。しかし(少なくとも米国では)、ここからインフレが急速に低下する可能性があるという希望もあります。アグレッシブな金融政策にもかかわらず、世界経済がよく持ちこたえている兆候が見られ、これを中国経済の再開が後押ししているのは確かです。私たちは、引き締めがこれらの経済にどのような影響を与え、中央銀行が今後どのような行動を取るか、また債務上限問題がどの程度早く解決されるかを見守っていくことになります。

(執筆協力:ポール・ジャクソン、アンドラス・ヴィグ)

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

1.出所:ブルームバーグ、2023年4月21日
2.出所:ファクトセット業績見通し、2023年4月21日
3.出所:エコノミック・タイムズ、2023年4月18日
4.出所:地区連銀経済報告、2023年4月19日
5.出所:米銀行協会、“ABA Report: Bank Economists Expect Slowing Economic Growth to Tighten Credit Conditions”、 2023年4月6日
6.出所:フィラデルフィア連銀、2023年4月、ニューヨーク連銀、2023年4月
7.出所:S&Pグローバル、2023年4月21日
8.出所:S&Pグローバル、2023年4月21日
9.出所:英国国家統計局、2023年4月19日
10.出所:英国国家統計局、2023年3月22日
11.出所:総務省、2023年4月20日
12.出所:中国国家統計局、2023年4月17日
13.出所:中国国家統計局、2023年4月22日
14.出所:ファイナンシャル・ポスト、“Airbus CEO says air traffic heading back to normal post-pandemic”、
2023年4月19日
15.出所:ファクトセット業績見通し、2023年4月20日

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