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過去1週間のうちにグローバル金融市場環境は大きく変化してきました。米国景気の改善がより明確になってきたことで、米国のインフレが金融市場が想定するほど早く落ち着いてこないという見方が広がり、FRB(米連邦準備理事会)が政策金利をこれまでの想定よりも高い水準で長い期間にわたって維持するとの考え方が台頭してきました。
今後、重要となるのが、インフレの高止まりが、将来の景気に対する下方リスクを強めかねない点です。なぜなら、これまで米国の景気を支える重要な柱であった超過貯蓄が2023年末までに枯渇する可能性が高いためです。
インフレが今後しっかりと落ち着いていくというのが引き続き私が展望するメインシナリオですが、金融市場におけるFRBのタカ派化懸念が強まっている現状では、FRB高官の発言や雇用統計、インフレ関連指標の動きに引き続き注目していきたいとい思います。
過去1週間のうちにグローバル金融市場環境は大きく変化してきました。米国景気の改善がより明確になってきたことで、米国のインフレが金融市場が想定するほど早く落ち着いてこないという観点から、FRB(米連邦準備理事会)が政策金利をこれまでの想定よりも高い水準で長い期間にわたって維持するとの見方が台頭してきました。具体的には、米国の景気については、2月3日に1月分の雇用統計が公表されて以降、改善の動きが継続する一方、FRBが重視するインフレ指標であるコアPCE(個人消費支出)デフレーターの前月比上昇率が、2022年12月について従来公表されていた0.3%から0.4%に上方修正され、1月分も0.6%に上振れたことで、金融市場におけるFRBタカ派化懸念が高まりました。
これに対して、金融先物市場が織り込むFRBの今年の利上げ幅は2月末時点で0.95%まで上昇してきました(図表1)。1月分の雇用統計の公表直前(2月2日)段階での織り込みは0.07%に過ぎなかったことを踏まえると、これは大きな変化です。FRBのタカ派化が織り込まれることで、米10年国債金利も2月2日の3.39%から2月末には3.92%へと上昇しました(図表2)。
この変化を先週号でご紹介したグローバル市場を捉える図式(「グローバル市場動向の図式化を試みる」、グローバル・ビュー2023年2月22日号)で考えると、景気とFRB政策に対する期待の組み合わせが、図表3のE点からF点へと移行したと考えることができます。先週の初めまでは米長期金利が上昇基調となるなかでも、S&P500種指数でみた米国の株価がなんとか上昇基調を保っていました。しかし、景気の改善が想定以上のインフレにつながり、それがFRB政策のタカ派化が回避できないとの見方につながったことで、株価は明確に下落基調に転じました(F点)。つまり、景気の改善期待による株価へのプラス効果よりも、FRBのタカ派化期待に伴うマイナス効果が上回ったのです。
今後、重要となるのが、インフレの高止まりが、将来の景気に対する下方リスクを強めかねない点です。なぜなら、これまで米国の景気を支える重要な柱であった超過貯蓄が2023年末までに枯渇する可能性が高いためです。米国の家計がコロナ禍で蓄えた超過貯蓄は、2021年後半以降、米国家計の消費性向の押し上げに寄与してきました。コロナ前の2019年において、米国家計の消費性向は87.8%でしたが、直近(2023年1月)ではこれが92.1%の水準にあります(図表4)。米国の消費者センチメントがそれほど高い水準にないにもかかわらず、消費性向が高い水準を維持してきているのは、家計が超過貯蓄を取り崩してきたからに他なりません。しかし、この超過貯蓄の年間民間消費に対する割合は直近(2023年1月時点)で5.6%と、2021年央の13%超の水準から大きく低下してきました。超過貯蓄がこのままのペースで取り崩される場合、2023年末までにほぼ枯渇してしまいます。
インフレの高止まりによってFRBが2024年に入ってもかなり引き締め的な政策を続ける場合には、超過貯蓄の枯渇によってこれまでの家計消費を支えてきたけん引役が不在となり、米国の民間消費が失速するリスクが出てきます。ちなみに、超過貯蓄の枯渇によって消費性向が現行の92.1%からコロナ前の水準である87.8%に正常化するなら、可処分所得に変化がないとすると、民間消費は4.7%ポイント減少することになります。米国の民間消費がGDPの68.2%である(2022年)ことを踏まえると、波及効果を含めないで単純計算しても、これはGDPの3.2%ポイントの減少をもたらすことになります。この動きが一気に顕在化するなら米国経済が深い景気後退に陥る可能性があります。今後、米国のインフレが市場の想定通りに落ち着かない場合には、2024年前半における民間消費の減速についての見通しが強まり、2023年後半の株価に重しとなる可能性があります。
前章で議論したシナリオはあくまでリスクシナリオであり、インフレが今後しっかりと落ち着いていくというのが、以前から私が展望するメインシナリオです。財分野では、グローバルな在庫調整の動きが続いています。今後2~3カ月はこうした動きが継続することで、米国においても財インフレの低下傾向が続くと見込まれます。また、これまでのサービス消費分野のインフレは、家賃・帰属家賃の寄与が大きくなっていましたが、その寄与度は今年後半には大きく低下すると考えられます。一方、昨年来実施されてきた引き締め的な金融政策が家賃・帰属家賃以外のサービス価格に下押し圧力をもたらすと見込まれます。とはいえ、金融市場におけるFRBのタカ派化懸念が強まっている現状では、株安や長期金利上昇がしばらく続くリスクが存在しています。FRB高官の発言や雇用統計、インフレ関連指標の動きに引き続き注目していきたいとい思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-026