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GDP押し上げ効果は年間98兆円以上? 「エイジ・インクリュージョン」とは?

今までは「労働者が高齢になると生産性が低下する」といわれていました。近年では「高齢者の労働力なくして経済成長はあり得ない」という認識が広がり、あらゆる年代層が労働市場に参加することで経済成長を促す「エイジ・インクルージョン(Age Inclusion)」が注目されています。

これは、「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を達成する上でも重要な課題といえます。

「人生100年時代」で高齢就業者が増加

「人生100年時代」といわれている今、多くの国で退職年齢を過ぎても働き続ける高齢者が増えています。

高齢者大国の日本においては、2019年に高齢就業者数が16年連続で増加し、892万人と過去最多を記録したことが総務省統計局の調査で明らかになっています。65歳以上の中で65~69歳が占める割合は48.4%、70歳以上は17.2%に達しました。

一方、米国労働省労働統計局は2024年までに労働力人口が約1億6,400万人に増加し、そのうち25%が55歳以上、7.9%が65歳以上になると予想しています。同国における高齢者の労働力の増加率は、他の年齢層よりはるかに高くなる見込みです。

増加の背景には、平均寿命・健康寿命の延伸や年金受給開始年齢の引き上げ、人手不足、各国政府による高齢者の就労支援策の実施、年齢を理由とする雇用差別禁止法の導入などがあります。

労働市場の高齢化に立ち塞がる「年齢の壁」

高齢就業者が増加する一方で、「就労したいのに仕事がない」「やり甲斐のあるポジションに就けない」「賃金が低い」など、依然として「年齢の壁」が存在することも事実です。

英慈善団体「Centre for Ageing Better」が2022年2月に発表した調査報告書によると、50~60歳の回答者の48%が「新しい仕事に応募する際に年齢が障害になる」と考えており、15%が「年齢を理由に不採用になった・昇進できなかった」、17%が「過去数年間に年齢差別を受けたことがある」と回答しました。また、52%が「自分の希望に合った仕事を見つけることができなかった」、64%が「経済的に(以前ほど)恵まれていない」と感じています。

一方、日本労働組合総連合会が2019年12月に実施した調査では、60歳以上の回答者400人中、「働き方に満足している」と答えたのは70.3%でしたが、「賃金に満足している」と答えたのは44.0%にとどまりました。

新型コロナウィルスの感染拡大が高齢者の就労状況に与える影響も懸念されています。日本においては、コロナ不況と感染リスクが高い場所での就労に不安を抱く高齢者が増えたことにより、2020年の高齢就業者数は33万人減少しました。

GDP成長を押し上げる「エイジ・インクルージョン」とは?

米退職者協会(AARP)は年齢差別が原因で高齢者が離職したり、転職できなかったり、昇進できなかったりすることが、経済成長の妨げになると指摘しています。

同協会の試算によると、50歳以上の労働力の停滞が米国のGDP(国内総生産)にもたらした損失は、2018年だけでも8,500億ドル(約98兆582億円)に上ります。このまま改善されない場合は、2050年までに推定4兆ドル(約461兆4,723億円)相当のGDPを逃すことになります。

このような課題の解決策として、「エイジ・インクルージョン(Age Inclusion)」という概念が生まれました。より多くの高齢者が就労できる環境を整え、あらゆる世代が快適に共同作業を行えるマルチジェネレーション・ワークフォース(multi-generational workforce/多世代労働力)を構築するという概念です。これは、近年多くの企業や組織が持続的な成長を維持するために取り組んでいる「ダイバーシティ(多様性)」の一環でもあります。

同協会はエイジ・インクルージョンを実践することにより、今後30年間にわたって米国の1人当たりのGDPが19% 上昇すると予想しています。

国際的な支援活動も活発化

国際的な支援活動も活発化しています。例えば、世界経済フォーラム(WEF)とOECD(経済協力開発機構)、AARPインターナショナルは共同で、エイジ・インクルーシブ・ワークフォース(年齢に関係なく働ける職場環境/Age Inclusive Workforce)を促進するための国際イニシアティブ「リヴィング、ラーニング、アーニング(Living, Learning, Earning/生きること、学ぶこと、稼ぐこと)」を設立しました。

雇用側(企業)が事例や調査結果などを介して、マルチジェネレーション・ワークフォースの利点について学習できるデジタルプラットフォームなどを提供しており、組織・人事コンサル企業のマーサーや独金融企業のアリアンツを含む国際企業50社以上が参加しています。

「SDGs」達成に向けて

「エイジ・インクルージョン」は「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を達成する上でも、重要な課題といえます。持続可能な開発目標には17個の目標が設定されており、8番目の「働きがいも経済成長も」では、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」ことを目標として掲げています。

特に少子高齢化が進む先進国で目標を達成するためには、より多くの人々が年齢に縛られることなく就労し、生活の質と生産性の向上に貢献できる社会構造を模索する必要があるでしょう。

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