2023年の布石となる今週の二大イベント

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〔要旨〕

インフレ率:11月の米消費者物価指数(CPI)により、10月のCPIがたまたまだったのか、それともインフレ緩和傾向の始まりを示すものであったのかが判明するだろう

政策金利:米連邦準備理事会(FRB)は、12月の金融政策決定会合で0.5%の利上げを行うと予想されているが、それよりも今後の金融政策の道筋について語られる内容の方がはるかに重要である

2023年の市場見通し

先週、本リポートで、私は2022年12月が世界経済にとって忘れられない月になるのではないかとお伝えしました。今週は、特に米国にとって、2023年の布石となる非常に重要な2つのイベント、すなわち最新のインフレ指標の発表と、米連邦準備理事会(FRB)による利上げの決定が予定されています。以下、この2つのイベントに関して考察しています。

  • インフレ率:今週、11月の米消費者物価指数(CPI)が発表されます。これは、10月の数値がたまたまだったのか、それともインフレ緩和傾向の始まりを示すものだったのかが判明する、重要な材料となります。私自身は後者の可能性がはるかに高いと考えていますが、先週の米生産者物価指数(PPI)が市場予想を上回ったことから、インフレ率が期待以上に高まるのではないかと恐れる向きが多いことは確かです。インフレが和らいでいる可能性を示唆する指標として、米シティグループが算出する米インフレサプライズ指数(インフレ率の予想値と実際のインフレ率の乖離(かいり)度合いを指数化したもの)があります。同指数はインフレ率が市場予想を何度も上回ったことで劇的に上昇しましたが、直近は、インフレ率が市場予想を下回ったことから同指数は大幅に低下しており、これまでの上昇分の多くを取り戻しています。このことは、ニューヨーク連邦準備銀行が最近発表した消費者による期待インフレ率にもみられます 1 。この指数では、1年先の期待インフレ率の中央値は前月の5.9%から5.2%へと大幅に低下しました。3年先の期待インフレ率(中央値)も3.1%から3%に低下しており、望ましい方向に向かっています。また、5年先の期待インフレ率の中央値も2.4%から2.3%に低下しました。
  • 政策金利:米連邦公開市場委員会(FOMC)は12月13、14日に開催されますが、私は、0.5%の利上げが決定されると予想しています。しかし、私は、12月の利上げ幅がどの程度になるかよりも、今後の金融政策の道筋についてFOMCから語られる内容のほうがはるかに重要と考えます。それについては、以下の3つの情報源からヒントを得られることになるでしょう。
    • 「ドットプロット」はFOMCメンバーによる今後の政策金利の予想を示すもので、FRBがいつ利上げの「一時停止」ボタンを押すか、また今回の利上げ局面での政策金利の到達点(ピーク)がどうなるかについて、よい手がかりを与えてくれるでしょう。
    • もちろん、FOMC声明文も重要です。特に、「当委員会は進行中の利上げが・・・と予想する」との文における「進行中」という言葉は含みを持っており、FRBの利上げの「一時停止」がすぐに行われる状況ではないことを示唆しています。もし、この文言から「進行中」という言葉が削除された場合には、2023年の早い段階で利上げの一時停止が行われることを示唆する可能性があります。
    • 最後に、パウエルFRB議長の記者会見から、FRBが何を考えているのかについて重要な洞察を得ることができそうです。私は、パウエル議長がタカ派的な発言をすると予想しますが、積極的な引き締めの影響が時間差で現れることへのFRBの懸念や、利上げの「一時停止」ボタンを押す上でのFRBの基準について、何らかの情報を得られるのではないかと考えています。

とはいえ、市場には悲観的なムードがただよっているようにみえます。先週、S&P500種指数は3.5%近く下落しました 2 。同指数は12月に入ってから下落基調が続いていますが、それは、市場関係者が今週のイベントに対して懸念を抱いているせいもあるのでしょう。あまりにも長く、インフレは「一過性」のものでじきに解消されると言われてきましたが、(そうならない状況を目の当たりにして)、市場関係者は、本当にインフレが低下しつつあるとの確信を持てなくなってきているのでしょう。(これにより、私は、映画「13日の金曜日」に出てくるホッケーマスクの大量殺人鬼が、殺されたかと思うとまた起き上がって大惨事を起こし、ある時点から観客は彼が倒されるとは思えなくなるという、ホラー映画の典型的な現象を思い出しました。私はこれを 「ジェイソン・ボーヒーズは死なない」症候群と呼んでいますが、これは、高インフレがいつか解消すると信じられなくなっている、多くの市場参加者に当てはまるのではないかと思います。)

しかし、私は債券市場や為替市場の動向をより重視しています。私は、インフレの先行きを知る上で、これらの市場動向をより信頼できるものと考えています。米ドルが減価に転じ、米10年債利回りが大幅に低下していますが、これらは、インフレが緩和しつつあり、FRBによる金融引き締め度合いが素早く緩和される可能性を示唆しています。

2023年の市場見通し

以上を踏まえて、2023年のグローバル市場見通しについてお話ししたいと思います。当然ながら、2023年の見通しは金融政策の道筋によって大きく左右され、その金融政策はインフレ動向に大きく左右されます。インベスコの基本シナリオでは、インフレが緩和し、2023年年央に中央銀行の利上げが「停止」すると予想しています。これにより、世界経済の成長率は、潜在成長率を下回りながらも上昇に転じる景気回復局面に入ると考えられます。

しかし、失業率が既に過去最低水準に近づいていることから、これが新たな景気サイクルの始まりになるとは考えにくい状況です。むしろ、私たちは、世界的なリスク資産選好の高まりは、タイミング、期間、規模の点で、景気後退リスクがプラスの方向にリプライシング(価格の再設定)されることを反映したものになると予想しています。一方で、今後も、これまでの金融引き締めの影響が、長期的かつ変動する時間差を伴って完全に顕在化するまで、継続的に評価していきたいと考えています。

このような環境下では、高リスク社債、投資適格社債、ショートデュレーション、高バリュー地域、シクリカルなセクターを選好します。通貨については、米ドル安が続くと予想されるため、オーストラリアドル、カナダドル、ブラジルレアルを選好します。

  • その他のシナリオ:高インフレの持続 しかし、インフレが持続的に高止まりする可能性もあります(インベスコでは、その可能性は低いと考えます)。その場合、中央銀行による金融引き締め政策はより長期化し、その結果、景気縮小局面がより長引くと想定されます。その結果、世界的な景気後退の可能性が高まり、成長率が低下し、リスク資産にさらに悪影響を与えると予想されます。このような環境下では、債券よりも株式をアンダーウエイトし、株式の中ではディフェンシブ、クオリティ、低ボラティリティを選好します。また、国債とデュレーションを選好し、米ドルを選好します。

本稿は、2022年内最後の発行となります。2023年は1月11日に最初の号の発行を予定しています。よいお年をお迎えください。

  1. 出所:ニューヨーク連銀消費者期待調査、2022年11月
  2. 出所:ブルームバーグ、2022年12月9日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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MC2022-178

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