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グローバルな株価の下落が加速しています。3月12日の米国株式市場では、ダウ工業株30種平均とS&P500株価指数がともに過去最大の下げ幅を記録しました。S&P500株価指数は、12日だけで9.5%下落、2月19日につけた過去最高値からの累積下落率は26.7%に達しました。一方で、債券市場では米10年債の利回りは比較的大きく振れながらも日本時間本日7時45分現在で0.8%程度と大きく低下する状況が回避されています。ユーロドル相場やドル円相場にもそれほど大きな動きはなかったと言えます。12日は株価の下落だけが目立った動きとなりました。振り返ってみると、債券市場では、9日の段階で米10年債利回りが史上初めて0.3%台を記録するという極めて大きな変化がありましたので、コロナウィルス問題の悪影響が株式市場よりも早い段階で債券価格に織り込まれていたと考えることができるでしょう。
12日の株価下落をもたらした最大の材料はトランプ米大統領による、欧州から米国への入国制限措置の発動でした。この措置はそれ自体で運輸業、宿泊業、飲食業などへの悪影響をもたらすものですが、それ以上に、多くの投資家に対して、コロナウィルス問題による世界経済の停滞を印象付ける出来事となりました。米国でのコロナウィルスの感染拡大は加速しており、今週初めには200名程度であった感染者数は12日時点で1324人(ブルームバーグ調べ)へと急増しました。私は昨夜に弊社グローバル・ストラテジー・チームに属するニューヨークやロンドンの同僚と電話会議をしましたが、ニューヨークの同僚は、「ここ1~2日で街角の雰囲気が変わり、外出する人が少なくなった」と話しており、米国民のコロナウィルス問題への警戒が一段階上がった模様です。多くの人々がコロナウィルス問題を公衆衛生上の危機と認識する中で、株式市場がパニックに陥りやすい雰囲気が醸成されていたとみられます。
欧米の企業では、コロナウィルス問題が及ぼす実体経済へのインパクトが明確になるのに合わせて、景気の減速に備えて手元に現金を積み上げておこうとする動きが強まっています。短期市場でドル資金を手当てする動きも目立っており、今週に入って米CP市場では資金調達コストが上昇してきました。企業が資金繰りに困れば、本業で損失を出さなくても倒産が増え、経済全体に悪影響が及びます。こうしたリスクの高まりを踏まえて、FRB(米連邦準備理事会)は12日にレポによる5000億ドル規模の流動性供給に踏み切りました。13日にも1兆ドル規模の資金供給が行われる予定ですが、これらの措置を合わせて今後1カ月で5兆ドル規模の資金供給が実施される予定です。一方の欧州では、ECB(欧州中央銀行)も流動性供給を強化する措置を打ち出しました。12日に開催されたECB理事会では利下げの実施はありませんでしたが、ECBが金融機関に対して長期資金を供給する新規オペの実施が公表されたほか、年末までに1200億ユーロの資産買い入れを実施する旨が発表されました。現在ECBは月額200億ユーロの資産買い入れ措置を実施中ですが、今回の措置がこれに追加されることになります。ECBは金融機関の自己資本・流動性規制を一時的に緩和し、金融機関による貸出を促進する措置も講じています。
世界の株式市場では冷静さが失われる状態となっており、当面はボラティリティの高い状況が継続するとみられます。しかし、金融当局を中心にコロナウィルス問題への政策対応は着実に進むとみられ、市場の動揺を抑制する一定の効果が期待されます。FRBは3月17-18日にFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催する予定ですが、足元で株価が大きく下落する状況において、最低でも50bp(べーシスポイント)、場合によっては75bpないしは100bpの利下げを実施すると予想されます。現在FFレートは1.00~1.25%の水準にありますので、100bpの利下げの場合はゼロ金利まで政策金利が引き下げられることになります。その後の金融緩和の手法としては、日欧のようにマイナス金利政策が採用される事態は、当面避けられる公算が大きいでしょう。過去数回のFOMC会合議事録では、マイナス金利政策に対しての消極的な意見が多く、逆に量的緩和政策が有効との見方が示されました。コロナウィルス問題悪化の深刻度によっては、近いうちにFRBが新たな量的緩和策に舵を切る可能性もあるでしょう。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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