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インフレ期待には主に4つのタイプがある:インフレ期待とは、物価の先行きについての人々の見方のことであるが、「人々」には消費者、事業主、エコノミスト、さらには市場が含まれる
短期的予想と長期的予想:長期的なインフレ期待が落ち着いている限り、短期的な期待インフレ率の上昇は許容されるという見方が広く受け入れられている
インフレについて残された質問:米連邦準備理事会(FRB)は、中期的なインフレ期待がアンカー(安定的に維持)されていないことを容認するか?そして、何がインフレ期待に影響を与えるのか?
インフレ期待には主に4つあり、消費者・企業・エコノミストによる予測は調査ベースで計測される。一方、市場によるインフレ期待は金融商品をもとにしており、その他の期待よりも最新の状況を示している
インフレ期待は、中央銀行の役割上、最も注意を払っている情報のひとつである
多くの長期的なインフレ期待は短期インフレ期待よりも安定的に維持されている
FRBがインフレをうまく制御できることについての信認がインフレ期待に影響を与えると考えており、重要である
最近、良く話題に上る言葉は「インフレ」です。私は若い頃にベルボトムを着てビージーズのアルバムを聴いていた世代なので、インフレに関する発言をあまり耳にしたことがありませんでした。最近、インフレ期待についての質問が多く聞かれます。多くの顧客は、インフレのデータが物価の上振れを示している点に困惑していますが、米連邦準備理事会(FRB)は、インフレ期待が「十分にアンカーされている(安定的に維持されている)」ため、インフレは一時的なものであるとの主張を続けています。そこで、本稿では、インフレ期待とは何か、そしてそれが中央銀行の金融政策においてどのような役割を果たしているかについての答えを試みたいと思います。
簡潔に言うと、インフレ期待は人々が持つ物価の先行きについての見方です。「人々」とは、消費者、事業主、エコノミスト、さらには市場のことで、それらの期待を測定するためにさまざまな方法があります。
• 消費者によるインフレ期待
消費者のインフレ期待には調査ベースのものがいくつかあります。一般的なものはミシガン大学が発表している指標で、1年先と5年先の予想について毎月公表しています。その他、ニューヨーク連邦準備銀行も、消費者のインフレ予想に関する月次調査を実施しており、1年先と3年先のインフレ期待データを提供しています。
• 企業によるインフレ期待
企業のインフレ期待にもいくつかの調査指標があります。たとえば、アトランタ連邦準備銀行は、調査形式で企業のインフレ期待を測定しますが、対象先がアトランタ地区に限定されています。一方、企業のインフレ期待サーベイ(SoFIE:Survey of Firms‘ Inflation Expectations)は、2018年から開始されたものですが、全米の最高経営責任者を調査対象としています。SoFIEは、ビジネスリーダーによる1年先のインフレ期待、長期的なインフレ期待、最近のインフレ率に関する認識、インフレの不確実性、さらにはFRBのインフレ目標についての情報を提供します。この調査は、製造業およびサービス業の企業を対象としていますが、四半期ごとに調査が実施されていることが難点と言えるでしょう。
• エコノミストによるインフレ期待
経済予測の専門家を対象とした調査が数多く存在します。フィラデルフィア連邦準備銀行は、経済予測の専門家サーベイを四半期ごとに実施しています。これは、エコノミストによる将来のインフレに関する短期的および長期的な評価を提供します。また、欧州中央銀行(ECB)も、短期および中期のインフレ期待について、四半期ごとに経済予測の専門家サーベイを実施しています。
• 市場によるインフレ期待
市場の予想は金融商品をベースにしており、調査ベースのインフレ予測よりもはるかに最新のものです。たとえば、ブレークイーブン・インフレ率を見ることで、さまざまな期間に関する市場のインフレ期待を解釈することができます。ブレークイーブン・インフレ率とは、年限が等しい国債利回りと物価連動国債(TIPS)利回りのスプレッド(利回り格差)です。物価連動国債は、投資家のインフレヘッジを支援するために1997年に設計された資産クラスです。これ以外にも市場ベースのインフレ期待が存在します。インフレ研究センターを有するクリーブランド連邦準備銀行は、国債利回り、インフレデータ、インフレーションスワップ、インフレ予想に関する市場と調査を共に活用した複雑なインフレ期待モデルを開発しました。
中央銀行は、経済に影響を与える決定に自ら働きかけることができると考えており、これらのインフレ期待は重要です。インフレ期待に関する簡潔な説明として私が好むものに、クリーブランド連邦準備銀行のものがあります。内容は、以下の通りです:「インフレ期待は人々による将来のインフレへの期待を示すものであり、これらの期待は実際に人々の行動に影響を及ぼすため、重要である。過去の出来事が自分の現在の行動にどのような影響を及ぼすかは容易に理解できる。将来についての期待も、現在の行動に影響を与える可能性がある。たとえば、将来についての期待次第で、私は家を購入しないかもしれないし、設備投資や事業の拡大をしないかもしれない。逆に、それ次第でこれら全てを実行するかもしれない。」 1
そして、家を購入するかどうかの決定に影響を与えるのはインフレ期待だけではありません。エドムンド・フェルプスやミルトン・フリードマンなどの経済学者は、雇用者がインフレの加速を予想する場合、より高い賃金を要求し、それが企業に価格の引き上げを実施させると考えていました。これは、賃金・物価スパイラルと呼ばれる不快な現象を生み出すでしょう。その好例は、インフレ期待が完全に引きはがされた1970年代です。そしてこのことが、インフレ期待が、FRBを含む多くの中央銀行の意思決定において重要な役割を果たす理由です。
しかし、短期的なインフレ期待と長期的なインフレ期待には重要な違いがあります。広く受け入れられている見方は、長期的なインフレ期待が落ち着いている限り、インフレ期待が消費者や企業の活動を変える可能性は低く、中央銀行は短期的な期待インフレ率の上昇を許容するというものです。
パウエルFRB議長は、消費者は1年先のインフレ率がかなり上昇すると予想しているものの、5年先の予想についてはFRBの目標に近づくため、長期的なインフレ期待は十分にアンカーされていると主張しています。10月のミシガン大学消費者期待インフレ率(速報値)は、1年先が4.8%、5年先が2.8%と、FRBのインフレ目標を上回っていますが、短期的なインフレ期待を大きく下回っています 2 。他のインフレ期待の数値もいまだ高い水準にありますが、長期期待は短期期待よりも安定的に維持されていることを示しています。
しかし、インフレ期待について多くの質問が残ります。一つは、FRBは中期的なインフレ期待が安定的に維持されていないことを容認するか、というものです。ニューヨーク連邦準備銀行の消費者期待調査によると、9月の3年先の期待インフレ率が4.2%となり、過去最高を更新しました 3 。これは、「一時的な」インフレが3年以上続く可能性があることを示唆しています。現時点では、FRBは、長期的にうまくアンカーされている限り、中期的なインフレ期待の上昇を容認するようですが、今後を注視したいと思います。同調査では、現時点における5年先のインフレ期待がパンデミック前と同じ水準にあることを示していますが、私はこれが長期のインフレ期待がアンカーされていることを示す確固とした証拠になると考えます。
次に、FRBが最も注目しているインフレ期待は何でしょうか?おそらく、FRBはすべてを注目しています。実際、FRBは最近、消費者調査、エコノミストの予測、市場ベースの指標など、21の異なる期待指標を含む共通インフレ期待指数(CIE)を開発しました。FRBのクラリダ副議長はインフレを参照する際、CIEを注視していると述べています。
最後に、何がインフレ期待に影響を与えるのでしょうか?現状、特に長期期待については、何がインフレ期待を左右するかについてはあまり探求されていません。私は、FRBがインフレをうまく制御できることについての信認が重要であると考えています。したがって、まもなく行われるであろうテーパリングの発表は、FRBが長期的に目標に近いインフレを維持する能力への信頼を高めるのに役立つでしょう。逆に、恐ろしいニュースの見出しが非常に重要な役割を果たす可能性もあり、これは、長期のインフレ期待をアンカーされた状態に維持することの助けにはならないでしょう。
今後も、インフレ期待について取り上げたいと思います。
1.出所:クリーブランド連邦準備銀行、2019年5月28日
2.出所:ミシガン大学、2021年10月15日
3.出所:ニューヨーク連邦準備銀行、2021年10月12日
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2021-175