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インフレに関するFRBの声明やインフレ指標を解析する際はこれら4つの真実について認識することが必要
目次
FRBは引き金を引かない:FRBがデータに対して消極的に反応したとしても、次の会合で金融政策を引き締めるわけではない
ある程度のインフレは予想される:FRB当局者は、米国経済の再開によってインフレが急上昇する可能性があると繰り返し発言
FRBは政策アプローチを変えた:FRBは、インフレ目標に関してパラダイムを転換済み
①FRBは現段階では金融政策の変更を実施しない
②FRBは、経済の再開とともにインフレが急上昇すると予想している
③インフレの上昇が一時的か持続的かを判明するのには時間がかかる
④FRBは政策アプローチを変えた
投資家はインフレへの備えをする必要があると考える。持続的にインフレ率が上昇した場合、より分散されたポートフォリオのうち、①コモディティ、②シクリカル株、③インフレ防衛資産、④新興市場資産、⑤高配当株—から利益を得られると見込む
先週、米国での物価の大幅な上昇と、ユーロ圏での予想以上の上昇を示すデータを受けて投資家は身震いすることになりました。株式市場は大きく下落し、米国債利回りは上昇、市場の評論家による話題はインフレに集中しました。ここでインフレと米連邦準備理事会(FRB)についての真実を思い出していただきたいと思います。
FRBが公表されたデータに対して消極的に反応したり、サプライズとの認識を示したからといって、次の会合でFRBが金融政策を引き締めに転換する訳ではありません。先週、FRBのクラリダ副議長が自身の予想を上回った消費者物価指数(CPI)などのデータに驚いたと発言した際、一部の投資家は動揺しました。しかし、クラリダ副議長は直ちに「正直なところ、現在、かなりの量のノイズが生じていることを認識することが必要であり、より多くの証拠を収集することが賢明で適切だ 1 」と述べ、市場関係者を安心させました。FRBの新しいキャッチフレーズが「忍耐強く緩和」であることを忘れてはいけません。言い換えれば、FRBは今後も金融緩和に軸足を置き、しっかりと熟慮してから引き締めに転じると考えられます。
3月初旬、パウエルFRB議長は、「経済が再開し、景気が回復することを望んでいるが、それに伴ってベース効果によるインフレ率の上昇を見込んでいる。これは物価への上昇圧力をもたらす可能性がある 2 。」と述べました。実際、パウエル議長や他のFRB当局者は、米国経済の再開とともにインフレ率が急上昇する可能性があると繰り返し述べてきました。FRBはインフレ率の上昇を受け入れ、対処する準備が整っています。
インフレの一時的な上昇は、少なくとも部分的にはベース効果によるものです。つまり、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した2020年春に経済が厳しい状況であったことを踏まえると、1年前とのデータの比較はひずみをもたらしてしまいます。さらに、需要と供給には現在ミスマッチが生じており、物価を押し上げる可能性があります。実際、一部の産業はサプライチェーンの問題を抱えているうえ、経済の再開とともにペントアップ需要が活発化しつつあります。ただし、これらがもたらすのは一時的な物価上昇に過ぎません。例えば、経済が再開した後は、いくらでも飛行機に乗ったり、散髪にいくことができます。限界効用低減の法則に従えば、フライトや散髪などから得られる満足度はある時点で低下することは明白です。
一方、より持続的なインフレをもたらす動きについてはどうでしょうか。通常、賃金の上昇は「より粘着性」を有するインフレを発生させますが、米国の平均時給はまだ大きく上昇しておらず、労働市場に緩みが見られることを踏まえると、インフレ率が今後すぐに上昇する可能性は低そうです。
マネタリストは、通貨供給量(マネーサプライ)が景気や物価を決定すると主張しています。この説に従えば、マネーサプライの大幅な増加は持続的なインフレを促進させる可能性がありますが、現在、このマネーサプライは非常に大きく増加している状況です。ただし、インフレを発生させる要素として、もう1つの重要なものがあります。それは通貨の流通速度の上昇ですが、現状ではこれは確認されていません。貨幣数量説は、インフレはマネーサプライだけでなく、貨幣の流通速度によって決まると仮定しています。セントルイス連銀が調査レポートで指摘しているように、「金融緩和政策において、何らかの理由で貨幣の流通速度が急速に低下する場合、マネーサプライの増加を相殺し、インフレではなくデフレにつながる可能性さえある 3 」のです。しかし、たとえマネーサプライが持続的なインフレをもたらすほど十分に増加するとしても、それはすぐには生じず、通常、18〜24カ月の遅れを伴うことから、2021年後半から2022年初と見込まれます。
FRBは、過去数十年において、いくつかのパラダイムシフト(認識の枠組みの大転換)を行ってきました。私は、FRBが民間との定期的なコミュニケーションを重視していなかった頃や、当時FRB議長であったのグリーンスパン氏のブリーフケースのサイズが次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)での決定内容を占う最良の指標であった頃のことを覚えています。そして、現在においては、FRBの行動は極めて透明性が高く、実際に行動する前にその見解や行動について周知させています。また、現在のFRBのインフレ目標政策は、2020年夏以前の政策とは大きく異なっています。現在の「平均インフレ目標(AIT)」政策では、FRBは金融引き締めを検討する前にインフレ率を忍耐強く2%超に押し上げ、完全雇用を実現することを目的としています。言い換えると、この新しい政策により、FRBははるかに柔軟に行動することが可能になるともに、経済の過熱を許容することが事実上可能となりました。現在のFRBは、「パーティーが盛況になる前にお酒が入ったパンチボウルを片づけることが仕事」であった以前のFRBではありません。現在のFRBは、パーティーの参加者が酩酊していても、夜中までパンチボウルを片付けないかもしれません。
このことは私たちに次の疑問を投げかけます。「投資家は何を恐れているのか?インフレを恐れているのか?それともインフレに反応してFRBが金融引き締めを行うことだろうか?」。私には、投資家は後者をはるかに懸念しているように思えます。これが、FRBが市場に安心感を与えたことで、インフレの兆候に対する先週のネガティブな反応が短命に終わった理由でしょう。そうであれば、投資家はおそらく、前者についてより懸念する必要があります。特に、FRBが後手に回り、インフレ抑制を試みても容易に抑えることができないケースを懸念すべきです。これが私の考える基本シナリオでは決してない点は強調しておきたいと思いますが、それでも、インフレは一部の資産クラスに悪影響を与える可能性があることから、考慮しておくべきリスクです。仮に持続的なインフレが生じる場合、投資家は、分散されたポートフォリオの中で、コモディティ、シクリカル株、インフレ防衛資産、新興市場資産、高配当株などから利益を得ることができます。
今週は、投資家がFOMC議事要旨の公表に神経をとがらせており、ボラティリティが高まる可能性があります。同議事要旨から、FRBのインフレと金融引き締めに対する考えについて、より多くの見解を得られるでしょう。
1.出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“Fed’s Clarida ‘Surprised’ by Inflation Report, But Stresses Need to See More Data”、2021年5月12日。
2.出所:CNBC、“Fed Chairman Powell says economic reopening could cause inflation to pick up temporarily”、2021年3月4日。
3.出所:セントルイス連邦準備銀行、“What Does Money Velocity Tell Us about Low Inflation in the U.S.?”、2014年9月1日。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2021-090