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雇用統計が予想を下回ったのにさまざまな背景があるが、2021年の経済見通しは引き続き明るい見込み
米国経済は失速しつつあるのか?:景気回復の兆候が多く見られることから、堅調な経済成長を見込む
労働力が不足している要因は何か?:健康安全上の懸念、育児面での課題、公共交通機関の削減、政府の給付金などが考えられる
今後の見通しは?:2021年は経済と労働市場にとって明るい1年になるだろう
4月の雇用統計は市場予想を大きく下回る内容となったものの、労働市場は着実に改善している。ベージュブックでは雇用の「緩やかな」改善が示されており、急激な雇用増加が示唆されているわけではなかった
全米商工会議所が失業給付の上乗せの停止を求めるなど、失業手当の充実策が実施されていることが労働力不足の一因との声が強い
託児所確保の困難さ、健康や安全上の懸念、公共交通サービスの削減なども就労希望者にとっての障害に
現在、多くの雇用主は雇用者を呼び込むために一時金の支給を始めているが、これは賃金の長期的な上昇にはつながらないだろう
2021年は、米国の経済、労働市場にとって良い年になるとともに、分散しながら長期的な観点で投資を継続する投資家にとって好ましい1年になるだろう
2021年4月の雇用統計は予想を大きく下回るサプライズとなりました。非農業部門雇用者数の増加数は100万人をやや下回ったというのが市場の大方の見通しでしたが、一部には100万人を大幅に超えるとの見方も存在していました。しかし、結果は26.6万人と予想を大きく下回ったうえ、3月の増加数も91.6万人から77万人に下方修正されました 1 。
今回の雇用統計をどのように理解すればよいか考えあぐねている人も多いでしょう。これは、米国の景気回復が停滞している兆候なのでしょうか?私は決してそうではないと思います。なぜなら、景気回復の兆候が他にも数多く明らかになっているためです。例えば、米国の製造業、非製造業のISM指数は、共にここ数カ月大幅に上昇しました。しかし、それは、雇用統計の爆発的な増加を期待できることを意味しません。現在、米国経済は加速しているものの、著しく加速しているわけではありません。4月14日に公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、4月5日以前の6週間を報告期間とする状況が報告されましたが、そこでは、全米の雇用の伸びが「報告期間を通じて改善しており、ほぼ全ての地区で雇用が緩やかに増加した 2 」と報告されています。
私の経験では、「緩やか」な増加では、3月や4月の非農業部門雇用者の増加数が100万人になることはありません。また、サプライチェーン(供給網)の混乱が製造業の停滞と雇用者数の減少につながったことも見逃してはならないでしょう。実際、最新のベージュブックにおいて、サンフランシスコ連銀は以下のように指摘しています。「…同地区の公益事業、製造業、および農業にたずさわるいくつかの企業は、労働時間の短縮、採用活動の見直しや雇用の凍結に言及した。これらのコスト削減策の一部は、原材料の不足、サプライチェーンの混乱、および生産能力の制約を背景として決定された 2 」。
それとも、4月の雇用統計は、財政刺激策、特に失業手当の充実策が労働者不足を引き起こしていることを示しているのでしょうか?米中堅コンビニエンスストアのワワが新規の就業者に500米ドルのボーナスを給付したり、マクドナルドが就職面接時に一時金を支給するなど、雇用主が労働者を呼び込もうとしているという事例が散見されています。ノースカロライナ州在住の私の友人から、地元でよく行くファストフード店が休業となっているが、これは、オーナーが2つの店舗を所有しているが、従業員が不足していて1つの店舗しか運営できないためである、との話を聞きました。2つの店舗は週の半分ずつ交互に休業しているとのことです。
全米商工会議所もこの見方に賛成しており、労働者の不足は失業手当の充実策によるものだと考えています。同会議所の分析によると、失業者の4人に1人が、就労によって得ていた金額を上回る失業手当を受け取っていることが分かりました 3 。4月の雇用統計を受けて、同会議所は週300米ドルの失業給付上乗せ措置の停止を求めました。「人々を働かせないために支払われる給付金は、本来ならば力強い労働市場を減速させてしまう。労働力問題とパンデミックからの経済回復に対して人手不足が非常に現実的な脅威となっていることに対処するための包括的なアプローチが必要である 3 」との主張です。そして、最新のベージュブックにおいて多くの地区連銀からも、同様の声が出ています。つまり、雇用主は仕事を募集しているものの、その仕事に就きたい人がいないのです。
私は、状況はより複雑であり、一部の地域や産業で労働力が不足している理由は他にもあると考えます。1つは、子供たちの学校がまだオンラインでの授業を行っているか、利用できる保育サービスが十分に提供されていないために、親が仕事に戻ることができないという見方です。その見方に違和感はありません。ここ数週間で子供の通学が再開されたばかりという保護者も多い一方、全ての授業が対面で実施されるのは2021年秋になると予想される中、(春学期までの)本年度の学校の授業は全てオンライン授業となるケースも存在しています。
託児所確保のほか、健康や安全上の懸念、利用できる公共交通サービスの削減などの課題は、仕事に復帰しようとする人々にとっての障害になっています。この点について、シカゴ連銀は、最新のベージュブックで次のように指摘しています。「雇用主や人材紹介会社、労働力の支援機関などは、健康や安全上の懸念、育児場所確保の課題、公共交通機関のスケジュールの短縮、求職活動疲れ、そして政府からの財政的支援など、労働力の供給を制限する多くの要因を指摘した 2 」。これらの障害は、ヒト・モノの移動(モビリティ)や商取引の制限という、より広いカテゴリーの問題であり、サンフランシスコ連銀が、「一般に、ヒト・モノの移動(モビリティ)や商取引の制限がより早く解除された地域では、雇用はより早く回復した 2 」と指摘している問題です。ヒト・モノの移動があるところでは、公共交通サービスは制限されていますし、商業上の制限があるところでは、保育所は定員いっぱいで子供を受け入れる余裕がないことが多いのです。
労働力の不足に関する主な懸念は、それが大幅な賃金上昇を引き起こす可能性があり、その結果、FRBが予想する一時的なインフレではなく、「硬直的な」インフレを発生させる可能性があることです。しかし、労働力が不足していても、賃金が大幅にかつ長期的に上昇する可能性は低いと考えます。現状、多くの雇用主は、労働者を呼び込むためにサインオン・ボーナス(入社時一時金)の活用を検討しています。これについて、ミネアポリス連銀は「複数の企業によると、雇用主がサインオン・ボーナスを支給することが広範に実施されており、これによって長期的に給与を引き上げる約束なしに、多くの応募者が集まった 2 」と指摘しました。フィラデルフィア連銀でも、「物流部門で一般的である契約ボーナスが、ホスピタリティ産業の複数の雇用者から支給された 2 」と報告しています。一部の雇用主は賃金を引き上げているものの、その程度は比較的控えめなもののようです。
企業はまた、人件費を抑えるための方法を検討しています。例えば、クリーブランド連銀は「需要の増加に対応するため、雇用主が(新たに雇用する代わりに)多くのテクノロジーを導入することを計画しているケースが見られた 2 」と報告しています。また、アトランタ連銀は、「一部の企業は、採用が困難な職種について、従業員を引き付け、長期間働いてもらうため、フルタイムの在宅勤務での雇用を計画している 2 」と報告しました。
私は、米国経済が加速することは明らかであり、それは迅速な雇用の伸びを促すと考えます。それに伴い賃金の上昇が見られるでしょうが、労働力の不足は一時的であるため、大幅な賃金上昇は見込まれません。ほとんどの学校は9月までに対面授業が再開、託児所も再開したり、より多くの児童を受け入れるようになるでしょう。対面での授業が再開され、託児所や公共交通機関がフル稼働することで、多くの人々が労働市場に参入すれば、賃上げ圧力は緩和されると見込まれます。公共交通機関のスケジュールも今後数カ月で通常に戻り、労働力の供給が増加するでしょう。そして、ワクチン接種率が上昇し、新型コロナウイルスの感染率が低下すれば、健康上の安全上の懸念のために就労を控えた人々が再び働き始めると予想されます。今後数カ月以内に、高校や大学の卒業生が大挙して労働市場に入ってくることも忘れてはなりません。一方で、失業給付の充実策は9月に終了する予定ですが、州はこれを早期に取りやめることができます(2州は6月時点で取りやめると発表しています)。これらも、労働者の大規模な就業につながるはずです。
以上のことから、私は、一時点のデータに固執したり、単月の雇用統計を過度に懸念するべきではないと考えます。米連邦準備理事会(FRB)前議長でもあるイエレン財務長官は、労働市場とそのインフレへの潜在的な影響に強い関心を持っていましたが、データをより完全に理解するには、多くのデータを把握する必要があることを認識していました(実際、イエレン氏はさまざまな指標を追跡できるように19のポイントからなる労働市場の状況をとらえる指数を作り出しました)。イエレン長官のように、我々は米国の労働市場のさまざまな角度から綿密に追跡したいと思います。同時に、FRBがどれだけ忍耐強く金融緩和に取り組んでいるかについて認識する必要があります。これらの全てを考慮し、2021年は、経済や労働市場にとって良い年になるとともに、投資を継続する意欲があり、幅広く長期的に投資を継続する投資家にとって良い年になると予想しています。
1.出所:米国労働省労働統計局、2021年4月米雇用統計、2021年5月7日公表。
2.出所:米連邦準備制度、米地区連銀経済報告、2021年4月14日。
3.出所:全米商工会議所、“U.S. Chamber Calls for Ending $300 Weekly Supplemental Unemployment Benefits to Address Labor Shortages”、2021年5月7日。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2021-085