「人生の三大出費」という言葉をご存じでしょうか。「住居購入費」「老後生活費」「教育費用」のことです。子どもを育て上げるには多額の費用がかかりますが、特に子どもが大学生の間は短期間に高額出費が続きます。
「子育てのラストスパート」ともいえる時期にかかる費用について、詳しく解説します。
目次
子どもにとって大学生活の始まりは、入学式からでしょう。しかし親にとっては子どもが大学に合格し、入学手続きをするところから始まります。子どもの努力が実ったことを喜ぶと同時に、大きなお金が出ていくときだからです。
4年間の学費合計
入学金 | 授業料 | 施設設備費 | 初年度費用 | 4年間費用 |
28万2,000円 | 53万5,800円 | 0円 | 81万7,800円 | 242万5,200円 |
(図表:著者作成)
入学手続時には、入学金と授業料の一部を納入します。授業料は前期分と後期分を半年ごとに納入するのが一般的ですが、9月入学の場合は入学時に7ヵ月分を納めます。
都立大学や市立大学では、キャンパスのある地域に住む学生の費用が安く設定されています。大学によって多少異なりますが、14万~16万円が入学金から減額されるケースが多いようです。
-学部によって設備費が異なるが大きな差はない
一般的に国公立大学では、設備費がかかりません。大学や学部、所属する研究室によっては、別途設備費が必要になることもありますが納入は初年度のみ、かつ少額です。
4年間の学費合計平均
その他 | 入学金 | 授業料 | 施設設備費 | 初年度費用 | 4年間費用 |
文科系 | 22万0,580円 | 77万985円 | 15万7,090円 | 114万8,655円 | 393万2,881円 |
理工系 | 24万5,396円 | 103万3,911円 | 17万7,499円 | 145万6,806円 | 509万1,036円 |
医歯薬系 | 75万9,857円 | 243万9,872円 | 63万3,715円 | 383万3,444円 | 1,920万1,377円※ |
その他 | 25万2,033円 | 93万6,544円 | 23万1,250円 | 141万9,827円 | 492万3,208円 |
※医歯薬系のみ6年間として計算しています。
※医学部看護学科はその他に含まれます。
(図表:著者作成)
私立大学は学部・学科によって授業料・設備費などが異なり、専門的な設備を必要とする分野ほど高額になる傾向があります。
文系学部では、学部・学科による費用の違いはほとんどありません。卒業後は、約85%の学生が就職を選択します。
理系学部では別途研究室費用や実習費用がかかることがあり、金額は専攻などによって異なります。また約32%以上が修士課程へ進学するため、さらに費用がかかることもあります。
一般的に医・歯・薬学部は在籍年数が6年間と長く、専門的な機器を備えていることもあって、授業料・設備費ともに高額です。
大学生活にかかる出費は、学費だけではありません。どのような学生生活を送るかによって、費用がかかる項目が変わります。
-自宅外から通学する場合は年間約150万円の出費増
1ヵ月の生活費比較
a.自宅通学者 | b.自宅外通学者 | |
住居費 | 150円 | 5万3,930円 |
食費 | 1万3,850円 | 2万6,390円 |
交通費 | 8,160円 | 4,070円 |
その他生活費 | 4万3,920円 | 4万4,700円 |
支出合計 | 6万6,080円 | 12万9,090円 |
※全国大学生活協同組合連合会「第55回学生生活実態調査 概要報告」より抜粋
自宅から大学に通えない場合は、自宅を出て下宿やアパートなどで生活をすることになります。その場合は、住居費という大きな出費が生じ、食事も学生本人が用意しなければならないため、食費の負担も増えます。
自宅外通学者の生活費は1ヵ月あたり約13万円、1年間で約150万円にもなります。保護者からの仕送り額の平均は約7万円、1年間で約84万円です。もちろん、生活費とは別に学費も支払わなければなりません。
-留学費用は150万円~260万円、現地での生活費も
在籍大学などのプログラムで留学する際の費用の目安
短期留学(1~3ヵ月) | 交換留学生(1~2年) | |
授業料 | 15万~50万円/月 | 留学先による |
滞在費 | 5万~15万円/月 | 5万~15万円/月 |
渡航費 | 10万~20万円/往復 | 10万~20万円/往復 |
合計 | 30万~150万程度/月 | 90万~260万円程度/月 |
※滞在費はホームステイ・学生寮・賃貸住居などによって大きく異なります。
※授業料は単位認定留学先の学校によって異なります。
※その他、生活費・保険料・ビザ取得費用などがかかります。
(図表:著者作成)
海外留学をする場合、最もお得な方法は在籍大学の留学プログラムを利用することです。大学やプログラムの内容によっては、奨学金が給付されることもあります。受け入れ先の学校によっては授業料がかからない場合もありますが、在籍大学への学費の払い込みは必要です。
留学プログラムによって、行き先や内容、費用が変わります。各大学では留学希望者に向けて説明会を実施していますので、親子で確認しておくとよいでしょう。
-大学院に進学した場合の学費は50万~100万円
大学院の初年度納入金平均額
入学金 | 授業料 | 施設設備費 | 初年度納入金 | ||
国公立大学 | 修士課程 | 28万2,000円 | 53万5,800円 | - | 81万7,800円 |
博士課程 | 28万2,000円 | 52万0,800円 | - | 80万2,800円 | |
法科大学院 | 28万2,000円 | 80万4,000円 | - | 108万6,000円 | |
私立大学 | 修士課程 | 20万2,059円 | 70万8,110円 | 7万8,258円 | 98万8,427円 |
博士課程 | 19万9,532円 | 62万0,256円 | 6万0,786円 | 88万0,575円 | |
法科大学院 | 21万0,348円 | 117万1,104円 | 11万6,264円 | 149万7,716円 |
※学部と同様に、都立大学・市立大学では地域住民の入学金が優遇されます。
(図表:著者作成)
大学院の授業料は、学士課程の7~8割程度です。在籍大学の大学院へ進学する場合は、入学金や設備費などを半額~全額免除する制度や奨学金貸与制度を設けている大学もあります。
大学の学費をどのように準備するかは、大きな課題です。どうしても準備できない場合は奨学金制度や教育ローンなどを利用する方法もありますが、あらかじめ返済について話し合っておくことが大切です。
2020年4月に始まった高等教育の就学支援新制度により、授業料等減免制度の創設と給付型奨学金支給の拡充が行われました。対象は住民税非課税世帯から年収が約300万円以下の世帯までで、学修意欲・学修状況にも厳しい条件が設けられています。
何らかの奨学金制度を利用している学生の割合は、国立大学で43.1%、公立大学で53.3%、私立大学では48.0%です。そのうち85.8%が、日本学生支援機構の奨学金を利用しています。
日本学生支援機構では、最低貸与月額2万円から第一種奨学金(無利子)・第二種奨学金(年利3%)を用意しています。注意すべき点は、貸与のタイミングが大学入学以降になる点です。
-返すのは学生本人だということを、親子で理解することが重要
日本学生支援機構の奨学金は、学生に対して貸与されるものです。つまり、返済義務は保護者ではなく学生本人に課せられます。
返済は卒業後7ヵ月目から始まり、最長20年間続きます。例えば月額2万円を入学から卒業までの4年間借りた場合、貸与額は合計96万円です。これを完済するためには、毎月約8,000円を10年間にわたって返済しなくてはなりません。
月額6万円を4年間借りた場合は貸与額の合計が約300万円になり、毎月1万5,000円を16年間返済することになります。保護者が返済に協力できない場合は、学生本人が正しく理解できるまで説明しなければなりません。
-返済不要の奨学金獲得にチャレンジする
給付型の奨学金制度を設けている大学や民間団体などもあります。学修状況に厳しい条件があるもの、一定の基準を満たす全員に支給するものなど、条件はさまざまです。奨学金の内容や給付額もさまざまですが、共通しているのは「返済不要」であること。挑戦する価値は、大いにあるといえるでしょう。
金融機関の教育ローンを利用する方法もあります。借り入れのタイミングは任意で、受験費用や入学手続費用、授業料にも充てられ、大学生活が始まる前に借りることも可能です。
ただし借りた翌日から返済義務と利子が発生するため、借り入れは余裕を持って返済できる金額にとどめておいたほうがよいでしょう。
子どもの誕生と同時に、学資保険に加入する家庭は少なくありません。しかし学資保険は、保険会社によって受け取れるタイミングが異なります。推薦などで早めに入学が決まった場合は、手続きの締切までに満期金を受け取れないこともあるでしょう。
手続きに間に合わないからといって慌てて解約すると、満期金よりも大幅に少ない解約返戻金しか受け取れないかもしれません。その場合は契約者貸付サービスなどを利用できないか、担当者に相談するとよいでしょう。
学生本人がアルバイトなどをして、学費や生活費を稼ぐ方法もあります。実際に大学生の86.1%が何らかのアルバイトをしていますが、稼いだお金を学費や住居費、生活費に使うのか、留学費用として貯めておくのか、または学生本人の小遣いとして使うのか、よく話し合っておくことをおすすめします。
大学の費用を考えれば、小・中学校時代の教育費は安いものです。できるだけ負担が軽い時期に準備を始めておくことが、その後の資金の工面に役立つでしょう。
大学を卒業すると子どもは自力で人生を歩み始めるため、大学の費用を準備することは「親としての最後のサポート」といえるのではないでしょうか。だからといって、すべてを負担しなければならないわけではありません。どのようにすれば無理なく子どもを支援できるのか、親子で話し合ってみてはいかがでしょうか。