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目次
●「創造的破壊」とは、経済的損失の後に、最終的に現れる好ましい現象
●パンデミックによって生じた大規模な経済的破壊により、大きな進歩と革新がもたらされると見込む
●パンデミック下で確認される「環境に優しいグリーン経済」と「中小企業の台頭」
1. パンデミックによりESGへの注目が高まる可能性
「創造的破壊」の現れとしてのESGへの注目の高まり
2. 米国で劇的に増加する中小企業設立の申請
新規のスタートアップ企業の増加は歓迎すべき変化
結論
パンデミックによる創造的破壊から生まれるイノベーションに注目するのが重要
新学期が始まりました。新学期は、私が受けた教育と、学校で楽しく学んでいた全てのことを、いつも思い出させてくれます。学生時代、私が特に印象深かった授業の1つは、ビジネススクールでの起業家の歴史に関するものでした。この興味深いカリキュラムは、カールマルクスの理論を発展させた「創造的破壊」の概念を提唱した経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターの理論から始まりました。私は新型ウイルスの大流行(パンデミック)の中、シュンペーターの理論について考えてきました。
シュンペーターは、「創造的破壊」を「絶えず古いものを壊し、新しいものを生み出すことで、内部から継続的に経済構造に大きな変革をもたらす産業的変異のプロセス」と定義づけていました 1 。つまり、痛みがあるからこそ得るものがあります。彼は「創造的破壊」を資本主義の必要な一部としてだけでなく、灰から浮かび上がる不死鳥のように、受けた損害からプラスの効果が得られるものとして評価していました。「創造的破壊における長年の強風」は「失業、企業の倒産、そして産業の消滅」を生じさせますが、その荒廃から「より生産的で豊かな」経済が生み出され、人々は「新しいより良い製品、より短い労働時間、より良い仕事とより高い生活水準による恩恵」を享受していきます 1 。
創造的破壊は、資本主義経済の多種多様な産業で長年経験されてきました。その一つが19世紀の英国の繊維産業です。ラッダイト運動(失業の恐れを感じた英国人労働者が自身の職を守るために起こした運動)は、機械使用の普及による失業を防ぐために、繊維向け機械の出荷を妨害しました。強い抵抗の後、結局は、機械の普及が進みました。雇用は失われましたが、社会はその進歩による恩恵を享受し、最終的には生産性が向上し、より多くの雇用が創出されました。人間の進化と同じように、多くの場合、創造的破壊を通じて、経済は発展してきました。
現在、パンデミックにより創造的破壊が顕著に進み、長年かかると予想されていたトレンドの進行が、たった数カ月で加速して起きています。私は、パンデミックによって生じた経済的破壊が大規模なため、大きな進歩と革新がもたらされる可能性が非常に高いと考えます。残念なことに、パンデミックによって多くの企業が倒産し、失業率は依然として高水準で推移しています。私はそれらの損害は深刻であり、政府は刺激策を通じてこれらの問題に取り組む必要があると考えます。一方で、パンデミック下での暗雲が立ちこめる中、明るい兆しとなりうるものが2つあります。それは、ESGへの注目と起業家精神の高まりです。
パンデミックとその後の景気後退により、グリーン経済、より一般的には環境、社会、ガバナンス(ESG)問題への注目が高まるとの意見がありますが、私も同様に考えています。ESGへの注目の高まりは「創造的破壊」の現れと考えられ、深刻な景気後退は、より環境に優しい良い経済をもたらす可能性があります。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は次のように述べています。「将来、歴史家がパンデミックを振り返ったとき、大いなる破たんの瞬間だったと語るでしょうか?今日、非常に懸念される兆候が確認されています。170カ国の経済は年初よりも縮小して2020年を終え、今以上に債務や財政赤字が拡大し、失業者が増加すると予測されています。そして、不平等と貧困について非常に高いリスクが存在しています。これは、私たちが何らかの行動をとらない限り、実現してしまうリスクです。では、将来の歴史家がこの危機を、後に絶好の機会であったとして振り返るためには何が必要でしょうか?IMFは以下のように考えます。各国がこの危機に対処し、成長を取り戻すためのギアをシフトするために、大規模な財政刺激策が注入されています。この成長が将来、より環境に優しく、よりスマートで、より公正な世界を作り出すことが最も重要です 2 。
欧州連合(EU)は、この目的に向けてすでに進行しているようです。つい先日、EUの予算管理理事は、7,500億ユーロの復興基金の資金調達の一環としてESG債を発行する「可能性を模索している」と英フィナンシャル・タイムズへ明らかにしました。EU首脳陣はこれまでに、ESGに配慮した持続可能な経済再建を支援する投資を通じた取り組みの一環として、財政刺激策の少なくとも30%を費やすことを提案していました 3 。
世界金融危機時には、中小企業の起業が増加しましたが、これは人々が職を失ったことが一因と考えられます。ただし、その理由が何であれ、現在の米国に多くの起業家がいることは、ポジティブな変化と真のイノベーションを生み出すと考えられます。米国国勢調査局によると、2020年の新規起業の設立件数は前年比96%増加しています 4 。また、ある米国の地方紙は、前週、新規事業の申請がアラバマ州で増えていることについて、その背景は新型ウイルスによって生じた問題解決を提供するビジネスの増加であると報じました 5 。同様に、ミシガン州でも2020年8月の新規事業の申請数が前年比+123%と大幅に増加しており、さらに2020年6月後半以降の増加がその大半を占めています 6 。Center for American Entrepreneurshipの創設者であるジョン・ディアリーは、2019年に「新規のスタートアップ企業の減少は国家の緊急事態にほかならない」と述べ、新規事業の不足を懸念していたことと比較すると、これは歓迎すべき変化です 7 。
この秋、私は、経済成長のある程度の減速と、世界の一部の地域で新型ウイルス感染者数が増加する可能性に備える必要があると思います。しかし、それは私たちが経済と市場について短絡的かつ悲観的になるという意味ではありません。今回の危機は、今後の成長のために多くの機会を生み出しています。私は、長期投資家はパンデミックによる創造的破壊から生まれるイノベーションに注目するべきであると考えています。
1.出所:The Library of Economics and Liberty。
2.出所:国際通貨基金(IMF)、“The Great Reset”、世界経済フォーラム(World Economic Forum)のメディア・ブリーフィングでのゲオルギエバIMF専務理事の声明、2020年6月3日。
3.出所:フィナンシャル・タイムズ、 “EU explores green bonds as part of 750bn borrowing spree”、2020年9月13日。
4.出所:米国国勢調査局、2020年9月10日時点。
5.出所:Birmingham Business Journal、“Startup surge? Business applications rising in Alabama, spurred by COVID-19”、2020年9月3日。
6.出所:Michigan Business Journal、2020年8月16日。
7.出所:AP通信、“A slowdown in US business formation poses a risk to economy”、 2019年9月5日。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2020-143