株式市場の俗説:投資家の思い込みが現実を反映しているとは限らない

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〔要旨〕

  • 株式と経済:1つの俗説は、株式市場が好調であるためには経済自体が大いに好調でなければならないというものだが、これは単純に真実ではない
  • 金と株式:もう1つの俗説は、金と株式が同時に良いパフォーマンスを示すことはないというもので、これは一定程度真実だが、特に最近では例外も見られる
  • 中央銀行の戦略:もう1つの俗説は、中央銀行は今後の動きを会合のかなり前から決めており、会合での「討論」は全てパフォーマンスだというものだ

俗説その1:経済と株式市場の関係

俗説その2:金と株式の関係

俗説その3:中央銀行の戦略

ボーナス俗説:選挙と市場

投資家の注意が逸れないようサポート

今後の展望

注目の日程

先週、コロラドスプリングスで開催されたイベントでプレゼンテーションをさせて頂きました。空港に戻る車中、私は運転手が地元の都市伝説に精通していることを知りました。彼が教えてくれた興味深い話を1つご紹介します: 陰謀論者によれば、1947年にニューメキシコ州ロズウェルで起きたUFO墜落事故で回収されたエイリアンの遺体が、現在もデンバー空港の地下に保管されているとのことです(運転手は、エリア51が注目を集めすぎたため、政府がそこから遺体を移動させたと説明しました)。空港への到着時、周囲をさっと見回してみましたが、地球外生命体の保管施設の気配は感じられませんでした。そこで、こんなことをしているよりも、旅先で時折聞こえてくる、株式市場や投資についてのまことしやかな俗説の否定に時間を使う方が、よほど意味があることに気がつきました。

俗説その1:経済と株式市場の関係

俗説の1つに、株式市場が好調であるためには経済自体が大いに好調でなければならない、というものがあります。これは単純に真実ではありません。2009年の米国がその例です。この年の米国の国内総生産(GDP)成長率はマイナス4.3%に落ち込みました1 。しかし2009年のS&P500種指数は、単純な価格リターンで23.45%、トータルリターンで26.46%もの上昇を記録しました2

経済情勢が多少弱い、あるいは非常に悪くても、金融緩和及び、経済や企業決算のプラスの方向でのサプライズなど、様々な誘因により株価が上昇することはあり得ます。そのため私は、株式市場の中でも「傷み」があり、期待値が低い分野に注目することを信条としています:そのような分野では、何らかのプラスのサプライズがあれば、大幅に上昇する可能性があるためです。

その例として、英国株が挙げられます。バリュエーションは非常に魅力的で―MSCI英国指数の株価収益率(PER)は12.86倍、予想PERは11.66倍となっており―平均配当利回りは3.64%と非常に堅調です3。今月末に発表される予算案をめぐって直近で神経質となる向きが多く見られ、またより長期では、構造的な逆風を背景に、英国経済の潜在力に対しマイナスの心理が働いていると考えられます。しかし私は、プラスの方向でのサプライズが起きる可能性があるとみています。予算案で、予想された程の高い税負担が盛り込まれていない可能性や、予算案の発表により不透明感を払拭すること自体が株価にとってプラスの誘因となる可能性があります。また、経済の面でもプラスのサプライズが起きる可能性があります。英国の消費者心理は最近低下傾向にありましたが、9月の小売売上高は予想を上回りました。また英国の失業率は直近3ヵ月で低下しました。加えて9月のインフレデータからは、イングランド銀行の今年の利下げ余地がより大きいことが示唆されており、これも株価にとってはプラスの牽引材料となります。

ユーロ圏の株式についても似た様相となっています。最近の購買担当者景気指数(PMI)は景気の弱含みを示唆していますが、インフレは大幅に低下しており、欧州中央銀行(ECB)の今年の利下げ余地がより大きいことが示唆されています。バリュエーションも比較的低く(MSCI欧州指数のPERが15.2倍 )、配当利回りは3% を超えています3。こうした環境下においては、増税及び関税引き上げの懸念があることから業績見通しが下方修正されたこともあり、欧州株は可能性を秘めていると考えます。今や期待値は更に低下しつつあり、プラスの方向でのサプライズの余地は間違いなく大きくなっていると考えられます。

俗説その2:金と株式の関係

もう1つの俗説は、金と株式が同時に良いパフォーマンスを示すことはないというものです。その背景には、金は通常「リスクオフ」の環境で良いパフォーマンスを示し、株式は通常「リスクオン」の環境で良いパフォーマンスを示すという考え方があります。確かに歴史的に見れば、投資家が「リスクオフ」の環境下で株式を敬遠し、「セーフヘイブン」資産クラスと見なされる金に群がったことから、いくつか例外はあるものの、金と株式の相関は低い、あるいは負の相関関係にありました4 。しかしパンデミック期間中にその状況は変化し始め、金は株式とより密接な相関関係を示すようになりました4

ここ数カ月、金は株式と非常に高い正の相関関係を示しています4。例えば先週金は再び史上最高値を更新し、1オンスあたり約2700ドルの大台を超えましたが、株価も先週史上最高値を更新し、S&P500種指数の終値で5864を記録しました5 。投資家は主に「リスクオン」のスタンスでポートフォリオを組んでいるようですが、同時に金へのエクスポージャーにより、(特に地政学的リスクについて)リスクヘッジを行っているようです。

これは分散投資の良い例です。投資家は「リスクオン」のスタンスで株価の上昇余地を享受しつつ、地政学的な不確実性や混乱から来る下振れリスクを金でヘッジすることで「リスクに備える」ことができるのです。とはいえ、金はポートフォリオの小さな構成要素の1つに過ぎません。私は、十分に分散投資を行い、株式との相関が歴史的に低い他の資産クラスへのエクスポージャーを取ることを選好します。

俗説その3:中央銀行の戦略

もう1つの都市伝説は、中央銀行が今後の動きを、金融政策決定会合のかなり前から決めているというものです。私はしばしば、米連邦準備理事会(FRB)会合での「討論」は全てパフォーマンスであり、各会合で何をするかは事前に決まっている、と考える人々に出くわします。これは、真実ではありません。

近年、FRBがデータに反応して何度も紆余曲折するのを目の当たりにしてきました。例えば2021年12月当時、FRBはドットプロットで、2022年末時点のFF金利を0.9%と予測していました6 。しかし、実際の2022年末のFF金利は4%超でした7 。これは、FRBを始めとする中央銀行がデータに依拠して判断を行っているためで、実際のデータが予測とは違っていたために起きたことです。

つい先週、クリストファー・ウォラーFRB理事は、FRBが9月会合で発表したドットプロットでの予測内容がいくぶん古いかもしれないと示唆し、「データを総合すると、私は金融政策において、9月の会合時点で必要とされたよりも慎重なペースで利下げを進めるべきだとみている」と説明しました。

これは他の主要中央銀行にも当てはまります。例えばECBのラガルド総裁も、ECBは政策方針の変更にあたってデータに依拠すると明言しました―ただし彼女は、「個々のデータポイントへの依拠」ではなく「データへの依拠」だと区別しており、ECBの政策変更が経済のトレンドに基づいて行われることを示唆しました。

ボーナス俗説:選挙と市場

もう1つの俗説はもちろん、選挙が市場に大きな影響を与えるというものです―米大統領選挙がもう2週間後に迫っていることを考えれば、まさに適切なトピックでしょう。選挙が短期的なボラティリティを引き起こすことは確かですが、長期的には市場に大きな影響を与えない傾向にあります。

例えば、米国では1929年以来、わずかな例外を除いて、S&P500種株価指数はほとんどの政権でプラスのリターンを記録しています。わずかな例外とは、フーバー、ニクソン、ジョージ・W・ブッシュといった、深刻な不況期に政権の終わりを迎えた大統領の時代です。1929年以降、その他全ての大統領の政権期間、株価は年率換算でほぼ10%以上上昇していますが、多くはその間に大きなボラティリティを経験しました8

また歴史的にみて市場が、政権与党の政策から期待されるようなパフォーマンスを示してきたわけではないという点も重要です。例えば2021年と2022年に、バイデン大統領はインフラ支出に多額の資金を割り当てる3つの大型法案に署名し、法制化を行いました。しかし、この法案成立を受けて2022年から非住宅建築物への米国の建設支出が大幅に増加したにもかかわらず、2023年、素材セクターと工業セクターは共にS&P500種指数をアンダーパフォームしました9

実際には、こと市場に関しては、歴史的に見て金融政策は、ホワイトハウスの主が誰であるかよりもはるかに重要です。例えば、S&P500種指数のパフォーマンスは金融政策サイクルと密接に相関しており、好調なパフォーマンスはFRBの引き締めサイクルの終了によってもたらされることが多くなっています。過去7回の引き締めサイクルのうち6回で、S&P 500種指数は、最後の利上げが行われた後の1年間で2桁の上昇率を記録しました10 。選挙に注目が集まってはいますが、歴史的に見ると、金融政策の方が市場にとってより重要だと言えます。

現在、選挙によって影響を受ける可能性のある市場分野の1つは、国債市場です。財政赤字と政府債務の総額が一部の国債投資家にとって懸念材料となっています。これが、多くの投資家が国債よりも金を「セーフヘイブン」資産クラスとして選ぶ理由だと考えられます。私は、財政規律は国債市場にとって実際にプラスになり得ると考えていますが、ここ数年、いずれの党もそうした題目を主張することができていません。

投資家の注意が逸れないようサポート

地球外生命体が存在するのか、はたまた長年のUFO隠ぺい工作があったのかなどに考えを巡らせつつ、長い車中の旅を過ごすのは楽しいものです。しかし、その話に夢中になって、デンバー空港発のフライトに乗り遅れるほどではありません。

残念なことに、株式市場や投資にまつわる俗説が投資家の判断に影響し、決断の再考や、ポートフォリオの成長ポテンシャルの見逃しにつながることがあります。私が本レポートで目指すのは、投資家が経済と市場で何が起きているのかを理解し、俗説ではなく事実に基づいて意思決定が行えるようサポートすることです。

今後の展望

今週のカナダ銀行(BOC)の金融政策決定には非常に興味をそそられます。私は、BOCは再び利下げを決定すると予想しています。カナダのインフレ率は比較的低く―先週発表された9月のコア消費者物価指数は、BOCの目標値の2%を下回りました。これは、直近の景気の弱含みと相まって、BOCが0.5%の利下げを行うのに十分な材料となると考えられます―今週利下げが決定されれば、現在の緩和サイクルにおいて4回連続の利下げとなります。その場合、最近のニュージーランド準備銀行による大幅利下げも手伝って、全体に緩和的な金融政策トレンドへの後押しとなるでしょう。大幅利下げは米国だけではありません。

重要な発表がいくつか予定されていますが、特にFRBの地区連銀景況報告(ベージュブック)は、米国を構成する12の連銀地区の経済状況について示唆を与えるものであり、注視したいと思います。またミシガン大学消費者信頼感指数や、経済活動に関する比較的タイムリーな示唆を与えてくれる多くの主要国のPMIにも注目しています。最後に、最新の英国消費者信頼感指数も発表される予定です―消費者は悲観的でも、むしろ前向きな消費行動を取ってきてはいますが。

注目の日程

公表日 指標等 内容
10月21日 米国景気先行指数 景気循環の重要な転換点と短期の
経済の方向性を先行して示す
10月22日 メキシコ経済活動指数 メキシコ経済の健全性について
示唆を与える
10月22日 米国リッチモンド連銀
製造業指数
製造業の健全性を示す
10月23日 メキシコ小売売上高 小売業の健全性を示す
10月23日 カナダ銀行金融政策決定会合 金利の道筋を発表
10月23日 米国中古住宅販売件数 住宅市場の健全性を示す
10月23日 ユーロ圏消費者信頼感指数 ユーロ圏の消費者マインドを追跡
10月23日 FRBベージュブック FRBの12の各地区ごとに現在の経済
状況に関する定性的情報を要約
10月23日 オーストラリア購買担当者
景気指数
製造業とサービス業の経済の健全性
を示す
10月23日 韓国国内総生産 地域の経済活動を測定
10月23日 日本購買担当者景気指数 製造業とサービス業の経済の健全性
を示す
10月24日 インド購買担当者景気指数 製造業とサービス業の経済の健全性
を示す
10月24日 ユーロ圏購買担当者景気指数 製造業とサービス業の経済の健全性
を示す
10月24日 英国購買担当者景気指数 製造業とサービス業の経済の健全性
を示す
10月24日 英国労働生産性 英国労働力の効率を測定
10月24日 米国購買担当者景気指数 製造業とサービス業の経済の健全性
を示す
10月24日 米国新築住宅販売件数 住宅市場の健全性を示す
10月24日 英国GfK消費者信頼感指数 英国の消費者の現在と今後12か月の
家計と経済に関する見方を追跡
10月25日 日本景気先行指数 経済指標を追跡し、今後の経済の
方向性を評価
10月25日 ドイツIfo景況感指数 現在のドイツの景況感を評価し
今後6カ月間の見通しを測定
10月25日 米国耐久財受注 現在の産業活動を測定
10月25日 カナダ小売売上高 小売業の健全性を示す
10月25日 ミシガン大学消費者信頼感
指数
消費者マインドとインフレ期待を追跡

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:米国経済分析局
  2. 出所:ブルームバーグ
  3. 出所:MSCI、2024年9月30日
  4. 出所:ブルームバーグ、2024年6月30日までの過去20年間で、金とS&P500種指数の相関は0。2024年10月14日時点の1年ローリング相関は0.9。2024年8月の金とS&P500種指数の相関は0.927で、2005年11月以降最も高い。
  5. 出所:ブルームバーグ、2024年10月18日
  6. 出所:FRB、2021年12月
  7. 出所:ブルームバーグ、2022年12月31日
  8. 出所:S&Pグローバル、2023年12月31日、バイデン政権下でのパフォーマンスは2023年12月31日までを加味。S&P500種指数のトータルリターンを株式市場のパフォーマンスとして定義。
  9. 出所:ブルームバーグ、2023年12月31日
  10. 出所:ブルームバーグ、2023年7月31日、FRBの利上げサイクル終了後の1年間のリターンは以下の通り:1984年8月:18.20%、1989年2月:18.90%、1995年2月:35.60%、2000年5月:-10.60%、2006年7月:16.10%、2018年12月:31.50%、2023年7月:18.23%。

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MC2024-131

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